486.第三回イベント、五日目・コトリさんレイドバトル1
「呪滅結界ッ!」
五日目開始と同時に、コトリさんが叫ぶ。
すでに余裕を見せていないのは、プレイヤーたちを警戒しているからだ。
四日目に確殺攻撃を食らって以降、コトリさんは焦っていた。
運営側から使わないでくれと言われていた絶望之大地も遠慮なく使って四日目は凌いだものの、今回もだぬが存在しているし、未知なるモノもまた参加している。
「絶望の「確定スキル封印、絶望之大地ッ!」チィッ」
予想はしていた速攻で封印され、スキルが使えなかったことに思わず舌打ちする。
「聖句箱、リンフォン、コトリバコ」
「おいおい、最初から全開ですかぁコトリさんよぉ!」
「呪殺っ!」
前回同様、タンク役を周囲に侍らせ、だぬが駆け寄ってくる。
近くの敵を確殺する道連れだが、別にどこでだぬが死んでも発動する、という訳ではない。
あくまで一定以上近づいた状態の敵に対して有効なのだ。
そして、だぬが必死に近寄ってこようとしていることから有効判定はほぼ直近。つまり体が触れるかどうか位の近くでなければ道連れの効果範囲外となるはずだ。
なので、だぬが近づいてこないよう必死に周囲の壁を駆逐する。
しかし、プレイヤーたちもすでに歴戦の部類に入る猛者が沢山いる。
何よりイベント参加中プレイヤーの数は数千、数万に上っている。
その一部がだぬを守っているわけで、ただ数十体倒せば引き剥がせる壁ではないのである。
「くたばれぇッ!!」
「はっ、まだまだァッ!!」
呪殺の弾丸をひたすらに打ち込んでいく。
壁が幾人も消え去っていくが、新たな肉壁がだぬまで攻撃を届かせない。
「そらそら、二度目の確殺行っとこうかぁ!!」
「だぬさんっ!」
「っ!?」
だぬがワザと自分に呪殺弾を食らった瞬間だった。
死ぬ直前にコトリさんとだぬの間に割り込むエルダーリッチ。
コトリさんも想定していなかった様子で、「あっ」と驚いた様子でその光景を見る。
ダヌの道連れが発動し、エルダーリッチという、一番近くにいた敵が消失する。
「やられた!?」
「あのエルダーリッチ、あそこで庇うのかよ!?」
「せ、聖句箱!」
コトリさんは驚きつつも即座に聖句箱を発動。エルダーリッチが再び出現する。
何度死のうと彼はコトリさんが生きている限り復活する。
なぜならば、彼の魂は聖句箱の中。つまりコトリバコの中に存在しているため、体が何度滅びようとも聖句箱ある限り復活するのである。
エルダーリッチを滅ぼすにはコトリさんを滅ぼさねばならず、コトリさんを滅ぼすには永遠に復活するエルダーリッチが庇ってくる状況をなんとかして確殺攻撃を当てなければならない。
「やるじゃないリッチく……?」
安堵の息を吐いてリッチを褒めようとしたコトリさん。
その体に、とすっと不思議な感覚が生まれる。
ふと気づけば、心臓付近に矢が突き立っていた。
ただの矢。そのはずだった。
しかし、急速に全身の力が抜けていく。
格ゲー少女により生まれた頭上のバー、HPを表す緑のバーが急速に消えていく。
「あ、れ?」
「一撃必中確殺攻撃……いや、ほんと当たるとは思わんかった」
はるか後方、弓使いの少女が驚いた顔をしつつも拳を握るのが見えた。
全身の力が抜け去り、視界が黒く染まっていく。
ああ、また、死んだ……
コトリさんが倒れるのを見届け、弓使いの少女は近くにいた別の少女とハイタッチ。
「りんりんやったある! 皆勤賞あるよ!!」
「それを言うなら第一勲功とかじゃない? ヒロキさんには悪いけど、コトリさん撃破、貢献させて貰うんだから! そして勲功でレムさんと……うへへ」
「呆けてる場合じゃないある! ほら、コトリさん復活するあるよ!」
「おっけーレイレイ、命中率低いけど、この確殺一射で一撃必殺狙ってやるわ! 下手な鉄砲数撃ちゃ当たる戦法よ!」
少女が再び矢を番えたところで、コトリさんが復活する。
第三形態へと移行したコトリさんが苛つきを押さえきれないらしく、りんりんをギロリと睨む。
「コトリの呪い」
「わひっ!? あ、なんか呪われた!?」
「闇への誘い」
反撃とばかりに唱えられた連続スキル、りんりんはそれを把握した次の瞬間には死に戻っていた。
「汚染地帯ッ!」
「コトリさんの新スキルだ! 全員警戒しろ!!」
「冗談じゃない、こんな、こんな簡単に私が殺されるなんてッ!! 堕落の吐息!!」
コトリさん周辺が黒く汚染されていく。
さらにコトリさんの吐息に堕落付与の属性が混じる。
「あ、嘘、私のテイム天使が堕天使に!?」
「ちょ、近づいただけでHPが減りだ……」
コトリさん周辺に近づいた天使キャラや聖属性キャラが堕落を始め、他のメンバーもまた、コトリさんに近づくほどにスリップダメージを受け始める。
戦いは新たなステージへと進み、コトリさんがさらに強化された状態での戦いとなっていた。




