356.二つ目の七不思議・5
『ごめんねヒロキ』
ふいに、ハナコさんが謝ってきた。
何のことかと彼女を見ると、一瞬困った顔をして、理由を告げる。
『白とか何も答えなければ戦いにはならなかったのよ。でも、トイレの怪異として戦闘状態にしたかったの』
つまり、ハナコさんの都合で戦いに持ち越したかったと。
「バッチコイ! ハナコさんが求めてくれるならたとえ火の中水の中、むしろどんどん巻き込んで」
『もぅ、ヒロキったら……でも、ありがと』
ふぅっと一息ついて気持ちを入れ替え、ハナコさんは前を見つめる。
『私はあいつを倒したい。手伝ってくれる?』
「もちろん!」
当然とばかりに俺は頷く。
妖精さんが呆れた三文芝居ねぇとか言ってるけど無視だ無視。
『青い手はこちらのレベルに応じて強くなるわ。つまり今の時点で私たちと同じレベル帯の敵になってるってことね』
え、それ大丈夫なのか。
同レベル帯との戦闘って何気にきつくない?
俺とハナコさんの二人でか、いや、負ける気はしないな。絶対にハナコさんを傷付けさせない。
レーザー銃を構えてハナコさんの前に出る。
当然だが俺が前衛でハナコさんは後衛だ。
ハナコさんが一瞬何か言いたそうにしてたけど、諦めたようで俺の背後で鬼火を作り始めた。
『率先して盾やるんだから、倒れたりしないでよ!』
「了解!」
「ヒロキ、青い手と赤い手は遠距離型物理攻撃みたいよ。ただし、状態異常付与してくるみたい」
おお、妖精さんがまさかの役に立った!
とはいえ、接近されるなといわれても、うお!?
ものすごい速度で青い手が襲い掛かってくる。
レーザー銃で撃つも、怯みはすれどもすぐに前進。
結果、ダメージこそ与えたものの、接近を許してしまい、青い手により尻を撫でられる。
うひぃっと思わず声でたよ。めっちゃひんやりしてやがる。わざわざ俺の背後に回って触って来るとか悪趣味が過ぎる。
尻弱点を付けたままだったらスリップの状態異常がついてたかもしれ……ぐはっ!?
なんだ? 急に体が重く……
「ちょっとヒロキ? うわ、呪い掛かってる!?」
『青い手は呪いをかけてくるのね。赤い手は!?』
「今こっち来てる。ヒロキ、迎撃!」
クソ、体が無茶苦茶重い。
引き金を引くだけでもかなり力がいる気がする。
ええい、狙いが定まらねぇ!?
近づいてきた赤い腕をレーザーソードを使って切る。
銃じゃこれだけ近づいたら意味がねぇ。
おっと、意外とレーザーソードは効果的っぽいぞ。
赤い手が嫌がるように逃げ出した。
そこに鬼火が無数に激突する。
「おっけー、鑑定出来た」
妖精さんが赤い手の鑑定に成功したようだ。
「赤い手は裂傷の状態異常にするみたい。触れたら全身の傷口が開いて流血するみたい。そのまま血が流れて行って血を失ったら青い顔で失神、そのまま倒されたら終わりよ」
両方の腕が面倒なせいで戦いもかなりシビアになっている。
できればもう一人くらいタンク役がほしいところだ。
銃撃は牽制用として攻撃と防御はレーザーソードでやるしかないな。
「あ、あったあった。事前に大聖堂行っててよかったわね」
妖精さんの声と共に俺の頭に液体が降りかかる。
これ、ポーションか何かかな?
せめて事前に振りかけるよくらい教えてほしいんだけど。
おお? 体が軽い!?
これはまさか、呪いが消えてる!?
「ホーリーポーション一個使ったよー」
『ナイス妖精さん! そのまま補助お願いね』
「任された!」
なんか知らない間に妖精さんが補助することになった。
いや、まぁ、応援するだけよりはマシだけどさ、妖精さん、せめて魔法とかで回復とか補助は……
覚えてない? あ、そうっすか。
妖精といえば基本回復魔法なんだけどなぁ。さすが邪妖精か。
妖精さん、本当に妖精さん? メリーさんみたいに外の神みたいなのに擬態されてない?
あ、でも風魔法だけは普通に使えてるな。
速度上昇の補助魔法もありがたい。
でもできれば他の筋力とか知力とかの上昇も、ない? あ、はい。
中途半端な補助を受けつつ剣で切り払うことしばし、やはり近接戦闘は苦手なのか、だいぶ被弾してしまった。
赤い手の方ははじけば引いてくれるのに、青い手の方は遠慮なく尻撫でてくるから困る。
正直本気で俺は尻が弱点なんじゃないかと自分で確信する程には被弾してしまっていた。
とはいえ、おかげでハナコさんが不気味な手に尻を撫でられなかったと考えれば、これはこれでよし、だろう。
『これで、とどめ!』
ハナコさん渾身の鬼火が青い手に激突する。
HPを削り切った青い手がゆらゆらと震え、その場にぺたりと倒れた。
そして、いつもの光になって消えるエフェクトが起きず、ハナコさんに向けて光が集まっていく。
これ、まさかハナコさん強化イベントだったのか!?
 




