440.知り過ぎた男
「し、失礼、少し良いだろうか?」
「ダメだ、妖精たちの観察で忙しい」
なんとか近づいて声を掛けてみた。
速攻で拒絶された。
スプリガンに睨まれるとか恐怖しかないんだけど。
「アン・シーリー・コートについてなんだが」
「それを早く言え、殺すぞッ!!」
ぐわっとこっちに振り向き腕を掴んでくるスプリガン。
サングラスがずれて血走った目がこちらを睨みつける。
「あー、その彼女が自分の秘密について知りたいとですね」
「ごめんねー、ちょっと話できればと思うんだけど」
「これはこれはアン・シーリー・コート個体名ファトゥム様」
って、真名バレしとる!?
「な、なんで私の名前知ってんの!?」
「何をおっしゃる? スプリガンは妖精の守護者。守護する者の全てを知らず守るなどできませんからな。ファトゥム様の生まれから現在に至るまであらゆる情報は網羅しております。アン・シーリー・コートファトム様はアンヌーンにて生誕した悪妖精であり、年齢は現在102歳8カ月13日10時43分21秒11となっております。身長は17.3192cm体重53g3サイズは「そこまでそこまでぇっ。体はいいから秘密を教えなさいっ」了解」
ちょっと3サイズくらいまでは聞きたかったなぁ。
だめ? 乙女の秘密だしこれかも、あ、はい。嘘です。秘密聞きます、はいっ。
「人に言いたくないファトゥム様の秘密となれば、三つほどございます。どれかはわかりませんので順番に。まずはとある人間に闇のゲームを挑んで返り討ちに遭い、妖精酒の原料にされそうになったという過去がございます」
それは俺も知ってる奴だ。
「アンヌンの支配者、灰色の衣を纏ったアラウン様にいたずらを行い激怒させ妖精郷アンヌンを追い出されたこと 」
「あったわねー、そんなことも」
妖精郷出禁とか何してんのファトゥムさん。
「最後に、人間を二人……殺している」
「……」
そこで俯いて無言はダメでしょうよファトゥムさん。
「……ファトゥムさん」
「なに……やっぱり私のこと、怖くなった?」
「やったぞ、今のでイベントクリアだ!」
「……は?」
これで今回もコンプリートだよ妖精さんっ、ってなんだいその鳩が豆鉄砲を食ったような顔は?
「い、いやいやいや、あんた聞いてた、私人殺してるんだよ、しかも二人っ」
「うん、それで?」
そりゃま現実世界ならともかくさ、ゲーム内で殺人って言われてもねぇ。
妖精さんのことだしやむにやまれぬ事情があるか、あるいは相手がクソ野郎だったか。
大体そんなとこでしょ。そもそも親切な人はまず妖精さん見つけても挨拶するくらいで関わらないだろうし。
「妖精さんは俺を殺すのかい?」
まぁ殺されても復活するから意味ないけどね。
「するわけないでしょっ」
「なら問題無し無し。そもそもウチで殺人犯なんてかなり多いだろ。ハナコさんやテケテケさんなんて七不思議ボスだし。アイネさんなんか格闘大会でマダにーさんみたいなことしてたし、コトリさんなんてその大会のエキシビジョンでプレイヤー全滅だぞ」
「た、確かに……」
「テインさんなんか人間発見即殺せだし、ルルルルーアさんなんか普通に味方殺しまくっておいてしれっと味方のままだし」
「さすがに味方殺しを味方にしておくのはどうなんだ?」
そこはほっといてくれスプリガンさん。
俺としても許容範囲ギリギリなんだ。ルルルルーアさんが俺のこと慕ってなければ危険人物として放逐しててもやむなしだったんだ。
「相手が可愛い女の子だったからテイムしちゃったのよこいつ。ほんとエロいんだからっ」
違うよ妖精さん、俺別にそんなつもりでテイムしてないよっ!?
そもそもそっち目的だったら早々垢バンくらってるだろうし。というかこのゲームそういうことできるゲームじゃないからね。
「ま、こいつったら私がいないとダメなんだから、仕方ないからこれからも一緒にいて保護してあげるわよ」
「一緒にいるのはいいけど俺は妖精さんに保護される存在じゃないからなっ」
「またまたぁ、そんなに恥ずかしがらなくてもいいのよ」
「まったくだ、妖精様に保護されるなどうらやま……げふん、けしからん」
結果的に、俺たちは特殊イベントをすべてクリアし、課題だったこのメンバーの強化をやり終えた。
妖精さんもようやく自分の特殊イベントをこなせたからか大満足。
UFOへと帰ってくると、早速皆に自慢し始めていた。
ただ、妖精さんは気付いてない。
俺たちは、余計な物まで連れてきてしまったことに。
そう……
UFOの周辺の森、その一角にそれはいる。
茂みに隠れ、時にひっそり、時に大胆に、ドレッドヘアのサングラス黒人男性が見つめている。
スプリガンはいつだって、妖精を見守る存在なのだ……怖すぎるわっ!




