33.行きは幽霊帰りは狐、恐いながらもとおりゃんせ・4
風狐が油揚げに舌鼓を打つ。
普段食べたことのないものなのだろう。一心不乱に食べている。
「阿呆っ!? 戦闘中だぞ!?」
「コン!?」
稲荷さんの言葉にはっと我に返った風狐。
顔を上げた先には俺の姿。
ツチノコさんが怯えたように首を竦めている。
が、もう一人を見付けられないようで、慌てて周囲に視線を向ける。
その背後に、それは居た。
ばっと両手を使って器用に飛んで、放物線を描きながら風狐に接近。
鎌を大きく振り被り、気配に気付いて振り向いた風狐の首を、切り裂いた。
うっわ、スプラッター!?
血飛沫と共にくるくると舞いあがる風狐の首。
気付いてない相手への一撃で魂狩りの即死が発動したようだ。
というか、今の魂狩りじゃなくて首狩りじゃない?
一撃で即死だよ。どれ程強いかとか全く分からんかった。
「なんという……まさか一撃で終わるとは」
「ふふん、おねーさんだってやるんだから」
いや、やれることは分かってんだよ!?
相手の隙を作りだして狙った事とはいえ、綺麗に決まり過ぎるとさすがにちょっと悪い気がしてくる。
「試練結果は結果じゃ。普通はもっと苦戦するものなんじゃがなぁ。まぁよい。神通力を授けようかの。どれが良い?」
あ、選択式なのか。
―― 次の中から一つを選んでください ――
感応Lv1: テレパシーを受け取れるようになります。
腕力強化Lv1: 腕力を増強します。
幸運Lv1: 善い事が起こるようになります。
縁結び: 異性との出会いが多くなります。
占いLv1: 占い師になるために必須のスキル。
う、うーん?
なんか微妙?
感応ってつまり電波さんになる奴だろ。
腕力強化してもなぁ、取ったの蹴りスキルだし。
幸運は持ってるし、縁結びってハナコさんがいるからもう縁はいらないし。
占い位か? でも俺が占い出来てもなぁ……
「なんじゃ? どうした?」
「あんまり欲しいスキルがなかったような顔ねぇ」
「取れるスキルは5つなんだけどさ、感応って電波さんになる奴だろ。何か聞こえる、みたいな? 腕力強化されても、攻撃スキルは蹴りだし。幸運持ってるだろ。縁結びも何も既にハナコさんとは出会って結ばれる寸前だし。占いっても俺が占いとかしてどうなるよ?」
「あらら」
「むぅ、しかしだな、ワシからの加護はこれくらいしか……」
「じゃあ、アレしかないわね」
「「アレ?」」
テケテケさんの言葉に俺と稲荷さんが小首を傾げる。
「テイムよテイム。神通力が差しだせないならその身を差し出すしか無いでしょう。負けたらテイムされる、それがヒロちゃんの能力でしょ」
待って、そんな能力持ってないよ!?
「テイム……わ、ワシをか!?」
「そうそう、だって戦って負けたでしょ」
「いや、ワシが戦った訳ではないじゃろ!? それに……」
「ヒロキ、アレだしてさっきの」
さっきの? もしかしてコレか?
俺はソレを取り出すと、テケテケさんが奪うようにソレを取り、稲荷さんの目の前で振り始める。
「ほーらほーら、だんだんテイムされたくなってくーる」
催眠術かな?
とりあえず称号をジャイアントテイムに変えとくか。
「う、うーむ。しかし、じゃな。ワシ一応神なんじゃけど……あー、もぅ、わかったわかった。ほれ、これで良いか」
―― 稲荷さんが仲間になりたそうにしている、テイムしますか? ――
マジで来ちゃったし。とりあえずテイムで。
「とはいえ、ワシはこの神社を離れることは出来ん。そこで、依代を使って主の傍に居てやろう」
と、人型に切りぬかれた紙を取り出し稲荷様が投げる。
すると煙を噴きだし稲荷様と瓜二つの少女が現れた。
巫女服を着た姫カットの可愛らしい女の子だ。
「これを通していつでも見ておるでな。気が向いたら真名も教えてやろう」
カッカと笑いながら神社の境内に上がっていく稲荷さん。どうやらあそこが住まいのようだ。
「話は終わった?」
「「はぅ!?」」
そ、そうだった。タマモの姐さんが見守ってたの忘れてた!?
なんとも複雑な顔をしたタマモと、見覚えのないお爺さんが待っている場所へと俺は逃げようとしたテケテケさんの襟首掴んで近づいて行く。
「ヒロちゃん、後生、後生だからぁ」
はいはい、罪は償おうね。俺まだ垢BANされたくないんだ。
「姐さん、下手人捕らえましてございます」
俺はタマモの姐さんの前へとやって来ると、臣下の礼を取った。
「御苦労」
「お、おのれヒロキ、裏切ったわねーっ」
「全く、何がどうしてこうなったやら。折角のゲームバランスが一気に壊れておるぞ。まさか稲荷様までテイムされようとは」
「しかも本人が乗り気だったからね。油揚げで釣られてたし」
このお爺さんも妖怪か何かか。容姿的にはどう考えても頑固ジジイって感じなんだけど、威厳があり過ぎるし、恐らくぬらりひょんだろう。




