37.神隠し隠連暮(かくれんぼ)・1
「ヒロキくんこっちだよー」
山の中、幽霊の群れからなんとか逃げおおせた俺は、放課後までの時間、一度ログアウトして所用をすませながら気持を落ち着けることにした。
正直あの数の幽霊に追われるのは心臓に悪い。
山からゲーム内自室へと戻ってきた時も、全く落ち付けず、稲荷さんに言われて一度ログアウトすることを決めたのだ。
さすがに現実世界二日目で体験するには濃すぎるイベントだった。
あんなもん俺一人だったら確実に呪われるわっ。
まだ付いて来てないか不安で仕方ないし。
ともかく、落ち付いた後でログインすると、既に用事を終えたらしいハナコさんとお説教から開放されたテケテケさんも戻ってきており、俺の部屋でハナコさんが新人二人と顔を合わせて驚いていた。
何しろ自分が仕事してる間に新しい女が出来ていたのだ。いや、違うけど。
っていうかツチノコさんも雌なんだってさ。知らんがな。
んで、キャットファイトや格付けチェックなどが行われることはなく、ハナコさんと稲荷さんが自己紹介して挨拶交わして、じゃあ一緒に頑張りましょう。と凄く円満に初対面が終わった。
問題無いならいいんだけどさ、あっさりしすぎじゃない? まぁいいけど。
さて、しばし皆で状況報告という名の世間話をした後、商店街に向って要らないモノを売却。
幽霊倒しまくったからいろいろ増えてたけど、そのほとんどを売り払った。
俺には使い道不明なのが多かったからな。霊子の欠片は全部売ってやったぜ。
御蔭でお金が一杯だ。
そして使った塩の補充や回復系アイテムを買い込んだりで気付いたら金欠一歩手前になっていた。
なんでだ!? 小金持ちになったばっかりだぞ!?
やっぱり家のベッドをキングサイズに替えたのが不味かったんだろうか? ハナコさんと一緒に寝られるかもと思ってついつい買ってしまったのは失敗だった気がする。
アイテム探っても残ってた売りモノと言えばユウに買って貰った魔術書くらいだぞ。なんか悪魔召喚の書とか書かれてるし、気味悪いったらないわー。
禍々しいから結局読もうとも思えないんだけど、人に買って貰ったモノなので売る訳にもいかない。
何時か覚悟を決めて、読むしかないよなぁ。
とりあえず、今はアイテムボックスの奥に仕舞っておこう。
今やることは童心に返ってNPCの子供たちと遊ぶことだ。
放課後の教室には、朱莉ちゃんと他数名だけが残っていた。
俺が教室に入ったことでイベントが始まる。
輝、なんか微笑ましいモノ見るような顔でこっち見んな。
「あれ? また仲間が増えてる?」
ちなみに、稲荷さんは人型こそ取っているが、他の人に見られても問題無いように寄り代を小型化させてツチノコさんと同じくらいの手乗りサイズで俺の肩に乗っている。
左肩に稲荷さん、右肩にツチノコさんを乗せた小学生の爆誕である。
正直目立つのでちょっと恥ずかしい。
「今日遊ぶメンバーだよ。えーっとヒロキ君入れて8人ね」
結構多いな。名前覚えきれるだろうか?
「俺、鴪貫太だ」
「ぼ、僕は雙里です」
「あたし燦華だよ」
「俺が嗣朗な」
「僕は呉弟栖といいます」
「私は緑香です」
「そして私が朱莉なのですよ」
サイドポニの少女が、にひひっと笑みを浮かべる。
なんという覚えやすい名前。朱莉以外が適当に付けられた名前っぽいのが何とも言えない。
燦華や緑香は結構可愛いのに。まぁ、朱莉と比べるとモブ感が抜けないけども。朱莉の可愛さは他のメンバーから一つ抜けてるな。何かのイベントキャラだろうか?
「ヒロキだ、よろしく。えっと、今日は皆で何するの?」
「よくぞ聞いてくれた。山の神社在るだろ、あそこでかくれんぼしようってことになったのさ」
かくれんぼ? また何とも言えない。というか、そもそも神社でかくれんぼとか何か起こってくださいって言ってるようなもんでしょ。
「んじゃ人数も揃ったし行こうぜ」
皆でぞろぞろと移動する。
俺も朱莉ちゃんの隣を歩く。
なんというか、朱莉ちゃんは愛らしいよな。
歩き方がすたすたというよりはぽてぽてって感じだし、ちょっとふわふわした歩き方をしている。
なんかもうずっと見守ってあげたくなるタイプの女の子だよな。
目を離したらこけたりしそうではらはら見守ってしまう感覚?
危なっかしくて見てらんないんだよ。あれ、これってもしかして、お父さん視点なのでは?
下足場で靴を履きかえると、選択肢が出現。
といっても山へ向うの一択しか無かったので選択。
すると、次の瞬間既に山に出現した状態になっていた。
思わず周囲を見回す。
一面幽霊だらけだったはずの空はどんよりとした曇り空になっている。
放課後とはいえ、夕方まではまだ時間があるのだけど、既に暗いので帰りたくなってくる空である。
「はて、変じゃな、ワシの力が見当たらんような?」
特殊フィールドかな? イベントが起こる予感がします。
男子はテレビの話を、女子はファッションの話をしながら山道を歩いて行く。
あれ? おかしいな。こんな道だったっけ?
なんとなく違和感を覚えながらも皆と共に進む。
なんだろうこの違和感?
何かが違う。しかしそれが何かが分からない。
歯の奥に何か挟まっているような、もどかしい感覚を覚えた。
何がおかしいのかが分からないのがいただけない。




