451.とばっちり
ナァマさんに蝙蝠みたいな翼が生えた。
空中戦に移行した戦いは、ルースさんとナァマの一騎打ちになったんだけど、ルースさんの方がどうにも不利らしい。
相手魔王でルースさんはただの天使見習いだからかな?
ともかく、今のままだと敗北濃厚。
空中戦ができるメンバーがあと一人欲しいところだ。
「コトリさんメカニカルベアは!?」
「残念だけど出てこなかったわ。今回出撃可能数めいっぱい出したけど出てくる魔物はランダムみたい」
なんて役に立ちにくい召喚術。
これなら魔王召喚の方が……確かに俺召喚陣使えるけども、今じゃないよな。
って、芽里さん!?
まさかの芽里さんが空中を駆け上がっていく。驚く俺とコトリさんを放置して、鎌を携えた芽里さんが突撃する。
「おっと、あぶないっ」
剣のように鋭く尖った爪ではじき、ナァマはニヤリと笑みを浮かべる。
が、反撃の爪撃は、飛び上がった芽里さんの真下を通り抜けてしまった。
「跳んだ!? 空中で!?」
「ふふ、さすが剛糸ね。行くわよ、捕縛陣ッ!」
「ちぃっ」
そういうことかっ。
芽里さん、このステージのそこかしこに糸を張り巡らせることでこれを足場に移動してるのか。
だから空中を歩くような移動ができるし、空中に張った糸を足場にジャンプもできるんだ。
しかも微妙に暗いこの戦闘フィールドではちょうど糸が溶けるように消えて見えるので、ナァマも気づけてないらしい。
捕縛糸が絡まるのをぎりぎり避けたナァマさんだったが、右の羽だけ躱し損ねた。
その場で急制動がかかり、一気に顔が焦りを見せる。
「チャンス、ルルルルーア! 次は味方に当てるなよ!」
「的が動かないならっ! 七年殺しッ!!」
「がぁっ!? ぐっ、ゆ、誘惑っ」
おっと俺には効かな……
「ぎゃーすっ」
俺の隣にいたキマリスさんがふらふらっと突撃していき、ルルルルーアさんの七発目の攻撃を自ら受けに行った。
キマリスに誘惑スキル使ったのか、意外と必死だなぁ。
「ああもう、降参っ。こうさーんっ、ほら、倒れた。ナァマさんは倒されたーっ」
これ以上は本当に死にかねないと思ったのだろう、爪で糸を切り裂き拘束を逃れたナァマさんは両手を上げて地面に降りてくると、その場でパタリと倒れた。
あ、戦闘フィールド解かれた。
経験値入ってきた。
いいのか今ので。
「ふぅ、いやー、やっぱり領主なんてやってるせいで鈍ってるわ」
「またまたー、食っちゃねしてるせいだろー。あ、痛い痛いっ」
余計なことを言ったキマリスさんが闇の腕に耳つねられて痛がっている。
「と・も・か・く、非常に、非常に残念だけれど契約してしまった以上、キマリスは貴方にテイムされるしかないわ」
「あれ? さりげなくテイム確定になってない? ボクそんな約束してないんだなぁ……おかしいなぁ」
「あら、ちゃんと戦闘前に約束したじゃない。ほら、これ」
と、何か魔法を唱えたようで、キマリスさんの目の前に魔法陣が生成される。
空中に浮かぶ赤い方陣を流し見て、次第青い顔になっていくキマリスさん。
何書かれてるの?
「ちょ、ちょちょちょちょっとぉ!? ナァマさん、これはさすがに不平等じゃないかなぁ!?」
「あら? でもほら、ここあなたの拇印あるじゃない、んで、ここにあの人間君の拇印があるのよね」
「け、契約……完了しとる……なんで?」
「これが、マインドハックの力です。なんてね」
ハンドパワーネタやめーや。
っていうかあのマインドハックした時に自然と俺とキマリスさんがあの契約に判押すように誘導してたのか!?
理不尽な契約を知らない間に結ばせるとか、魔王怖ぇ!?
ワタシ、ナァマサンノ味方、敵対スル? ナイナイネ。
「残念だけどぉ、ここにこうして悪魔契約がなされている以上契約は確定ね」
「あの、これ死亡時のレベルドレイン無しなんですが……しかも毎度ログイン時に胸を一度は揉まれることって、なんだこの契約っ!? なんだこの契約っ!!」
俺も魔法陣を覗き見る。確かにそんな感じのこと書いてあるね。要約すると……
―― ナァマとヒロキチームの戦いでナァマが勝った場合、ヒロキチームは全員ナァマの奴隷として一生をこの屋敷で過ごすこと。逆にヒロキチームが勝利した場合、ナァマはヒロキチームの特殊イベント成功に貢献する、またキマリスはヒロキにテイムされることとする。この時キマリスとヒロキは悪魔契約により結ばれるが、契約内容はヒロキへの全面協力、キマリスの生殺与奪権の譲渡、キマリスによるレベルドレインの禁止、ヒロキログイン時必ず一度以上キマリスは胸を揉まれること。キマリスは能力によりヒロキを堕落させることを禁止する。上記契約が守られなかった場合、守らなかった者に対して煉獄相当の罰を与える。以上をもって契約を交わすものとする 契約者名ナァマ、ヒロキ、キマリス ――
俺ら、負けてたら一生ここから出られなかったのか……
魔王、ほんと怖い……
そしてとばっちりでなんか酷いことになってるキマリスさん。ナムー。




