427.不幸を呼ぶ妖精
「で、アン・シーリー・コートってなんぞ?」
「知らんのかい!?」
俺の言葉に妖精さんが突っ込む。
その姿を見て興味を覚えたらしい犬ぽい小人型妖精が近寄ってくる。
というか完全に犬だな。手のりサイズのコーギー犬だ。背中に羽が生えてるけど。
「アン・シーリー・コートは人に好意的になることのない悪い妖精だワン。シーリーが祝福されたって言葉だからアン・シーリー・コートは不幸をもたらす者って意味でもあるんだワン。でも妖精だからここでは普通の住人だワン」
「へー」
「おお、手のりサイズ犬!? か、可愛いではないか」
妖精犬を掌に収めて稲荷さんが愛い奴愛い奴と可愛がり始める。
指先で頭を撫でられるのがくすぐったいのか悶える妖精犬。
「そいつはクーシーね。人懐っこい妖精に見えるけど結構獰猛だから気を付けて」
「失敬な。妖精の加護付き人間に迷惑はかけないワン、たとえ不幸にする妖精の加護でも加護は加護ですワン」
そっかアン・シーリー・コートの加護付いてんのか俺。
「もしかして変なイベント巻き込まれてるのって妖精さんのせいだったのか!?」
「違うわよ!? あれはあんたが勝手に巻き込まれてんでしょうが! 私は何もしてないっ!」
「ならいいけど。異世界飛ばされたりきさらぎ駅連れてこられたり、さすがにちょっと不幸かなって思ってたけど、アレはそうか、幸運さんの方のお仕事か」
「マジで? あんたの幸運仕事の仕方おかしくない?」
それは思うけどそっちの方が俺にとって幸運と思ったから幸運さんが紹介してきたんだろうって思っておこう。
「それで、皆様我が妖精郷に何しに来たですワン?」
え? 何しにって……
俺は仲間たちに視線を向ける。
俺ら、何しに来たんだっけ?
「とりあえずさっき出たイベントこなすためじゃろ?」
「それは今できた目標であってもともと何しに来たんだっけ?」
「えーっとねマネージャーさん。あの工事現場でスキル覚えられるかもってことで来たんだよね。だから妖精郷に来た理由はやっぱりイベントこなして特殊なスキル? 手に入れることじゃないかな?」
ディーネさんの言葉に確かに、と納得する。
なのでクーシーに告げるのは、
「俺らがここに来た理由は、えっとティリティさんと妖精魔法を教えて貰うことだろ? ツチノコさんの進化を見守るのと、稲荷さんと妖精郷の神様に会おう? ギィーァと妖精さんたちと踊ろうとかディーネさん妖精郷でゲリラライブしようとかファトゥムさんの秘密を妖精たちに聞こうっていうのが目的になるのかな?」
「じゃー、ここに来た理由はなんですワン?」
「工事現場でイベント探してたら妖精郷だったからとりあえず寄ってみた?」
「まぁ、そういう理由になるのかしら?」
ティリティもうーんと考えたけどそれ以上の理由はなかったようで同意してくれた。
「了解ですワン。ちょっとクイーンに伝えてくるですワン」
あ、もしかしてこいつ妖精郷に侵入してきた俺たちが危険な人物かどうか調べる役だったのか!?
ぱたぱたと飛んでいくクーシーを見送って俺たちは一度エレベーター前から進みでる。
とりあえずここで待っとくのもあれだし、何も言われてないから探索でもするかな?
「ここってエネミーは出ないってことでいいのかな?」
「どうだろうのぅ? 悪妖精辺りは襲ってくるやもしれんぞ。のぅ妖精よ」
「私、襲う妖精じゃないよ? ぷるぷる」
それどっかで聞いたことのあるセリフに似てるね。
うるんだ目でこっち見られても困るんだけど。
「シャー」
「ギーァ」
って、ちょっと待った。二人とも別方向に行こうとしないでくれ。
「待ってくれツチノコさん、ギーァ、今別方向に分かれて合流できるかわからなくなるから一旦皆で方向性決めて向かおう。今日一日で全部回る必要ないんだからな」
とりあえず特殊イベントですぐにできそうなのは妖精と踊るのと、ファトムさんのことを尋ねるくらいか。
適当にそこいらへんを飛んでいる妖精に目星をつける。
おーいっと手を振ると、自分のことを差して呼んだ? と小さな少年妖精が空から舞い降りる。
「これはまた変わった取り合わせだな。げー、アン・シーリー・コートじゃん」
「妖精君、初めまして。早速なんだけど、ここいらで妖精と踊れる場所ってあるかな? あとこのファトムさんについて話が出来そうな妖精知らない?」
「え、知らねーし、そりゃっ!」
風魔法だろう、突然つむじ風が駆け抜けティリティさんのスカートが舞い上がる。
ひゃぁって隠したけど体真っ黒だから恥ずかしくは……いや、これはこれでちょっとエロいな。グッジョブ!
「あはははは、妖精にもの尋ねるなんていたずらしてくれってなもんだぜ人間! じゃーなーっ」
あー、逃げられた。
「もぅ、なんてエッチな妖精なのっ」
ぷんすこ怒ってるティリティさんだけど、君、その体自体が擬態じゃん。




