481.第三回イベント、三日目・出し抜くもの
イベントは三日目に突入した。
現実世界では一日目の夜から深夜帯。
現実世界の0時から2時までの間ということもあり、寝る前に暴れていくメンツがログインしてくる。
が、ヒロキとしては本日はそこまで追い込まれることもあるまい、とそうそうにログアウトしてテイムキャラたちにお任せすることにした。
本日はぐっすり夢の中である。
そんなことなど知る由もなく、深夜にログインしてイベント三日目を体験するメンバーたちは、開始直後に現れたコトリさんと対峙すべく、あるいは、結界が張られる前に事前に打ち合わせたメンバーが次の場所へ向けて走り出す。
コトリさんを出し抜きさっさと先に進もうというメンバーが、少なからず次のステージへと走り去ってしまったのである。
なので、コトリさん討伐メンバーも幾分減ってしまっていた。
さすがに出し抜いた者たちは数が少ないのでそこまで戦力ダウンというわけではないし、死に戻った後はこちらに参戦するだろうことはわかっているので士気が下がるわけではない。
それでも、ちょっとだけ、してやられた感はある。
なにしろ自分たちはコトリさんに足止めされているのに、出し抜いた奴は次のステージを見ることができるのだ。
未だにスタート地点から動けないでいる者たちにとってはイベントを進めてしまおうとしている奴らはうらやまけしからん存在なのであった。
「すいません、二日目出られなくて」
「おぅ、案内人、今回は指揮任せるぜ」
「えぇ!? そんな大役を僕が!?」
「大丈夫、気楽に行こうぜ相棒、そら、コトリさんがお待ちかねだぜ!」
「は、はい、ではさっそく! 数多のモノよ、此へ集え!!」
昼までの散漫とした攻撃はかけらもなかった。
一点集中スキルに乗せて、無数の必殺技がコトリさんへと襲い掛かる。
ダメージ自体はそこまでないものの、煩わしいことに変わりはない。
それでも、コトリさんは余裕の顔を崩しはしなかった。
多少ダメージ比率が上がったところで大差はない。
この調子であと六日は持つ。
多少本気を出せば十日まで持たせることも可能だろう。
だから、気にすることなく余裕で相手をできる。
未だ、コトリさんの優位はゆるぎなく、スタート地点のプレイヤーたちは結界に阻まれ続けることになるのだった。
さて、ならばコトリさんの結界が張られる前に出し抜いた者たちはどうしたか、といえば、森の中を行けばアイネさんに狩られることは二日目の時点でわかっているため、彼らは常道である三つのルートに分かれて向かうことにしたのである。
一つ目のルートには30名のプレイヤーが、二つ目のルートには32名のプレイヤー、三つ目のルートには27名のプレイヤーたちが向かっていた。
他にも数名、出し抜いて結界の外に出られたプレイヤーもいたのだが、彼らは独自に周辺調査を行い始めたため、ルートへ向かうことはしなかった。
ただ、森にも向かったものが数名いたため、森の奥から羽音と悲鳴が聞こえたのはそれからすぐ後のことだったとだけ、伝えておく。
「おし、一番乗り!」
「広い場所に出たな。ここは慎重に行くぞ!」
「待て、誰かいるぞ?」
一つ目のルートにやって来たプレイヤーたちがルートの先にあった少し広い場所へと至る。
そこに、一人の少女が待っていた。
目元に濃い隈を作った猫背の少女がにちゃりとほほ笑む。
「いらっしゃい哀れな贄の皆さん。ここは私、生島蛇々利こと蛇々利さんのゲーム会場となっております」
「新キャラか?」
「NPCだろ。運営側の刺客じゃね?」
「失敬な。私だってヒロキさんの女ですよ。なので、闇のゲーム、発動!」
広場が塗り替えられていく。
慌てふためくプレイヤーたち全員を巻き込み、蛇々利さんによる六時間耐久マインスイーパーが始まるのだった。
二つ目のルートをやって来たプレイヤーたちも、時を同じくして広場へと辿り着いていた。
そこに待っていたのは金髪の外人娘。
ハーイ、と朗らかに挨拶してきた相手に毒気を抜かれたプレイヤーたち、その一瞬を突き、メリッサさんもまた、闇のゲーム、ペイントショットを発動させていた。
三つ目のルートをやって来たプレイヤーたちにも、同じように一人の少女が対峙する。
彼らは油断なく武器を構え、相手が何者かと誰何する。
広場にポツンといた少女はスカートを持ち上げ優雅にカーテシー。
「ごきげんよう、コトリさんにかなわないと知るやさっさと諦めてここに逃げ込んできた負け犬の皆さーん。ここは月下散紅担当のゲーム会場ですよー。戦う力を持たないいたいけな少女に集団で囲って武器向ける、人として終わってる屑さんはどいつかなぁー? 闇のゲーム発動しちゃうけど、どうする、私殺しちゃう? なーんの武器も持ってない少女相手にそんなことしちゃうんだぁ、えげつなーい、人の心持ってないのー?」
さすがにそんなことを言われて斬りかかるのはためらわれたのか、誰も動かないことを確認し、少女は嗤う。
「あはっ、なぁんだ、挑発されても攻撃すらできない去勢犬しかいなかったかぁ。じゃ、遠慮なく闇のゲーム、始動っ。アスレチック脱出インディアンポーカーだよー。あははははっ」
三者三様、闇のゲーム所持者によるプレイヤー強制巻き込みゲームが始まった。




