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432.糸紬の妖精国

 それは国と呼ぶにはあまりにも家がなかった。

 それは国と呼ぶにはあまりにも道がなかった。

 ただし、その広場は妖精で溢れていた。


 なんだここ? 町壁とか全然なくてどこからどこまでが国なのかわからない。

 ただ、妖精がいっぱい集ってるから集落か何かだろうってことはわかる。


 妖精の家ってないんだなぁ。

 基本羽生えてる妖精は木の上とか洞の中に住んでいるそうだ。

 妖精郷は地下にあるので雨も降らず、寒暖差もないので毎日こんな感じなんだと。

 寝る時も夜がないので疲れたら寝る。


 そして下手な場所で寝てると他の妖精にいたずらされて場合によってはそのまま死ぬらしい。

 何それ怖い。いたずらで殺されるのかよ。

 寝たまま池に投げ込まれるとか悪夢かな?

 たまに底なし沼に投げ込まれるとか外道かな?


 この糸紬の国では多くの妖精が虫型妖精が出した糸などを使って裁縫をしているようだ。

 できたものは自分たちの服にしたり、人間や魔族に売ってるらしい。

 別にお金は欲しくないらしいけど、暇だからモノを作ってついでに売ることでお金を貰っているそうだ。

 お金はいらないけど欲しいのならブツブツ交換だよ。とか言われたよ。


 お金はいらないって言ったら尋ねてみた妖精さん凄く残念そうだった。

 よっぽど使い道がないのかもしれないな。

 お金の使い方教えてみるのもいいかもだけど、がめつい妖精が大量発生するか、借金奴隷に落ちる妖精が増えそうだから教えないでおこう。俺は優しいんだ。


 それにしても、なんで皆糸紡いでるんだろ?

 しかも一部妖精はなんか鬼気迫る顔で糸巻きしてるし。

 おっと、なんか妖精さん来た。糸紬棒を額の二つ、触覚みたいに突き刺さった妖精が糸巻き中の妖精の元へやってくると在庫は? と尋ねてくる。

 糸を巻く妖精は焦った顔をしてありません、と告げる。


 あー、これはあれだ、取り立て屋だ。

 おそらくこの国の妖精は一定期間以内に一定以上の巻き糸を作らないといけないのだろう。

 趣味とかじゃなく義務のようだ。

 そして、一定に満たない妖精は、彼のようになるわけだ。


「あ、い、嫌だ。仕事を、仕事を取らないでくれっ! 暇で死んじまうっ!!」


 彼が巻いていた糸や糸巻き用の道具、その他一切合切を接収し、取り立て妖精とその取り巻き達が去っていく。

 あとに残されたのは自由を手に入れた妖精さん。

 普通は喜ぶところだけど、なぜか嘆き悲しんでいる。


 すぐ近くを歩いていた女の子妖精に声を掛けて理由を聞いてみた。

 どうやら妖精は長命種なので長い人生の間で暇を持て余してしまうのだ。

 つまり、糸紬は妖精たちの暇つぶしなのである。

 暇潰し道具を取り上げられてしまった妖精は何もすることがなくなってしまい、周囲で皆が仕事を行う中、一人だけ何もすることなくぼーっとしなければならないのだ。


 うーん、サユキさんあたりはむしろ喜びそうな罰なんだけどなぁ。

 長寿の妖精たちにとっては殺されるくらいの罰なのか。

 一匹くらいサボる妖精居そうだけどなぁ。


 糸を使っていろいろと裁縫している妖精たちを尻目に俺たちは妖精女王がいると思われる国の奥へと向かっていく。

 おお、なんかぶっとい大きな木が目の前にそびえたってるぞ。

 まだ距離はあるけど、多分あそこに女王がいるな。


 奥に行くほど優秀な妖精がいるらしい。

 最後の方は糸巻きだけじゃなく裁縫で服を作ったり、シルクのドレスを作ったりしている妖精がいた。

 そんな妖精たちを束ねる女王は、といえば、巨大な大樹の根本で機織り機を使って反物を作っている人型大の女性であった。


 場末酒場の女店主って感じのお姉さん妖精だ。背中に羽が生えてるので人間ではないのはすぐわかったよ。

 しかし、妖精って幅広いなぁ。

 何でこんなに多種多様なんだ?


「お、報告にあった奴らかい。あたいの妖精郷に来るなんてもの好きだねぇ」


「物好きも何も妖精郷に来たのは偶然ですし、ここが初めてですが?」


「そうなのかい。まぁ、そのあたりはどうでもいいさ。どうだい、あんたらも糸紡いでくかい?」


「いえ、旅の途中なので」


「なんだいつれないねぇ」


 ちぇーっと残念そうにしながらも手を止めようとしない女王。 

 名前とか知りたいけど鑑定しちゃだめだろうか?


「えっと、とりあえず妖精女王様、こちらの妖精の秘密とか知りません? あと妖精魔法教えてくれそうな人物とか、妖精郷の神様とか」


「んー、そういえばそんなこと言ってたね。他のは用事を済ませたってことかい。そうだねぇ……とりあえず最初に、妖精郷の神ってなぁあたいのことさ。いや違うね、妖精は皆神様の成れの果てって奴さ」


「え、妖精って神様の成れの果てなの!?」


「なんだい知らなかったのかい? もともとダーナ神族やら何やらが定置したことで神としての権能を無くしていったのが妖精さ。だから長命種だし、人と子をなすこともできる。ゼウスだってやってただろ。人間の隣人に降格したのが妖精なのさ。そんであたいは糸紬しか能がなくてね」


「あの、お名前とかお聞きしても?」


「妖精の名は命に直結してるのさ。よほど気を許した相手にだって名前だけは伝えないもんだよ。ほら、唯一神だって様々な呼び名があるだろ。アレは真名を知られないようにしてるのさ。

 真名ってのはそれだけ神聖で尊きモノって奴さ。でもまぁ種族名で良けりゃ教えるよ。あたいはゲア・カーリングってのさ」


 ゲア・カーリング?

 あとで検索でもしておくか。

 妖精女王になるような存在なのか気になるし。

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