表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

487/1111

484.第三回イベント、四日目・絶望は、未だ終わらず

 その刹那、全てのプレイヤーが、動きを止めて見つめていた。

 一人の英雄がその身を賭して行った伝説級の偉業。

 ゆっくりと倒れ伏す黒き少女。その頭上に存在するHPバーは0を指し示し、緑色だった体力バーは漆黒に代わっている。


「死ん……だ?」


「え? いや、え? マジで?」


 誰も彼も、それがどういう理由を指し示しているか、しばらく理解できなかった。

 本来それを目指していたにも関わらず、実にあっけなく、たった一撃で行われた偉業に、彼らの誰も、認識が追い付けなかったのだ。

 代表するように、一人のプレイヤーがコトリさんに近づく。

 そっと剣で体をつつく。

 身じろぎすらしない。

 HPは0、ガッツが発動した感覚もない。

 確実に、死んでいる。


「勝っ……た?」


「嘘だろ、コトリさんだぞ!?」


「道連れ……? なにそれ知らない」


「勝った。勝ったんだよな! 俺ら、歩くラスボス倒したんだよなっ!!」


 絶望的な戦いから解放された。

 徐々に理解し始めたプレイヤーたち。

 一人の男が、拳を突き上げる。


「俺たちの、勝ちだーっ!! 見てたかヒロキーッ!!」


「あ、う、うおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」


 吠えるプレイヤーが出始め、ようやく勝利を確信したプレイヤーたちが強敵の撃退に勝利を噛みしめる。

 その嬉しき咆哮は、しばし鳴りやまなかった。


「さすがだぬさん! やっぱ頼りになんぜ!」


 死に戻って来ただぬを見つけ、近づいてきたプレイヤーたちは彼を胴上げし始める。

 まんざらでもないだぬ、しかし、ふと気づく。


「お、おい待て。ちょっと待て、落ち着け!」


 ただ事ではないと気づいた皆は徐々に彼の胴上げを止め、地面に降ろした。


「どうしたんだよだぬさん?」


「いや、呪滅結界だっけか、アレが消えてないだろ、おかしくね?」


「あ、そういやまだ結界消えてないっすね」


「それだけじゃねぇ」


 だぬは気付いた。

 気付いてしまった。

 だから、声に出そうとして、喉から先に出てこない。

 全身が震えてくるのが分かった。


「な、なぁ……なんで、消えて、ねぇんだ?」


 周囲のプレイヤーは小首を傾げる。

 そりゃそうだろう、何を言ってるのか理解できないのだから。

 消えるとは、何が消えるのだろう。

 そう考え、だぬの視線の先を見る。


 そこには、コトリさんの死体があった。

 事切れた少女の遺体。そう、死ねば光となって消えるはずのNPCが死体としてそこにあった。

 それは、異常だ。ありえない異常だ。そして、だぬは知っていた。


「まだだっ! 終わってねぇぞ! 全員戦闘態勢! 形態変化ボス特有の状況だっ!!」


 は?


 その場の誰も、理解できなかった。

 だが、本能的に、武器を手にしてコトリさんに視線を向けた。

 そして、絶望した。


 先ほどまで倒れていたはずのコトリさんが、立っていた。

 音もなく、いつの間にか立っており、俯き加減でそこにいた。


「嘘、だ。死んでたはずだ。HPだって0だっただろ?」


「確殺ってガッツ効かないんだよな、なんで、何で生きて……」


「馬鹿野郎! 生きてるんじゃねぇ! 一度死んだんだよっ、第二形態持ちは死んだ後に……強化されて甦るスキルだっ!!」


「なっ!? あ……強化……?」


 コトリさんのHPバーが黒から赤、黄色、そして緑へと増えていく。

 格ゲー少女により現れたHPバーの上にある、名称も変化していた。

 コトリさん、からコトリさん第二形態、へと。


「け、検証班より連絡。コトリさんの黒塗りスキルが一つ、いや、三つ解禁っ、え、ええと、一つめは聖句箱? 二つ目は七変化。それから……七つの御……霊?」


「七、つ?」


 コトリさんの近くに、黒い渦が巻き起こる。

 そして、エルダーリッチが現れた。

 咆哮と共に魔法を周囲に振りまき、攻撃を開始する。


「な、なんだありゃ!?」


「せ、聖句箱のスキルだ! コトリさんが存在する限り何度でも甦るエルダーリッチを使役するって」


「ラスボスが中ボス無限呼びするようなもんか!? 無理ゲーじゃねぇか!?」


「え、エルダーリッチ迎撃組、早急に編成してくれっ! コトリさん迎撃と同時進行するぞ!」


「追加情報です、七変化は倒されるごとに強くなるスキル、それから、七つの御霊は……其れは七度滅ぼされても復活する。つ、つまり……コトリさんは八回殺さないと、倒せないっ!?」


 プレイヤーたちの絶望は、どう表せばいいのだろうか?

 皆、一瞬思考を放棄した。


「うろたえるな小僧共ッ!」


「だ、だぬさん?」


「お前ら見たよな? コトリさんは倒せる! 確殺攻撃は道連れだけじゃねぇはずだ!!」


「っ!?」


「奥の手だと隠してる奴もいるだろう。だが、やるべき時にやらねぇでどうする! ここがテメェらのやるべき所じゃねぇのかよ! あれ以上危険な存在がいるってか? 宝の持ち腐れでいいのか! 少なくとも、使えば倒せる、目の前の絶望をよ、倒した実績、欲しくはねぇか?」


 拳を握るだぬの言葉に、絶望に沈みかけたプレイヤーたちに火が灯った。

 先ほどまでの思考放棄はもういない。武器を手に持ち決意に燃えたレイドボスハンターたちが、そこにいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ……もしかしなくても運営よりヒロキの方がゲームバランスわきまえた采配してるなぁw
[一言] 半端な希望ほどヤバそう
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ