303.襲来イベント
魔法屋さんに寄ってみた。
新しく手に入ったのは、エアカッターとキュアストとキュアチャ。
それからホーリーレイとダークネスのマジックスクロールだ。
キュアストは石化を、キュアチャは魅了を回復する魔法らしい。
全部キュアシリーズにして覚えさせればいいのに、一つ一つ買うの面倒だよな。
レイレイさんがダークネス手に入れたことで、なんか中二病っぽいこと言いながら魔法唱えて遊んでいた。
町中で魔法使ったせいで兵士たちがやってきてすごく怒られていた。
これだから生配信者は。まったくもぅ。危なく俺もやるとこだったぜ、あっぶね。
冒険者ギルドにやってくると、場末の酒場みたいな雰囲気だった。
随分と人が少ないし、受付嬢に笑顔がない。
カウンターにならんで情報を尋ねると、なぜか口ごもってから依頼書の場所を告げるだけで他は何もありませんときた。
これ、多分イベントだな。
何か尋ねたらイベント開始するやつだ。
何かのキーワードをしゃべらないようにしないと巻き込まれるな。
「随分疲れた顔ね。大丈夫?」
あ、マイネさんっ!?
俺の顔を見たレイレイさんとりんりんさんは何かを察したようだが、マイネさんは持ち前の正義感からかついつい尋ねてしまった。
そして、そのイベントが始まった。
「これは、その……」
「襲撃、襲撃だーっ!! また奴ら来やがった!!」
あー、強制戦闘かこれ。やってくれたなマイネさん。
ようやく気付いたマイネさんが俺たちの顔を見て、地雷を踏んだことを悟る。
「あー、その、ごめん?」
「発動した以上は仕方ない、戦闘準備はしっかりしてくれよ皆」
その場にいた冒険者たちが悲痛な顔で動き出す。外へ出ていくのを見届けて、俺たちも彼らの後ろをついていくことにした。
すると、町門の一つが破壊された場所へと向かうことになった。
フィールド側から巨大な人型生物とシルクハットでサーカス団団長、みたいなタキシードにちょび髭の男が鞭を持った状態で近づいてくる。
あれが今回のイベントか。
「また来やがった、魔王四天王の一人、魔物使いのラングウェイ……」
ほほぅ、魔王四天王とな!
「のほほほほほほ、人類の皆さんごきげんよう。さぁ我が配下になる気にはなりましたかな。この国が亡びる前に返事をお聞きしたいですねぇ」
「ふざけるなっ!」
「この町は俺たちが守るっ!!」
お、おお、なんか熱い冒険者が数人いるぞ。
マイネさんも彼らに興奮して正義の味方かしら、とか言ってるけどさすがにこの世界にはいないと思う。
ああ、異世界召喚されてる可能性はあるのか。
「今回も交渉決裂ですなぁ。では、適当に遊んでやりなさい。ハイオーガ」
ラングウェイの言葉で咆哮を上げるハイオーガ。
ものすごい声量で周囲の家が軋みをあげる。
「臆するな! やるぞ!!」
「相手は一匹、囲めばやれるぞ!!」
わーっと叫びながら突撃する冒険者たち。ハイオーガの拳が振るわれ、一人の冒険者が吹き飛んだ。民家の壁に突き刺さり、力が抜けたようにブランと垂れ下がる。
威力えげつねぇ。
「のほ、のほ、のほほほほほっ!! 威力が強すぎましたかねぇ!!」
高笑いするラングウェイ。
ハイオーガも次の敵へと視線を向けて……その頭上、太陽を背に彼女は跳んだ。
ハイオーガの無防備な頭蓋にマンホールがめり込む。
「なんだとぉっ!?」
「人々に仇なす悪人め、貴様の悪行はここまでよ!!」
「くっ!? 何奴っ」
「異世界の平和は私が守る、マンホール少女マイネマイネ、ここに推参っ!!」
びしっとポーズを決めて、なんかノリノリのマイネさんがラングウェイと対峙する。
せ、正義の味方だ。正義の味方が目の前にいるっていうか誰もいなかったから自分がやったった件、みたいになってるっ!?
「おのれマイネマイネ! しかぁし。残念でしたなぁ」
「あら、ハイオーガはクリティカルヒットで即死したわよ? もう諦めたらどう?」
確かにハイオーガは光となってドロップアイテムを落としているけど、マイネさんそれフラグ。
「のほほほほ、だ・れ・が。ハイオーガは一匹なんていいましたかねぇ」
「っ!?」
うおぉ!? 地面からハイオーガが生えた!?
こいつら地味にレベル高いぞ。
冒険者たちもさすがに青い顔をしている。
このイベント、おそらく冒険者たちが犠牲を出しながらなんとかハイオーガを一体倒して起こるイベントだったんだろう。
となるとこいつを撤退させるために強力な助っ人が来る可能性があるか。
でも、そいつが来るまで何人の犠牲がでるか。
うん、そうだな。犠牲は少ないに越したことはない。
「エルエさん殲滅モード。レムさん、二人の警護をお願い。さぁ。千体撃ちとしゃれこもうか」
エルエさん、どちらが多く倒せるか、勝負だ!




