487.第三回イベント、五日目・コトリさんレイドバトル2
コトリさんは焦っていた。
今まで余裕しかなかったはずの彼女だったが、すでに二度、確殺攻撃で殺されてしまい、これを挽回しようとするものの、一つ一つの攻撃が確殺攻撃じゃないかと焦り、今までの余裕は完全に吹き飛んでしまっていた。
冷静になるべきだと思いながらも焦りが彼女を突き動かす。
だぬ、そしてりんりん。確殺攻撃を行ってきた二人は速攻で倒すことを心掛け、見つけ次第他を放置してでも呪殺するようになった。
おかげで二人は近づいてこなくなったものの、今までよりもダメージが多くなった。
呪殺攻撃で死んでいたメンバーが生き残ってしまうため、余分にダメージを食らうのだ。
おかげでその一撃一撃が確殺ではないかと不安を覚えてしまう。
何とか攻撃を遠ざけたいが、エルダーリッチも引き離されており、別の一団が彼を食い止めている。
それだけならばまだよかった。
一番苛つくのは、プレイヤーの一部だ。
こいつら、自分の攻撃を放つさい、「確殺ッ」と必殺スキルのように叫んで攻撃してくるのだ。
おかげで一つ一つの攻撃に気を配らなければならなくなっている。
「あああああああああッ!!」
「焦りで狙いが甘くなってるぜ!」
「そらそら、確殺しちまうぜコトリさぁん!!」
「俺のは本当に確殺だけどなぁ!!」
ええい、ブラフっ。
よけ損ねた一撃に焦ったコトリさんだったが、それは確殺攻撃ではなくただの攻撃。
当たって焦った顔を見せたせいで、相手プレイヤーが醜悪な笑みを浮かべた。当然呪殺弾をそいつに集中して消し飛ばした。しかし、笑われた事実だけは消えやしない。
おかげで苛つきが増え、焦りが増え、動きに粗が目立ち始める。
「オオルァ!!」
「だぬ!?」
「はは、名前覚えてくれて嬉しいぜェ!!」
苛つく男の接近迄許してしまった。
なんとか道連れの範囲に入ってくる前に倒したが、完全に名前を憶えてしまったのがまた苛つきを増やす。
「ウァ!」
突然、光線が襲い掛かってくる。
遠くからグレートマンが放ってきた一撃だが、かなりな時間放出される攻撃だったせいで、射線に潜む敵が見えなくなる。
「呪殺ッ」
「ワンパターンだなコトリさん、そろそろ新しい動きを見せたらどうだ?」
光線の目くらましで近づいてきたキカンダーが特攻。
よけきれずに彼事吹っ飛ばされる。
転がりながらも受け身を取って立ち上がる。
その背後に、赫金の銃神ジェイク。
あっと思った次の瞬間には後頭部へとしこたま銃撃が襲い掛かる。
ダメージはない、ダメージはないが苛つきだけは天元突破してしまう。
「随分余裕がなさそうねコトリさんっ」
「マイネ!?」
「マンホールを食らえッ!!」
ボーリングを投げるようにアンダースローで放り投げられたマンホールが襲い掛かる。
跳ね上がるような一撃に、リンフォンが手から飛んでいった。
「っしゃ、リンフォン封じたぞ!」
まだだ、リンフォンは戻ってくる、だから……
「そして、背中ががら空きになるの」
気付いた時には遅かった。
首筋に煌めく銀閃。
逃げる暇すらなかった。
見た目のダメージは一切ない、しかし、HPバーが急速に消えていく。
確殺ダメージを食らったのだ。
気付いたからといってどうなるものでもなく、HPバーはまたも黒ずみ、全身の自由が消えていく。
第三形態迄も滅ぼされた。
ここから先は第四形態。
そして、死んでいいのはこの形態まで。
あと一度死ねば撤退しなければならない。
まだ、たった五日である。
十日は任せられる、そういってくれたヒロキに報いたかったのに、一番レベルが高い自分が半分の期間しかプレイヤーたちを足止めできないなど、そんな、そんなこと……
「殺す……」
立ち上がると同時にスキルを行使する。
「絶望の「確定スキル封印、絶望之大地ッ!」……」
今すぐ彼らを殺しつくしたい。
彼らへの怒りしかない。
呪わしい、呪わしい、呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪……
「異界のお」
スキルを唱えたつもりだった。
次の瞬間、目の前に飛び込んできた男の放った槍が、コトリさんの喉を貫いていた。
「悪いなコトリさん、俺も確殺攻撃持ってるんだ」
誰か知らない男が親し気に告げる。
せっかく復活したのにすぐ殺された。
許せない、殺してやる、殺して、殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺……
「ぬおぉ!?」
次に復活したらハメるように確殺するぞ、とコトリさん周辺に確殺スキル持ちが集まりだした時だった。
彼らの目の前にある空間から、唐突に何かが現れる。
空間を割り砕くように、角ある獣がプレイヤーたちを弾き飛ばす。
「な、なんだ!?」
「お、おい、嘘だろ、これ……ティンダロスの、猟犬?」
「殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺……」
「しまった、コトリさんが復活し……なんかブチ切れてね?」
「ちょっと調子に乗ってやり過ぎたか!?」
しかし、コトリさんとの闘いはそれ以上行われなかった。
現れた青き角の獣がコトリさんとプレイヤーたちの間に割り込み、にらみを利かせ始めたのだ。
「そこまでだコトリ」
「ふざけないで、こいつらを殺さなきゃっ」
「四度目の死だ。撤退と聞いている。無理矢理にでも連れ戻せ、とな。それとも、仲間を減らしてヒロキの負担を増やしたいのか?」
「……退きます」
なおもプレイヤーたちを呪い殺しそうな顔で睨んだコトリさんだったが、角ある王に促され、スタート地点からの撤退を決めたのだった。




