340.こんなはずでは
SIDE:???
唐突にアラートが鳴り響いた。
管制室にいたピエロたちがびくりと肩を震わせモニターを見る。
「し、侵入者!? なんでここに!?」
「おちつけピエニア。とりあえず逃げ込んできただけだろ。二階にある罠で死ぬさ」
「で、でも、ここのドアはイベントをいくつもクリアしてようやく開く最終ステージよ!?」
「お、ほほ、素晴らしいですぞピエニア、ピエロム。この侵入者迷うことなく階段を上がってきておりますぞー」
「他の市民はプールに入る勇気さえない様子なのに、こいつら迷いなく突撃してくるな」
モニターに映るのは、水着の一軍。
かなり大人数で正義の味方と思しきメンバーも何人か、いや、それよりも、妖怪に幽霊もいるのか?
なんだこのメンバーは? 混成部隊?
「あ、こいつ、要注意人物に指定されている奴だ。前回以前のデスゲームでやらかしてるぞ!」
「なにっ!?」
「ツチミカドヒロキ。我がデスゲーム委員会のメンバー二人を警察送りにした要注意人物だ!」
「馬鹿な! そんな危険人物がなぜ紛れ込んでいる!?」
「一回だけだったから上はそれほど危険視していなかったんでしょ。それよりどうするの!? これ、もう二階突破してるわよ!!」
ピエニアの言葉にモニターに視線を向けると、確かに三階への階段を上がっている姿が見えた。
馬鹿な、速すぎる!?
「二階の罠はどうした!?」
「や、闇に飲まれました」
「はぁ?」
何を言ってるんだピエッタは?
「いや。本当に闇に飲まれたとしか言いようがないというか……」
「お、おい、三階を見ろ! 個室ステージが崩壊してる!」
「なんだこの赤い部屋は!?」
「お、俺の作った罠が、全滅?」
ま、まだだ。まだ四階の罠がある!
「三階突破されました! 何なのよこいつら!?」
「は、はは。残念だったな。四階は知略ステージだ。ゲーム知識や暗算知識がないと……えええ!?」
小太りの少女が前に出たと思ったらゲーム知識が必要な罠を最速でクリアし始める。
迷いなく選ばれていく選択肢は問題文すらほとんど出ていない状態で次々に正解へと向かっていく。
暗算ステージには機械と思しき女が前に出てきて、これもまた最速でクリアしていく。
クソ、どんだけ有能なスパコンを詰め込んでるんだあの機械人形ッ!
「よ、四階突破されました!!」
「だ、だが知略しかないならば五階のバトルステージは……」
「き、キメラがマンホールで瞬殺されました!? マンホールって切り裂けるのか!?」
「な、なんだこれは? 何が起こった!? トロールが、あの超速再生持ちの改造生物が爆散だと!?」
「あ、ありえない、速度特化したウルフだぞ、腕だけのくせになぜ速い!? 速度で負けるなど、あああ俺の最強生物がぁ!?」
もはや絶叫しかなかった。
あるものは頭を抱え、あるものは慟哭し、自分たちの自信が一つ、また一つへし折られていく。
自慢のデストラップは即座にクリアされ、最強の刺客は粉砕され、着実にこの管制室へと近づいてくる。
「く、くくく、はははははは。六階は池ステージだ! 階層一杯に張られた水の中にはサメとワニとピラニアのオンパレード、貴様に突破できるか! 七階への階段まで道は一つも、一つも……飛んだァ!? 腕が伸びたァ!? 壁を疾走したぁ!? あ、あ、あばばばばばばっ」
「さ、最終階層まであと一階、次のトラップで足止めできなければここまで来ます!」
「あ、ありえん。こんなはずでは、こんなはずではっ」
「最後のトラップはなんだ!?」
「え、えっと、へ、部屋に閉じ込めて電子レンジ攻撃です」
「はは、ははは。ならば階段出現はレンジ後だな。勝った、勝ったぞ! 俺たちの罠の勝利……」
それは部屋だった。個室だった。
ゆえに、その階層すべてが赤くなる。
個室、すなわち、開かずの部屋。
「電子レンジ、は、発動しません!?」
「ごばぁ!?」
「こんな、こんなバカな!?」
電子レンジ発動機は赤いドロドロしたものに溶けて消えた。
しばしの赤い部屋のあと、扉が開かれ侵入者たちが階段を駆け上がるのが見える。
「い、いかん、このままでは、トラップは! トラップはないのか!?」
「あとはもう脱出装置しか、これを使うとこのデスゲーム自体が崩壊します!」
「馬鹿な!? まだ始まっていくらも経ってないのだぞ!?」
「死者2名。まだ増えません、というか増えそうにありません! 皆侵入者たちのことを見ているようでプールに入る者がいません!」
「くぅぅ、おのれツチミカドヒロキぃ」
「呼んだか?」
名を呼んだ次の瞬間、ドアが吹き飛び、そいつは現れる。
そいつはゆっくりと指先を私たちに向け、告げる。
「全員生け捕りだ、スケさんカクさんやっておしまいなさい!!」
「迷ってる暇はない、ピエニア脱出ボタンを、ボタンを押せぇ!!」
ピエニアが慌ててボタンを押しに向かう、だが、バーニア吹かして飛んできた機械人形に取り押さえられたのだった。




