325.運営さんは頑張っている7
異世界転移によるプレイヤー神隠し事件が大事になる手前のこと。
ヒロキという一プレイヤーが異世界に呼ばれたことで事件は起こる前に立ち消えた。
というか、むしろプレイヤーのほとんどが異世界行きを希望し始めていた。
なにしろ異世界に行けば魔法が使えるようになる。
しかも金さえ払えば誰でも覚えられるのだ。
さらについ最近アップされたチューブ動画で、ヒロキたちが現実世界、といえば意味合いが違ってくるのでゲームの中ではあるが、元の世界で魔法を使っているモノが放映された。
そのため異世界で魔法を覚えて魔王を倒せば魔法使い放題。という情報がプレイヤーたちに共有されたのだ。
同時に危険な魔物に関しても戦う方法や使ってくる技をチューブで放映。
一時期ゲームを離れていたスライム敗北組も、このチューブを見て再びゲームを楽しみ始めたこともあり、週刊売り上げTOPに躍り出た。
課金アイテムまで一気に売れ出したのだから驚きである。
よほど強制異世界召喚による詰みはプレイヤーたちのストレスになっていたようだ。
そのストレスが解消されたのだから財布の紐まで一気に緩んだのだろう。
何にしろ、ヒロキの行動により、また運営チームは恩恵を受けたのである。
そのヒロキからいろいろと質問や改善点が上がってきているので、その対応に追われ、最近また残業が増えた。嬉しい悲鳴だが、怨嗟の声もヒロキ向けて上がっている状況である。
あと、ローリィの家に置かれた魔法書からは魔法を覚えられないように修正を入れることになった。
調べればあそこの魔導書だけでほぼ全ての隠し魔法が使えるようになっていたからである。
また、彼らの要望により、スデニシンデター殺害事件の解明をクリア後に閲覧できるようにし、魔王と四天王など重要人物はプレイヤー個人ごとに出現することにした。
この辺りはAIが自動判別してくれるからこその処理だがかなり面倒な作業だったために残業が増えることになったのである。
「何が、起こった……?」
そしてまた、室長の頭を悩ませることが一つ。
それはヒロキが使った魔法の一つ。テレポートだった。
まさかの異世界魔王城に出現。取り残されていたヘンリエッタの霊体を迎えに行ったのである。
それを見た運営陣は目を点にした。
異世界に戻れるということは、やろうと思えば一からイベントを起こせるのだ。
魔王退治のために放置したイベントをこなし始めてしまうとヒロキたちがまた手に負えない存在になってしまいかねない。
仕方なく、これも修正することにした。
ヒロキが元世界に戻ったのを確認してパッチを当て、異世界では異世界のみのテレポート、元世界では元世界のポイント設備のみのテレポートに変更したのである。
ヒロキに伝えるとすごく納得いかない様子だったものの、ハナコさんにお願いして何とかなだめすかしてもらった。
「レムさんが動かしてるネタキャラどうするんだ? おい、そこの責任者」
「い、いやー、まさかあれを動かせる存在がいようとは。朽ち果てた機械人間っていうオブジェクトにするだけのつもりだったんですけどね」
「だったらなんで攻撃手段作った!?」
「だって、せっかく作ったキャラですし、ぼくのかんがえたさいきょう人造兵器、にしたいじゃないですか。そもそもあの機械の性能許可したのは室長でしょ!」
「あんなことになるとかわかるか!」
「俺だって予想してませんよ!? ただの意味ありげに存在してるだけの牢内オブジェクトだったんですよ!!」
どうせ使われることのない屍のようなものだからって悪ノリしたら見事に有効活用されました。
しかもスレイさんが嬉々として研究し始め、メカニカルベアともども今は悪の秘密結社による量産化計画が始まってしまっている。
「なんとかナーフ、できんか?」
「いいんすか? これまでかなりヒロキンさん周辺をナーフしてますが。これナーフしたらAIたちも臍曲げますよ」
「ぐぅ……テイムキャラまで増やしやがってあのチューバーどこまでやらかせば……」
「室長……」
「なんだヒロキン担当っ、いや、待て。待ってくれ。ヒロキン担当だと? ちょ、ちょっと待ってくれ深呼吸させてくれ」
室長は大きく息を吐いて。吸って。気合を入れなおし、もう一度深呼吸、でもやっぱりできれば聞きたくないのでついでにもう一回。しかし聞かないわけにもいかないので覚悟を決めて、最後の一回深呼吸。
「何かあったのか?」
「ヒロキンがステータス確認始めたんですが、いろいろおかしくなってます」
「い、いつものことだな。はは。あとで決死の覚悟を決めて見るとしよう」
「それから、新メンバーの水着を買いに向かって、絡まれました」
「なんにだよ!?」
「あと……」
「ま、まだあるのか……」
「ヒロキンたちが向かうプール、デスゲーム委員会がデスゲーム行うって言った日付と合致してるっす」
「ガッデム!! 何としてでも日付をずらせ!!」
運営は、今日も頑張っている。
 




