361.二つ目の七不思議・10
扉を開く。
教室という名の個室から廊下へ。
ちょうどバリケードを超えた場所に辿り着く。
バーニングデッドは、少し遅れて教室に入った側のバリケードを燃やしながら迫ってくるところだった。
これならいける、けど……アカズさんは!?
「気にせず行きなさいヒロキ! 私は死んでもあんたの傍戻れるんだから」
「でもアカズさん、死ぬのは……」
「大丈夫よ。あんたに心配されるほど孤独死が怖いわけじゃない。それに……今回は皆を助けるためだもの。必ず生還しなさいよ!」
「アカズさん……ごめ……いや、ありがとうっ」
個室に籠ったアカズさんに礼を告げ、俺たちは再び走り出す。
離れ離れになる瞬間、アカズさんは微かに微笑んでいた。
ただ、アカズさんが稼いでくれた時間は数秒といったところだ。
すでに教室の出口側のバリケードを溶かしたバーニングデッドが俺たちへと迫る。
が、教室の扉前を通過しようとしたバーニングデッドに、突如扉が開かれ赤い無数の手が彼を掴み取る。
驚くバーニングデッドが教室内へと引きずり込まれていった。
今のって、アカズさんの誘う赤い御手? わざわざ自分のテリトリーに……ほんとありがとう、アカズさん。帰ったらほしいものプレゼントしよう。絶対に。
「急いで皆、出口はあそこよ!」
『テケテケ、いける?』
「ダメね。ここから先は旧校舎も本気みたい。強行突破は無理そう」
「ってことは、こっちの教室入って出てを繰り返しながら行かないといけないわけね」
妖精さんが差す方向にあるのは、バリケードの隣にある教室の扉。
面倒くさいけど、回り道しながらあいつに追いつかれないように最速で逃げ切るしかないらしい。
ええい、行くぞ!
教室に入る。教室内もバリケードが作られており、所々に浮遊霊。
そして迷路のように入り組んだバリケード通路が待っていた。
クソ面倒臭ェ!?
幽霊はワンパンで倒せるからいいのだけど、迷路が本当に面倒くさい。
しかも強引に破壊しようとするとバリケードは即座に戻ってしまい、下手するとバリケードの中にいる状態になってしまう。
それでもなんとか教室の反対の扉から脱出。
あと教室は三つか。
次の教室に向かい同じように攻略する。
かなり時間ロスだ。
これ、普通に逃げてたら絶対に追いつかれてるレベルの時間ロスだぞ。
本当に逃げ切るのであってるのか?
別の方法があるんじゃないか?
例えばバーニングデッドを鎮火させるとか。
でもここに逃げてくるまで消火栓はなかったし……
「アニィ、あれ!」
アニィって誰だよ。俺のことか!?
って、バーニングデッド!?
すでに一つ後ろの教室まで近づいてきていた。
急いで次の教室に。
クソ、アカズさんは止めきれなかったのか。
あいつの方がアカズさんより強い?
弱点付かれて倒された?
『今は逃げることに集中してっ』
ハナコさん!?
クソ、ハナコさんに窘められちまった。
今は確かに逃げることに集中しないと。
せっかくアカズさんが作ってくれた状況なんだ。
「うげぇ!?」
教室を出ると二つ目の教室を通過した辺りにバーニングデッド。
残り一つの教室をクリアする時間があるかどうか。
ええい、今は何も考えるな。やるしかねぇ。
「急いで攻略するぞモヒカン!」
「あ、はい!」
そういや中身女性っぽい奴だったな残ってるモヒカン。
とにかく教室に飛び込み、迷路をクリアしていく。
ええい、最後の一つだけあって入り組みようが阿保みたいにえげつねぇ。
ただの教室だろうがっ!
なんとかクリアして教室を飛び出す。
あとはゴール向かって走るだ……っ!?
「爆風ッ」
教室出たらすぐ側面にバーニングデッド。
手を伸ばしてきたバーニングデッドにとっさに妖精さんが魔法を唱える。
風が爆縮するようにバーニングデッドへと襲い掛かり。たたらを踏ませる。
その一瞬で、俺たちは捕まることなく走り出す。
『急いで!』
「走れ走れ走れーっ」
ああくそ、全力ダッシュなんて久しぶりだぞ。
サナトクマラさんところで走ったおかげで多少持久力は増えたっぽいから、やっといてよかったというべきか。
ああクソ、まだか?
「後ろ来てる! 走り出したわよ!!」
ふざけんなっ!
「この、クソ野郎がッ!!」
俺はアイテムボックスからそれを取り出し投げつける。
水鉄砲でもありゃよかったが、なかったのでとりあえず適当に選んだものを投げつけてやったのだ。
「ぐ? GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA――――ッ!!?」
ありゃ? なんかすっげぇ苦しんでる?
『ちょ、何を投げたの?』
「豆腐小僧の妖怪豆腐……」
「マジで何投げてんのよ!?」
だって妖精さん。なんか投げやすそうなのが、というかアイテムボックスからとっさに取ったのがこれだったんだよ。
「これ、幸運が仕事したのかしら?」
なんか俺たち追うどころじゃなくなったらしいバーニングデッドは、その場に倒れのた打ち回る。
そしてその全身に炎を物ともしないカビが生え出し伸ばされた手は黒く染まって力なく垂れさがっていった。
豆腐小僧、なんつーもん持ってんだ……




