450.キムラヌートの主
「誰も、いない?」
背後からかかった声に慌てて振り向いたナァマさん。
しかしそこには誰もいなかった。当然だ、声を掛けたメリーさんはナァマさんの肩に乗っている。
一緒に移動したのだから背後にいる訳がないのである。
「ふふ、私メリーさん、今貴女のすぐそばにいるの」
「なっ!?」
肩に乗っていた人形に気付いた時、それはメリーさんのハサミにより首が切り裂かれていた後だった。
「あれ、あっけない?」
「旦那様、まだ戦闘状態ですっ」
確かに、リザルドが始まってない?
がしり、メリーさんが掴まれる。
投げあげられたメリーさんに、追撃がかかる。
「ファイアーボール!」
って、ルルルルーアさん何してんだっ!?
め、メリーさーんっ!?
あ、ああ、イベントクリアになった。マジかよルルルルーアさん、いくらなんでもそりゃないよ。
「ちょっとルルルルーア! 何してくれてんの!?」
「芽里、あいつは敵だと思え、マインドハックを受けているぞ!」
マジすか、カルカさんの言葉で理解する。
ルルルルーア目がハートマークになってる。
これ、多分本人の意思と関係なくナァマさんのために敵を倒そうとしてるんだろう。
「七年ごろ「っと、そこまでだルルルルーアさんっ」」
ぎりぎり間に合った。
ルルルルーアさんの口を手で塞いでついでに拘束。
おっと、なんかやわかいものを掴んだ気がするぞ。
まぁ今はそんなことどうでもいいよな。拘束しないと。
「ちょっと、どさくさ紛れにえっちなことしてるんじゃないわよこの変態っ。ええい、皆、マインドハックに気を付けて!」
闇の魔法弾を放出してくる首のないナァマさんの連撃をよけながら、カルカさんと芽里さん、ルースさんが特攻を仕掛ける。
補助を行っているのは妖精さん。そしてコトリさんは今回も闇属性相手ということもあり、呪殺結界は封印して、異界の王を発動。召喚陣から現れたのはタイラントゴリラ。
出現と同時にナァマさんへと突撃し、腕力に物を言わせた攻撃を開始する。
ダメージ関係なく突撃していくので回復すべきか迷うが、どうせ召喚されただけの存在だし放置でいいだろう。
「くそ、どうなってる? 首を落としてるのに生きてるのか!?」
「きゃぁ!? 何今の、どっから攻撃来たの!?」
……なんか、変だな。
相手への攻撃が全くダメージ受けてる感じがしない。
それに、よくわからない場所から攻撃されることが増えてきている。
ナァマさんからの攻撃は受け止め弾きでノーダメージなのに、皆にダメージが入ってるのが気になる。
気になると言えばこのルルルルーアさんだ。
なんというか、ルルルルーアさんの体と違う気がする。
そう、胸が小さい気がします。
となると……
そうか、マインドハック。
それはルルルルーアさんを操る魔法かと思ったけど、違う。
俺たち全員の精神を奪い去り、幻覚を見せているんじゃないか?
俺は目をつむり、精神を集中させる。
無心で、手のぬくもりを……ってそっちじゃない。
ようするに……こっちだ!
「ぐぅっ!?」
目を閉じたままレーザー銃を発射すれば、ナァマさんの焦った声が聞こえた。
やっぱりだ。視界の情報が全部間違ってたらしい。
「全員傾聴! 俺たちは今マインドハックを受けている。精神を集中させてナァマの本体を探すんだっ」
「本体って……」
「触れた! こいつね!!」
「あら、私の位置バレたの!?」
糸を頼りに最初に気付いたのは芽里さん。
ルースさんも気づいたらしく、ホーリーランスをショットで投げる。
「きゃぁぁ、あ、危ないじゃないですか!?」
あれ、ルルルルーアさんの声があっち側から?
じゃあこの目の前にいるルルルルーアさんは……
マインドハックが切れたらしい、目を開くと、そこには顔を赤らめたキマリスさんがいらっしゃった。
「キマリスさん何してんの?」
「な、ななななんだそれっ、少年君がボクの胸をっ、う、うぅ、うきゅぅ」
なんかよくわからんが、何も言えなくなったキマリスさんを放置してナァマさんへと意識を向ける。
随分とややこしい戦いをさせられる。
マインドハックの効果が切れたようで、全員が五体満足のナァマさんを発見した。
「とりあえず今は戦場なので」
てぇいっとキマリスさんを解放してナァマさんへと銃撃戦を開始する。
「ちょ、これだけやっといて放置なのかい君っ!」
これだけって何の話かわかりませんがっ!?
「ナァマっ」
「天使ちゃん、まだまだ甘いわよっ」
無数の闇弾をかいくぐり、光の槍を手にしたルースさんが駆け抜ける。
螺旋を描き縦横無尽に飛翔するルースさんの一撃が、ナァマさんの胸へと突き立った。
トドメか!
「……やるじゃない。なら、私も本気だそうかしらっ」
翼生えた!?
飛翔を始めたナァマさん。HP半分を切ったことによる攻撃パターンの変化でルースさんが翻弄され始める。
もう一人くらい飛行できる味方がいないと彼女一人じゃ空中戦は不利らしい。




