434.ケラッハ・ヴェール
ライトニングが効果見られないってことで俺たちはすぐさま散開。
各自仲間と連携しつつも巻きぞえを食らわない位置取りで敵へと迫る。
「ふむ。まぁあたいもオニじゃないからねぇ。凍ったりして戦闘不能の仲間には攻撃しないでおいてやるさ」
ゲア・カーリングもといケラッハ・ヴェールはくっくと笑う。
容姿は右目が髪の毛に隠れて見えないメカクレキャラで、青白い素肌。ローブに身を包み、一振りの杖を持っている。
先ほどは糸紬の裁縫師といった姿だったのに随分と変わり身が速いことで。
「これは効くか!」
レーザー銃をぶっ放す。
一応効くには効くみたいだけど、寒さのせいで引き金が凍り付いていて使いづらい。
アイテムボックスから出した瞬間引き金引かないと凍ってしまって使えなくなるらしい。
なんて面倒なギミック。
って、すり抜けた!?
実態がないパターンか!?
「むぅ。物理攻撃も効かんのか!?」
「魔法もあんまし効果ないわよ!?」
俺らのレベル帯で物理も魔法も効果なし、ってなると、どう考えてもギミックボスだろう。
あと考えられるのは強制敗北戦だけど、それはちょっと戦闘前の話的におかしくなるから、何らかのギミックを解除して弱体化させるボスだな。
弱体、弱体?
魔法の何かか? あるいはスキル? 道具が必要か?
相手の特性は? 冬属性の妖精で……妖精?
「真名か!」
「へ? 真名?」
「あの女王の真名だよ。多分それがギミック解除だ」
「んー、それは無理っぽいよひろ……マネージャーさん。あいつの真名とかどこから見つけてくるわけ?」
「そうだよな? ないよなそんなの」
「妖精たちの歌の中にあったりとか、ないかなぁ?」
「いちいち覚えてないぞ。それより妖精さん、あいつのもう一つの名前ってわかるか?」
「ああ、三つの名前のもう一つ? ゲア・カーリングでしょ、ケラッハ・ヴェール、とくれば、泉や川を守護する神様の名前だけど、多分今の彼女とはあまり関係ないわよ。それよりはケラッハ・ヴェールの特性じゃない? えっと、彼女は冬自身、同時に山に住む野生生物の守り神なの、特に鹿は寵愛してるとか聞いたことはあるわね」
鹿? 鹿か。
待てよ?
俺はアイテムボックスの中身を確かめる。
もしかして、これが使えるのか?
アイテム、鹿の角。
いや、まさかな。でも、可能性は、試してみよう。
投げ技スキルが久々に日の目を見るな。
いっけぇぇぇ!!
「っ!? がぁっ!?」
避ける気配すらなかったケラッハ・ヴェール。
その脇腹に鹿の角が突き刺さる。
マジすか。これは鹿の、いや、もしかして森の動物素材ならダメージを与えられるのか。
例えばこの、ユニコーンの杖とか使ったら。
てぃり……四天王さん、この杖使って!
ティリティさんがユニコーンの杖を装備して魔法を唱える。
今度は悲鳴が轟き、ケラッハ・ヴェールに大ダメージを与えた。
ライトニングの魔法だったからか弱点ヒットでものすごい一撃になったようだ。
一撃でHP半分持ってったぞ。
「嘘だろ、あたいの特性見抜かれたってのかい!?」
「守護する相手は実体として対応するって話か。他の攻撃を無視する分、防御力がないらしいな」
「風狐! ゆけぇい!」
風狐は野生生物に入るのか稲荷さん?
あ、風属性だから相手の攻撃が強化されて豪雪に!?
「何してんの稲荷ぃっ!?」
「ぬっはぁ!? ぬかった!!」
ダメだありゃ。
とりあえず稲荷さん、罰として熊耳カチューシャ付けなさい。
「なぜじゃ!? あ、一応攻撃通るようになりおった!? 納得できーん!!」
「くぅ、凍れっ!!」
「残念、ネタが割れればこんなことだってできんだよっ!」
鹿の毛皮を体に巻き付けることで凍る攻撃もダメージごと耐性が入る。
もしかして、とツチノコさんやディーネさんにも鹿の毛皮を掛けると、まさかの参戦可能になった。
「さすがマネージャーさん、普通鹿の角や毛皮が効果的とかアイテム持ってても気づかないでしょ、ツイてるねー」
「だっろディーネさん。俺、家に帰ったら幸運さんにお祈り捧げるわ」
これも絶対幸運さんのお仕事だろう。
ケラッハ・ヴェール対策とか何度も挑んで偶然見つける攻略だったんだろう。
まさか最初に妖精さんの話で気付けるとは運営もケラッハ・ヴェールも思うまい。
そうこうしているうちに集中砲火を受けたケラッハ・ヴェールの体力が削り切られ、瀕死の状態で戦闘終了。戦闘区域から元の大樹の根本へと戻ってくる。
「かぁーっ、完敗だよあんたら」
瀕死のゲア・カーリングがその場に座り込み、胡坐を掻いて快活に笑う。
俺は回復アイテムを手渡すと、一気飲みしてかっはぁーっとおっさん臭く息を吐いていた。
初見殺しのギミックボスとかマジ勘弁してくれよ、普通に死亡フラグしかなかったじゃん。殺意が高すぎるっつーの。




