355.二つ目の七不思議・4
「マジ許してください」
息も絶え絶え力尽きる寸前の四人組ヒャッハーさんが床に散らばっている。
驚かされまくったせいで汗だくになって動けなくなったようだ。
それでも四人ともまだ喋れるだけの元気があるのは凄いな。
結構ヤバい体験したと思うんだけど。
「あんた、アレか、巷で話題のヒロキンか」
「テケテケさんがいる時点でなんとなく予想はできたけどよ、ああ、マジヤバかった。現実世界で失禁してねぇだろな」
「私ちょっとちびったかも……ああいや、俺ぁ何ともねぇぜ、ハハ」
「こ、このくらいで許してやんぜ。ぐふっ」
最後の奴無理に下っ端セリフ残さんでも……
「ようやく落ち着いたぜ」
「悪いな、あんたらに人体模型君を狩られると七不思議に出会えたのかどうかわからなくなるんでさ」
「あン? なんだ、お前さんここの七不思議攻略するつもりか?」
「いや、無理だろ。旧校舎まではいけるだろうけどアレは勝てんぜ?」
「捕まったら燃えて終わりだもんなぁ」
どうでもいいけど、このモヒカンヒャッハーさんさっきの言動から見て女性だよな。
なんでまたこのアバター選んだんだ?
小学生じゃなくてこの体型なら中学生だろ、とは思うけど。男性アバター使う女性って結構いるのかね?
ご近所さんで二人目だぜ?
「まぁそういうことなら、案内してやっか」
「あれ? いいの?」
「ハナコさんに会えたしな。あ、ハナコさん後でサイン貰っていっすか?」
『いいわよ』
「アカズさん、俺にサインください」
「え? 私!? ま、まぁいいけど」
アカズさんが顔を赤らめている!? なんだこのジェラシー。
いや、ただ単に自分にもファンがいると気づいて嬉恥ずかし状態なのはわかるけども。
自分がテイムしたキャラが他人の行動ではにかむ姿を見るのは、なぜかこう、モヤっとするな。
「いやー、助かりましたよ」
そして俺の元によって来るのはニノキンさんと人体模型君。
いや。お前らじゃない。お前ら呼んでない。近寄ってくんな。
「しかし、お兄さん凄いですね。七不思議っていえばボスクラスじゃないですかー、いや僕もなんですけどね。でもその七不思議の三体も、味方に引き入れてるなんてねぇ、そのうち七不思議揃えちゃう気ですか?」
「いや、別にそんなつもりはないんだけどな。まぁなるようになるだろ。それより次の七不思議巡りたいんだけど、どこにある?」
「えーっと、トイレの青い手赤い手かな?」
「あれは答えちまうといろいろ面倒になるからよぉ。答えずさっさと飛び出すのが一番だぜ」
「ん? 黄色って答えりゃいいんじゃなかったか?」
「あれだろ、便器から手が出てきてケツ撫でられるんだろ?」
地味に嫌な怪異だな。
「いや、それ多分妖怪のカイナデじゃないかしら? 多分青い手とごっちゃになってるわよ」
「あれ? そうだったか?」
ダメだ、ヒャッハー軍団にこういうこと尋ねても曖昧な記憶しかもってねぇや。毎日がヒャッハーだもんな。覚えられるわけがなかった。
「まぁ、せっかくだ、案内するぜ」
「つか七不思議の怪異と一緒に行動するって俺ら何してんだ?」
「面白そうだし、たまにはいいんじゃね?」
モヒカンたちが仲間になった!
テッテレー。
って、なんかそれはそれで嫌だな。
皆に案内されてやってきたのは女子トイレ。
ハナコさんがいた場所と同じ三つ目のトイレにその怪異はいるそうだ。
とりあえず、扉を開いて、っと皆入るのは難しいな。
「とりあえずヒロキしゃがんだら?」
「妖精さんや。ここ女子トイレ」
「でもプレイヤー男ばっかじゃん。怪異も怪異相手じゃ出てこないでしょ」
そうかな? 意外と出てきそうな気もするんだが?
まぁいいや、ここにしゃがめばいいのか。
っていうか今更ながら珍しいボットン便所じゃないですか。
ドアを閉じて、妖精さんと二人個室に入る。
なんか、その気はないんだけど二人きりでトイレに入るって、なんかエッチな響きだな。
そう思わない妖精さん?
「やだもぅ、ヒロキったら私に何する気。いやんエッチ」
「いろんな意味で残念だよ。っと、そろそろ来るか?」
『紙が欲しいか?』
『いらないわよ、一昨日来なさい』
あれ、ハナコさん?
『トイレといえば私だもの。手伝うわ』
ああ、これ、もしかしなくとも個人戦闘突入っすか。
ハナコさんとの戦闘時に来たような特有空間に入り込んだ俺たちは、目の前に飛び出してきた赤い手と青い手に武器を構える。
レーザー銃、効くだろうか?
鬼火を扱うハナコさんとレーザー銃の俺、そして応援する妖精さん。
俺の頭の上で必死に応援してくれるのはいいんだけどさ、攻撃とは言わないから補助魔法とか使ってくれませんかね?
妖精さん、もうちょっと仕事して?




