423.偽装解除
『ギエェェェェェェェ――――ッ!?』
久々に早九字が活躍である。
闇しか見えない階段目掛けて九字切ったらなんか悲鳴が轟いた。
そして晴れていく闇。
うん、ほぼ確実になんかヤバいのが待ってやがったな。
普通に登ってたら確実に呪われてたんだろう。
残念ながら、俺は幽霊特化の拝み屋さんである。
っていうかなんなら滅霊師とか魂滅師とかヤバそうな職業だし。
悪霊を魂ごと滅する職業ってなんだよ!?
階段を上ってみると、下の階よりもさらにずさんな工事途中のビルになっていた。
壁こそコンクリで塗られているんだけど、たまに鉄骨だけのところとかあるし、コンクリート捏ねてる状態のところもあるし、手抜き感が酷い。
なんでつるはしがあるんだ?
ビル造るのには不要だろ。
ん? なぁ、何だあれ?
作業服を着た胴体が揺らめきながら近づいてきている。
首、ないんですが?
なんすかあれ?
「鑑定は!」
「あ、そうだった。えっと……コラン・グン・キァン?」
「うそっ!? アレ、コラン・グン・キァンなの!?」
おっと妖精さんなんか知ってるの?
「え、と、本来のコラン・グン・キァンは知ってるけど、ゴブリンみたいなやつなのよ。なんであんなよくわからないのが同じ名前なのよっ」
名前は知ってるけど知ってる奴とは別のモノらしい。
「アレじゃろ。担当の運営が首のない胴体という意味をはき違えて本当に首のない胴体の生物にしたんじゃろ」
『んなわけあるかっ』
おお? どこからともなく声が?
まぁいいや。とりあえず接敵される前にぶっ潰そう。
レーザー銃で、死ねやオラァ!!
『ぎゃあああああ!?』
『ひ、ひでぇ、まだ会話の途中だったのによ』
『あいつ、人間のくせに首なし死体怖がってねぇぞ。話が違うっ』
……んん?
なんかおかしくね?
さっきから普通に声聞こえるというか、コラン・グン・キァンって何匹もいんのか?
いや、今ハチの巣にしてやった一体だけのはず。
それに声は周辺から聞こえてくる。
待てよ。そもそもこのビル、本当に幽霊だらけだったか?
よくよく考えてみると、幽霊と思える者って最初にいたおっさんと落下してきたおっさんくらいじゃね?
落下してきたおっさんも今思うと本当に幽霊だったか疑問だし、消え去ったもんな。
なんか、頭に靄かかった感じがするな。これはもしかして。
「ティリティさん、皆に状態異常回復魔法かけて」
「え? お、オールキュアーズッ!!」
ぱぁぁっと俺たちを状態異常回復魔法が包み込む。すると……
いる。大量にいる。
何だこいつら?
ゴブリンぽいのが大量だ。
「ああ、やっぱりコラン・グン・キァンだわ。しかも大量!」
「ああ、バレた。なんだよぉもう少し遊んでからご退去願おうって思ってたのに」
「仕方ない。この先に行かせるわけにはいかないからっ、全軍突撃ーっ」
いきなり100匹以上の群れに袋にされそうなんですが!?
ええい、そういうことするなら……
「テケリリリ、この程度とは片腹痛い。魔王四天王の力を見せてやろうっ」
「ふむ、風狐よ、少し遊んでやるがよい」
「ギーァ!」
「シャー」
「あはははは、精霊相手に物理攻撃は無駄だよーん」
「ヒロキ、こいつら妖精の一種よ! 一人きりの男しか襲ってこないから気を付けて」
それ、俺だけ集中攻撃されるってことじゃん!?
でも皆の攻撃がなんか普通に過剰過ぎません?
俺、攻撃も奥の手も使ってないのにすでに激戦になってるんですが、俺のとこだけ無風地帯ってどういうこと!?
「そりゃ彼らのレベル80前後じゃない。レベル差でまず勝てないわよ」
ああ、だから油断していた俺の暗殺を狙ってたのか。
この状況だと無理そうだけど。
まさに鎧袖一触って感じで皆数十単位で屠っていく。
「両手両足切断してやんぜー」
「男は惨殺だァ!!」
「ヒャァッハー!!」
包囲網を突破したらしいコラン・グン・キァンたちが俺へと迫る。
子供くらいの背丈のグリーンスキン。つまりはゴブリンとしか思えない容姿の妖精たちが一斉に襲い掛かってくる。
当然。レーザー銃で対応してやった。
いやー、向こうから当たりに来てくれるから楽で助かるわー。
「がふっ、つ、強ぇぇ……」
最後のゴブリンが倒れ伏す。
意外と多かったな。
五百体くらいはいたか?
普通のプレイヤーだと同レベル帯だったら死んでたかもしれんな。
「ふむ……これはまさかとは思うけど……」
「どうした妖精さん?」
「いえ。まだ確証がないから予想の段階なんだけどね。ここ、もしかしたら妖精郷があるかも」
妖精郷?
え、それって妖精さんが求めてやまなかった故郷じゃん。
コラン・グン・キァンが出てきたからって早急過ぎません?
「いえ、そうじゃないのよヒロキ、ほら、ここに入る時なんか膜通ったの気付かなかった?」
「そういえばそんな感覚あったけど……」
「妖精郷の近くって普通の人に見えないように結界が張られてるのよ。弱い存在は結界にはじかれて近づかないの。今思えばアレに似てたのようね。それに強制幻惑魔法に大量の妖精。これ可能性あるかも」
「ってことは、ついに妖精さんにもスキルアップの可能性が生まれたのか」
「ふっふっふ。やはり私にもあったということね。期待しなさいヒロキ、私のなんかすんごいスキルを見せてあげるわ」
……なんだろう、期待させればさせてくるほどショボそうな気がしてきたぞ?
 




