455.絡繰り対決
指先に輪を付け、結わえた糸を操っていく。
人形が糸に連動して動き、相手の人形と剣撃を交わす。
正直いえば、拙い。
自分の体で戦う訳じゃないからどうしても反応にタイムラグが生じるのだ。
それでも、相手の人形師の動きに、芽里さん操る人形は着いていけていた。
おそらくだいぶ手加減されているんだろう。
じゃないと今までと違って一体のみを操っている人形の動きが多数の人形が操られていた時よりゆったりな理由にならない。
いや、むしろこれは……指導する、動き?
苦戦して追い込まれ始めている芽里さんだけど、相手の動きをしっかりと見て対処、次に同じ行動をした時に先手を打てるように必死に学習しているのが分かる。
相手もそれを目的にしているようで、芽里さんが隙を見せる様子があると、一度距離を取って休憩を挟んでいる。
この人形師さん、意外と良い魔族なのでは?
それからしばし、対戦というなの指導が行われ、芽里さんが倒れるまでソレは続いた。
「えーっと、これは、芽里さんの指導とか、やってくれると思っていいのかな?」
芽里さんが倒れると、動きを止める人形師が操る人形。
俺は呪殺結界から一人跳び出し、人形に尋ねる。
人形は……ゆっくりと腕を上げ、指さした。
どうやらそちらに向かえということらしい。
俺は芽里さんを抱え上げる。
コトリさんも戦闘が終ったと理解したらしく呪殺結界を解いて近寄ってくる。
「皆、こっちだって」
「相手の望むまま進んで大丈夫です?」
「芽里さんを殺そうと思えばいつでもできたはずだ。対戦相手の人形に夢中になってる隙にすぐ後ろに転がっていた人形を操れば奇襲して殺せたからね。それをせず教導してくれてた時点でここの人形師は敵対存在じゃないよ」
「なるほど」
ま、最悪不意打ちで殺されたとしても、復活後に全員でお礼参りすればいいだけだし。
そんときゃ容赦しねぇがな。
「ん、あそこ、扉があるな」
「結構奥まった場所ですし、人形師さんがいらっしゃるのかもしれませんね」
と、いう訳で、とりあえず扉の前に来た俺たちは、キマリスさんを前面に押し出す。
「ん? なんでボクが開けるの? 少年君がやればいいじゃん」
「これ見ろこれ、俺は芽里さん抱えてるんだよ。頼むよキマリスさん。よっ、俺らの代表」
「えー、もう代表とかしょうがないなぁ」
仕方ないとかいいながら扉を開くキマリスさん。
その顔面に、人形の拳が突き刺さった。
おおぅ、やっぱりトラップ残ってた。
「ぎゃふんっ」
地面に倒れたキマリスさんがなんか言った。
古いなぁ、リアクションが。
「ちょ、攻撃はされないって言ったじゃん少年君!」
「侵入者用トラップがないとは言ってないぞ? 多分最後のいたずらだね」
「この野郎、知っててボクに行かせたなぁ!」
「キマリスさんいつもありがとー。俺すっごく助かってる」
「むぅぅ……そ、そっかなぁ?」
チョロい。
チョロすぎるよキマリスさん。
「えいっ」
トラップ用の人形をルルルルーアさんが撤去して、俺たちは部屋へと入る。
「やぁ、ま、待ってた」
フードを被った誰かがそこにいた。
人形が大量に、そして無造作に置かれた部屋の中、人形に埋もれるように存在していたそいつは、俺たちを歓迎し、そして……無言になった。
「え、っと、それだけ?」
「ほ、他に何を、言えば?」
びくっと驚くフードの魔族。どうやらコミュ障らしい。
「んじゃま、改めて初めまして。俺はヒロキ。こちらはテイム済みの皆さんだ」
「ん。ヒロキと愉快な仲間たち、だね」
ぼそりと告げた言葉にキマリスさんが反論しようとするけど、ややこしくなると気づいたカルカさんに口を塞がれ拘束された。
それをなんとなしに見送った人形師は、視線を俺が背負ったままの芽里さんに向ける。
「こ、ここに来た目的、その娘、だね?」
「ああ。そんなところだ。良かったら絡繰りの操り方とかアドバイスお願いできるかな?」
「あ、あまり人に教えるの、苦手」
「それはわかってるんだけど……あ、そうだ。この人形、直したりできない?」
メリーさんの残骸を持っていたコトリさんが人形師に近づき、手渡す。
「これ……すごい、ただの人形じゃない。もう少しすれば自分で動き出すかも」
あー、やっぱりメリーさん自身も自我に目覚めちゃうタイプだったか。
何度も芽里さんの生霊が入ってたから可能性はあるかと思ってたけど、ついにメリーさんも覚醒の時が近いらしい。
「修繕、してみる」
「何か必要な資材があれば持ってくるけど?」
「ん……なら、進化先を決めて」
進化先?
「人形にも進化はある。外装の強度を上げる、呪物を組み込み呪いの人形にする、神を下ろし偶像にする、機械を組み込み兵器にする。他にもいろいろ」
「あー、それは芽里さんに選択して貰った方がいいかな」
という訳で、芽里さんが気絶から起き上がるまで待つことになった。




