483.第三回イベント、四日目・その一撃は、何よりも尊く
「呪滅結界」
本日も、開幕呪滅結界によりスタート地点に縛られるプレイヤーたち。
一部プレイヤーが結界が張られる前に三つのルートに向かったモノの、その数は前回と大差なかった。
「っし、全員コトリさんに攻撃加えながら聞いてくれ!」
そう濁声を張り上げたのはダヌ。
いかつい顔のおっさん姿で現れたプレイヤーは、手甲と片胸だけを覆う皮鎧だけを装備し、武器は一つも持っていなかった。
確かに、このほのぼのゲームは現代型のゲームなのでスーツやランドセル姿でも問題はないのだが、彼は異世界で魔王退治の冒険でもしているような装備、そして冒険者ギルドで新人登録者に一番最初に絡んできそうな容姿をしていた。
「ともかく俺をコトリさんの元へ届けてくれ。届きさえすれば俺がコトリさんを倒す。約束すんぜ! お前らに、いや、俺たちの勝利を!!」
拳を握り力説するだぬ。
その勝って当然といわんばかりの態度に、皆不思議とやる気が湧いてくる。
「今回は僕も学校休んで朝からやります、絶対に勝ちましょう!」
「ちょ、案内人君、さすがに学校には行こう」
「あ、あの未知なるモノさん、わ、私もその、学校には行ってない、です」
「お、おぅ、すまん?」
格ゲー少女も案内人も未知なるモノもマイネマイネも、前回コトリさん戦で活躍したメンツが揃っていた。
マイネさんだけは見学で活躍はしていなかったが、今回正義の味方三人を引き連れての参戦だ。
前回までは一度死んだ時点でその日は復活できなかったこともあり、瞬殺ばかりで活躍できなかったが、今回は命を大事にを目標に手伝う気満々だった。
「んじゃま、全員準備はいいな、行くぜ!!」
「盾部隊突撃! だぬさんを届けろ!!」
「遠距離部隊、放出準備! ツアーコンダクター、行きますっ!!」
「ダメージエフェクト!」
四日目の激戦が始まった。
タンク役となった盾持ちプレイヤー、あるいは肉体のみで防御するプレイヤーたちが壁を作り、一丸となって突撃する。
その中央にだぬが陣取り、共に突撃。
一部はコトリさんの呪殺で死に戻るものの、ツアーコンダクターにより絶えずコトリさんへと飛んでくる魔法や矢、遠距離スキルの連撃で攻撃にタイムラグが発生する。
少しずつ遅れる攻撃のおかげで、タンク部隊は次々削られつつも徐々にコトリさんへと近づいて行った。
「亡者の誘い」
「ダイスケ!」
「任せろっ!! ぐあぁぁぁっ!?」
「すまん……」
「タツキ、後はまかせ……」
笑顔でサムズアップしたダイスケが死に戻る。
ここがスタート地点ではあるが、死に戻りが現れる場所は戦場の後ろ側。
最前線に戻る頃には突撃部隊は突撃を終えているか瓦解しているかのどちらかだろう。
「あと少しだっ、気張れタンク共ッ!!」
闇への誘い、あるいは深淵の捕食により次々に脱落していくプレイヤーたち。
だぬを守っていた人の壁も徐々に薄くなっていく。
「クソ、頼んだ」
「俺が前にで……がぁぁ!?」
「クソ、だぬさんをやらせるかァッ!!」
死力を尽くし、直届かない。
あと一歩、そこでだぬを守る壁は一つとなった。
すでに目の前、コトリさんと視線が合う。
「呪殺」
「があぁ!」
呪殺を受けたタツキを押しのけ、だぬは手を伸ばす。
あと数ミリ、それだけの距離で……
「呪殺」
呪いの弾丸が彼へと放たれた。
「ま、だ、だァッ!!」
押しのけられたはずのタツキ、その場で踏ん張り手を伸ばす。
だぬの眼前に迫った呪いの弾丸を、その手のひらで受け止めた。
食いしばりスキルにより生き延びたたった1の体力が消し飛ばされる。
タツキの二度の防御を供物に、だぬの腕がコトリさんの肩へと触れた。
「呪殺」
が、それまでだった。
「だぬさん――――っ!?」
何か策があるのかと思えただぬは無防備に呪殺の弾丸をその身に受け、HPを一瞬で蒸発させられる。
「くく、殺したな、コトリさんよぉ」
「? あなた、何で消えてない?」
「スキルが発動したのさ。これは一言だけ残すための間って奴さ」
「どういう?」
「ヒロキぃ、見てるかぁ! テメェの大切なコトリさんは俺が寝取ってやんぜェ! 一緒に逝こうぜコトリさァン、俺のスキル、道連れでなァ!!」
「ッ!? しま……」
そのスキルはコトリさんも知っていた。
アイネさんなどが覚えたスキルだったからだ。
その効能は……死亡確定時、一番近くにいる敵に確殺攻撃を行う。
ただの即死ではない。即死耐性持ちも、食いしばりスキル持ちも、まとめて確実に、死亡判定へと持ち込む極悪スキル。それが確殺攻撃。
そして道連れは、死亡するとき、一番近くにいる敵だけをターゲットとする。
すでに肩を掴まれ、相手は死亡確定。逃げ場など、なかった。
だぬが光へと変わり死亡すると同時、コトリさんの頭上に浮かんだHPバーが緑を失い、黄色、赤、さらに全て漆黒へと変わっていく。
そして、黒い少女が、その場に倒れ伏した……――――




