428.光る茸の森
妖精郷を探索していると、森の中に入ることになった。
一応襲われることがあるかも、と警戒はしてたんだけど、本当に妖精しかいないのか、ファトムさんがいるだけでこっちを見てもすぐに興味を無くしたように去っていく。
「ん? 何だお前ら、ここは光る茸の森だぞ。用事もないのに入って来るんじゃない」
なんか森の中を歩いていた毛深いおっさんが声を掛けてきた。
「妖精郷初めて来たんで探索中っす」
「なるほど、ここが何か知らずに来たのか。ほぅ、アン・シーリー・コートが加護を掛ける人間とは珍しい。ああ、俺はフェノゼリーだよろしく人間」
「フェノゼリーさんっすか、俺はツチ?」
俺が名前を言おうとすると、フェノゼリーがなぜか俺の言葉を止めるようなジェスチャーをする。
「名前は言うな。種族名は構わんし、俺のように元の名以外の名前を持つのならそちらを名乗れ二つ名でもいいぞ道を踏み外した者よ」
「あえてその二つ名は止めてくださるっ!? えーっと、ああ、サーダストリーの英雄とか、魔王殺しの方でもいいか」
「理解した。では処女厨馬の友よ。俺でよければ森を案内しよう」
だからなぜその二つ名をチョイスした!
「まぁ細かいことはいいじゃないか。ついてくるといい」
くははと笑いながら歩き出すフェノゼリー。
背丈的には子供と同じぐらいだが姿は妖精のそれではなく、どちらかといえばビッグフットとかサスカッチとか雪男とかに似た姿に羽が生えた存在だ。
「フェノゼリーか。確かもともと普通の妖精だったんだけど人間の娘に夢中になったせいで姿を変えられた妖精だったはずよ」
ファトムさんの言葉が聞こえていたらしくフェノゼリーが頭を掻く。
「そんな昔のことはもう忘れてくれ。今じゃ野生生活の妖精もどきさ。過去のことはもう許してくれよ」
「あ、ご、ごめん?」
説明するだけのつもりだったので悪気はなかったファトムさんだったが、相手の嫌な過去をほじくり返してしまったと気づき、謝る。
フェノゼリーもそこまで嫌悪する話ではなかったようでわかってくれりゃいいよ、と笑顔で許した。
なんというか、こんな成りだけど良い奴だなこいつ。
「ここは光る茸の森だ。他の森と比べると日の光が差し込んでこないせいでかなり暗い。だから一度はぐれると再び合流することは不可能に近い。一旦森から出るように動いた方がまだ生存率が上がるって森だ」
「確か妖精でも迷って出られなくなる奴がいるんだっけ?」
「ファトムさんここ来たことないのによく知ってるね」
「妖精郷の作りは大体同じなのよ」
ああ、そういう。運営の手抜きかよ。
「んで、だ。光が差さない代わりに茸たちが自分で発光する術を覚えた。だから多少薄暗いものの、ああやってひかりがあるから迷わず歩くことはできるんだ」
フェノゼリーが指さす先にあったのは、足の生えた大きな茸。エリンギみたいな容姿のそいつは、足を器用に使ってコミカルに歩いている。
特徴的なのは、その全身が淡く発光していることだろう。
「茸たちはああやって自立稼働できる奴とできない奴がある。出来る奴は適当に歩いて土を変えて自身を埋めるんだ、ただ、歩ける奴は大体不味い。もしもこの森で迷ったら食事は埋まったままの小さめの茸をおすすめするぞ。まぁ毒入りも多いがな」
まず茸自体食べようと思わんよ俺は。
そりゃスーパーとかで売ってる奴なら買うけども、野生のは似たような毒キノコが多すぎるから俺には判別不能だ。死にたくはないのでよほど飢えても木の皮とかでなんとかして茸は食べないと思うな。
「ちなみに、そこの木の上にいる妖精は茸を食べ過ぎて虫歯になったらしい」
と、木の上を見上げれば、小人の女の子が一人。むすっとした顔で膨れた片頬に手を当てていた。
「あれはワグ・アト・ザ・ワの一種ね。普通はお婆さんの姿が多いんだけど……」
「言われてみれば、そういう感じの妖精が数体木の上にいるな」
「ここにいる奴らは何をすることもないから好物の茸を奪ったりしない限りは襲ってこないぞ」
茸取ったら襲ってくるのかよ。なんつートラップ。
「あっちは凄いぞ。とっても綺麗だ」
案内されるまま広場に出る。
発光茸たちが沢山いるから凄く明るく、さらに胞子なのかなんなのか、淡く光る光の粒子が空へと立ち上っている。
その中央で妖精たちが輪になって踊っていた。
ギーァ! チャンスだ!!
「ギーァ!」
俺はギーァを連れて妖精たちの輪に向かう、踊りに入れてやってーっと告げると、皆がいいよーっと言ってきたのでギーァと俺は一緒に輪に入って踊らせていただいた。
「随分と変わった人間と……なんだあれ?」
「まぁ変わった存在よねぇ。ところでフェノゼリー」
「なんだ?」
「私たちの目的なんだけど、妖精魔法教えてくれそうな奴知らない? それと妖精の神様ってのに会える場所は? ゲリラライブしてもよさそうな場所も知りたいし、あと私の秘密知ってる妖精とか」
「ふむ? ほとんど検討もつかないが、ゲリラライブとやらは歌うってことだろ、ならここでやればいいだろう」
「確かに! マネージャーさん、歌歌っていいー?」
どうやらこの森で二つのイベントを一気にこなせるようだ。




