36.行きは幽霊帰りは狐、恐いながらもとおりゃんせ・7
「さて、どうやって帰ろうか」
「幽霊の張り付きが凄い事になっとるのぅ」
俺と稲荷さんは鳥居を見上げる。
鳥居周辺を球体状に無数の幽霊が張り付いている。
正直ここから脱出するのが一番ネックな気がしなくもない。
「神社には入って来ないんですね」
「鳥居から先は清浄な空気があるからな。奴らは結界を張られたような状態でこちらには入れん。入れば浄化されるだけじゃ」
神々が住まう場所は大抵こういう清浄結界があるらしい。
ゆえに幽霊系の存在は弾かれるか、無理に入り込んで浄化されるかのどちらかだそうだ。
テケテケさんは上半身だけだけど肉体を持つ悪霊系存在だから問題は無いらしいけど、ハナコさんは完全に霊体なのでアウト。この鳥居をくぐって神社に向った瞬間浄化されて天に召されるらしい。
この辺りは気を付けないといけないな。
ハナコさんがいる状況で清浄結界に入り込まないようにしなきゃ。
「さて、それでは、そうじゃな。主、肩車をせい」
「え? なんでさ?」
「ワシが突破口を開こう。代わりに足は主に任せるぞ」
ああ、なるほどなぁ、俺は馬の代わりって奴か。
とりあえずその場にしゃがんでみる。
すると、首元に飛び乗って来る稲荷さん。
ちょ、後頭部にマズいところが当たってるのですが!?
「ほれ、さっさと行くぞ」
「りょ、了解。ところで稲荷さんのレベルって幾つ?」
「主と同じじゃ。ワシ自身じゃと強過ぎるでな。この寄代は主のレベルに合わせて強くなる。今はまぁ、弱いと思っておくが良い」
それでも、あの幽霊の群れを突破するのは可能らしい。
俺としてもどうしようもないから、突破できるならお任せるしかないんだよな。
「っし、覚悟完了。突撃するぞ」
スキルも戦闘用に変えとこう。
霊視と霊打、タックル、得意武器・無手、幸運も入れとこう。あとは……ラッキースケベを外して……
―― 警告:密着状態を解除してください。この警告を無視するようであればアカウントの停止を行いま…… ――
だらっしゃぁっ!! ラッキースケベが外せねぇ!?
今稲荷さんを肩車してるせいで密着状態。これがラッキースケベの御蔭で問題は無くなってるけど外したら垢BAN案件でした、ありがとうございますっ。
畜生、これじゃ早九字で幽霊撃破とかできそうにねぇ。
幸運とラッキースケベはそのまま入れとくしかなさそうだ。
「行くぞーっ」
気合を入れて、鳥居に向ってダッシュ。
鳥居をくぐり、一気に階段を駆け降りる。
真上で稲荷さんがいろいろやってくれてるようだけど、俺には全く分からん。
とにかく俺がやるべきことはバランスを崩すことなく階段を駆け降りることだけである。
「うぬぅ、意外と多いぞ」
「そりゃそうでしょうよ。何とかなります?」
「う、うむ、安心せい、少し寄代の能力が低すぎて想定を下回っているだけだ」
それ、大丈夫なのか?
不安はあったが、今よそ見するべきではない。
「あ。まず……いや、大丈夫」
え? ちょっと、ホント大丈夫?
今一瞬間横を変なの通り過ぎたんだけど?
ツチノコさんが威嚇したことで横を通り過ぎた何かは消え去った。
「くぅ、なんでこんなにおるのじゃ!? さすがに想定外じゃぞ。主、なんか変な事しとらんだろうな!?」
変なことって何ですかね!? ツチノコさんやら稲荷さんのテイムならしたけどそれ以外はしてないぞ、マジで。早九字問題はちゃんと九字返ししたしっ。
っと、階段終了。
あとは山道駆け抜けるだけだ。だいぶ楽に……ぬおぉぉぉ!?
「すまん、さすがに多い!」
「つかなんじゃこりゃぁ!?」
空一面に広がる幽霊が俺向けて殺到して来るのが見えた。
幸い俺との距離はあるのでまだ安全だが、これは全力で駆け抜けないとマズい奴だ。
「これイベントか何かですかねぇーっ!!」
「こんなイベントワシは知らんぞ」
二つ名のお化けなんて恐くない、返上します。めっちゃ恐ぇ!!
クソ、何か、何か方法は……は! そうか。スキル体当たりを投げ技に変更。喰らいやがれ。プレゼントだよクソッタレ!
塩の袋を破って大空向けて思い切り投げ捨てる。
途中で塩がブチ撒けられ、周辺に広がり風に乗って舞い上がる。
幽霊達が塩風に吹かれて悲鳴を上げる。
っしゃぁ。これで時間稼ぎ完了だ。あとで運営に文句言ってやる。
「な、なぁ稲荷さん、アレ、引き連れたまま街中走る事になったりしねぇっすよね?」
「自宅に戻れば問題はないはずじゃ。あそこは味方しか入れんからのぅ。下手に街中に行くよりはリセットされるはずじゃよ」
それは良かった。
なら、あそこを通り抜けて自宅に戻れば万事解決って訳だな。
山への入り口まで必死に駆け抜ける。
普通なら既に体力が尽きてるだろうけど、この世界だと全力疾走し続けても結構長時間走れるのはいいよな。レベルが上がるほど身体能力も増えるし。
正直ヤバかった。でも、塩の御蔭でなんとか幽霊に追い付かれることなく、山を脱出することに成功した。




