376.宇宙船を探して・7
それはあまりにも醜悪であった。
かろうじて、アイネさんと同じ顔立ちが残っている程度。
体は全てゼリー状のぶよぶよとした何かに変化してしまっており、最初こそ新手の敵かと思ったほどである。アイネさんが兄様と叫ばなければ、それがアイネさんと同じアベイユ星人だとは思いもしなかった。
「トゥールーの眷属か……」
「うわー、まさか無理矢理眷属にした感じ? なんでまたクトゥルー? リーギグスの住人ならルログ崇拝じゃなかったっけ?」
「おそらくだが、好奇心で無茶なことをしてみたのだろうな。奴ら凄く楽しそうにしている。ふん、吐き気のする精神構造だ」
「お前自身が吐き気を催す臭いだけどなぁ」
「這い寄るモノめ黙ってろ。舌で貫くぞ」
「普通にやめてくださる? ヒロキー、変態女が舐めようとしてくるのー、助けてー」
「普通に俺を巻き込まないでくださる?」
しかし、トゥールーの眷属ってことは深海系生物にされたってことでいいのかな?
水属性は効かないとみていいか。
それと、おそらく俺たちにはあのアイネさんの知り合いを救うすべはない。
「一応聞くけど、ニャルさんテインさん、彼を戻す方法とか、知ってる?」
「あそこまで原型が崩れていると無理だな」
「もう精神的にもクトゥルーへの奉仕しか頭にないんじゃないかなぁ?」
「そんな……兄様……」
「おらもさすがに元に戻す方法はなぁ。天狗の軟膏塗ったら戻らんだか?」
「さすがに無理じゃない? 一応私の粉掛けてみたけど効果ないみたいだし」
「アイテムの中に有効そうなのは……ヤバい注射器とか?」
「クトゥルーの方が実力が上だ、さすがに奴隷は奪えんだろう」
「しかし、耳障りよね。あのルログ人たちの声。なんかこう、やってやったみたいな気に障る声なのよね」
機械の軋むような音なので俺もあまり聞いていたくはない。
「残念だが倒す以外に救う方法はないだろう」
「多分アムリタとか使っても無理よ、アレが正常な体として定着してるから」
「来るわよヒロキ!」
アイネさん……
俺と視線が合うと、アイネさんは不安そうな顔を引き締める。
「覚悟、した。やるよヒロキ」
「……分かった」
アイネさんがやるつもりなら俺も覚悟を決めないとな。
「うあ!」
「ネネコさん、おそらくアイネさんのお兄さんは水属性に耐性がある、彼には水系の攻撃しないように!」
「わかっただ!」
戦闘は静かに始まった。
近接のネネコさんとテインさんが敵へと向かい、ルログ人たちも近接部隊が二人の元へ向かう。
ツチノコさんとアイネさんは中距離。グレートマンさんとニャルさんは俺と妖精さんの護衛をするらしい。
グレートマンさん、UFOの前であった戦闘で気絶してから遠距離を先に倒そうとし始めているのだ。
俺は遠距離から後衛を倒す役、妖精さんは俺の頭の上でバフとデバフをかけまくる役である。
戦闘開始だ。
光線が速攻で襲ってくるので俺たちは上手くよけながら反撃のレーザー銃をぶっぱなす。
「はいよ、光はヒロキまで届かせないよー」
ニャルさんが俺の頭の上で何かを行うと、光が屈折して天井に突撃していった。
外の神様はほんと何でもできるなぁ。
でもあんまり頼らないようにしないと、ニャルさんに頼り過ぎると身の破滅が待ってそうだし。
「兄様!!」
あ、やっべ、放置してたらアイネさんのお兄さんにアイネさんが突撃し始めた。
ぶよぶよの体は槍で突き刺してもぶよんとへこむだけのようで、弾力だけで跳ね返してくるようだ。
当然ダメージは全くないらしい。
「あいつ不死だから面倒なのよね。倒すつもりなら物理攻撃はやめて魔法で攻撃した方がいいわよ」
「そうなの? アイネさん下がって。アレの相手は物理攻撃以外がよさそうだ」
「でも……」
「ルログ人の光線部隊をお願い」
仕方ない。一応全員魔法はスクロール渡してるはずだから使えると思うんだけど、あいつの相手は俺がやるか。
選手交代だ。
ボスっぽいルログ人は気になるところだけど、まだ後方で指示出し中だし、イベントのテインさんとの共闘はまだ後でも問題は無いはずだ。
属性魔法は全属性が使えるので、あとは弱点属性を探すだけだ。
水属性なので対応する属性としては、火属性、土属性、雷属性もだろうか?
とりあえず鑑定を……ありゃ? 魔法なら水以外なんでも効くのか。
そこまで弱点になる属性は無いみたいだけど、日光が苦手らしい。サンフレアとかの魔法は逃げ出すそうだ。とりあえず物理攻撃で苦労して倒しても灰色の雲になるだけらしいので魔法で倒す、これが重要らしい。
「悪いが、元に戻せない以上楽にさせるしかない。お兄さん、妹さんは俺が幸せにしますっ」
「ヒロキ、それ、婚約宣言」
マジかアイネさん!?




