485.第三回イベント、四日目・余裕はすでになく
何が、起こった?
コトリさんはしばし、呆然と空を見上げていた。
自身のHPバーはすでに0を指し示し、体の力は抜けきっていた。
いや、何が起こったかは理解している。
負けたのだ。
あまりにもあっけなく、余裕でいたがゆえに、プレイヤーの一撃で殺された。
ヒロキから常に最悪を考えて動く予定だから一応伝えておくけど、とこれからのことを伝えられたが、話半分だった。
どうせ自分は十日間プレイヤーたちとスタート地点で遊んで、彼らを見逃して撤退してあげるのだ。
その後はランダムエンカウントに変えて、いろんなところに顔を出して適当にプレイヤーを倒しておけばいい。
その程度に考えていた。
プレイヤーの総攻撃を受けても考えは変わらなかった。
どうせどれほど頑張っても第一形態を削り切るのは十日前後、それなら七つの御霊で何度も復活できる自分は最後まで生き残る、だからヒロキの傍で最後は彼を守り切ろう、そう思っていた。
ヒロキだって言っていたではないか、プレイヤーは不思議なスキルを手に入れる奴がいるだろうから、常に最悪を想定しろ、と。
「ああ、最悪」
起き上がる。
感慨にふけるほど、ふつふつと怒りが湧き上がる。
それは自分を倒したプレイヤーに、あるいは群がる敵たちに、いいや、慢心しすぎてこんなに早く一度目の死を迎えた自分自身にだ。
「あなたたちを見くびっていたこと、お詫びします。だから……」
エルダーリッチ召喚。神眼発動、コトリバコ放出、リンフォン開始、そして……
「絶望之大地」
「え?」
「ちょ、またこれか!?」
「おい、これ封印したんじゃねーのかよ!?」
「あいつ昼からだ。今回ログインしてねぇ!」
「くそ、コトリさん一回死んだ扱いになるから封印解除されたのか!」
「があぁ、近づけねぇ!!」
次々に死んでいくプレイヤーたち。そこから先は、もはやなすすべのない絶望がスタート地点を覆いつくした。
「っ!?」
これで終わりだ。そう思っていた。
なのに、コトリさんの腕に何かが噛みついていた。
そのまま、肉を食いちぎる。
「貰ったぜコトリさん。捕食、開始ッ」
近くで気配を殺していた未知なるモノが動き出す。
「お、前はッ!?」
また慢心だ。
絶望之大地を使えばプレイヤーは今回をあきらめる、誰がそんなことを決めたというのか。
慢心したがためにまた一つプレイヤーにしてやられた。
「っしゃ、呪殺反射ゲット! これで対等に戦えるなコトリさん!」
「一番危険なのはあなたみたいね」
他のプレイヤーはすでに無限キルに入っている。
唯一、このフィールド内での耐性を得てしまった未知なるモノだけがコトリさんと対峙出来ていた。
エルダーリッチが魔法を唱えて未知なるモノへと攻撃を仕掛けるが、そのこと如くを難なく避け、コトリさんへと襲撃を始める未知なるモノ。
もはやエルダーリッチはいないものとして、あるいはただの邪魔なギミックだとばかりに無視してコトリさんだけに執拗に攻撃を与えてくる。
「貴方一人じゃっ」
「知ってるさ。こいつは肩慣らしってやつだ。明日を楽しみに待っとけコトリさん、七つの魂、確実に削ってやるよ!!」
「できると思うな人間風情がッ!!」
「お、本性でたか? 目が真っ黒になってるぜコトリさんっ」
ちょこまかと逃げながらちまちまと攻撃を仕掛けてくる未知なるモノ、その動きがいちいち癇に障る。
ダメだ、熱くなるな。そう思うのについつい相手の一挙手一投足に反応してしまう。
時間終了になるまで、二人きりの激闘はずっと続くのだった。
ところ変わってルート一。
蛇々利を前にして、このルートを選んだプレイヤーたちは全員後悔していた。
勝てない。というか蛇々利が一度も失敗しない。
マインスイーパーなど最初の一つ目で爆散することだってあるのだ。
何しろ何も解放されてないマス目を一つ一つ押して調べていくのだから。
その最初の一回での失敗すら、一度もない。
そして蛇々利さん戦闘開始から二日連続、プレイヤーたちはマインスイーパーだけを行い、時間になると同時にイベント会場からしめだされることとなるのだった。
第二ルートを通ったプレイヤーたちはそれでも戦いにはなっていた。
メリッサを見つけてはペイント弾を発射するものの、天性の勘か、ものすごい反射神経で避けるし、逃げるし反撃してくる。
連射式すら避けて見せた彼女には、もはや敵う気がしなかった。
それでも、一度だけよけ損ねて今は黄色いペイントがべったりとついている。
ただ、的は一つも濡れていないので、実質プレイヤーの勝利には結びついていなかった。
そして第三ルート。
インディアンポーカーをしながらアスレチックコースを攻略するという無謀極まりないゲームをさせられているプレイヤーたちは、泥まみれになったり、カードを自分で見てしまい失格になったりと、次々に死に戻っていた。
最後の一人も結局両手を使おうとしてカードを見てしまい、失格。死亡扱いになりスタート地点へと戻っていった。
「あーあ。脱出っていってんのにだーれも脱出しないしぃー、つまんないのー」
そして一人、アスレチックコースゴール地点で暇そうにしていた散紅だけが、残った。




