301.運営さんは頑張っている6
SIDE:運営 川島
「よし、通った。通ったぞ皆!」
「無事第三回イベント通りましたか、ヒロキ君チーレムにおんぶにだっこだけどいいんすか?」
「問題ない。とにかく専用ステージの作成とルールの作成、ヒロキ君から来た要望書もよく目を通してくれよ。下手なバグ出さないようにしないとだ」
何度目かの会議でようやく許可がでた。
最後までごねてやがった別ゲームの室長、あそこいっつも俺んとこ目の敵にしてるからほんとマジ勘弁してほしい。
今回もプレイヤー一人の戦力に頼ったイベントなど運営としてどうなのか? とかごねやがって。
しかも社長の覚えもいいからほんと厄介だよあの会社のダニめ。
ともかく、許可はもぎ取った。あとはもうイベントを成功させるだけだ。
とりあえず許可出たことをヒロキ君に連絡して詳細を詰めていかないと……
「室長緊急事態っす」
「なんでかなぁっ!!」
なんでこう、一つの厄介ごと終わった途端に次の厄介ごとがくるのかなぁ!!
「キレたくなる気持ちもわかりますが、ここ数日別サーバーの異世界がプレイヤーをどんどん強制召喚し始めてます。しかも召喚先はレベルが別に計算されているせいでスライム強すぎのあの世界」
「あああ、スライムが攻略できずに諦めてログインしなくなった人が日に日に増えていくぅ」
嘘だろ。誰だよそんな異世界作った奴は!?
「これ、確かAIに任せた奴じゃないか? どんな世界作るか試した時の」
「げっ、ってことはシステムいじれねぇじゃん」
「どうにか俺らで変えられるところはねぇの?」
「AIに土下座でもするか?」
あああ、一番面倒なタイプの失態じゃねぇか、どーすれば……
「あ。皆ー、なんかその厄介ごと解決しそうだぞ」
「ヒロキン担当? ま、まさか……」
「ヒロキン異世界へ。早速スライムと戦って魔法で撃破成功。掲示板でつぶやいたことで皆攻略法見つけて異世界掲示板がお祭り状態だ」
「うわ。マジだ!」
「さすがヒロキン、なんかよくわからんとこで巻き込まれて結果的にやばい状況をつぶしてくれている!!」
正直、これはもうヒロキ君自身のリアルラックではないかとすら思えてくるのだが。AIの誰かがひいきしてたりしないだろうな?
可能性は否定できないな。
「しかも今第三エリアまで来てる。実は進行度ベスト3。こいつらレーザー銃使ってパワーレベリングしてやがる」
それはただのレベル上げでは?
「え、もう第三エリア!? ここ、イベント豊富にして5エリアしかなかったはずよね」
「イベント全無視で魔王に向かってるなヒロキンたち。どうやらさっさと自宅に帰りたいようだ」
自宅に帰るために魔王退治RTAかよ!?
「はっ!? テイムは!? あいつ異世界のやべー生物テイムしてないか!?」
「イベント全無視してるから問題はないけど……メカニカルベアを自動車代わりにレムさんが動かしてるくらいかな?」
いや、意味が分かりませんが!?
レムさんてグレムリンのことだよな。
なんでメカニカルベアを自動車代わりに……っていうかもう空飛んでんじゃねーか!?
なんでクマにバーニアついてんだよ!? あああ、このクマすでに絶命してるのにアイテムになってない!? バグじゃないのか!?
ちょ、ヒロキン担当!?
「俺に聞かんでください。グレムリンのいたずらに関してはエネミー担当でしょ」
いやそうだけど、そうなんだけど、根源がヒロキ君じゃないか!?
「あ」
今、言った。あって言った!
ヒロキ君またやらかしただろ!!
「いや、ヒロキ君云々というかりんりんさんがメーメーさんに埋もれた」
りんりんさんって誰ぇ!? メーメーさんってまた新しい生物テイムしたんですかねぇ!?
「あ。阿保かこいつ。すっげメーメーさんやばいな」
「だっしょ。可愛いだけじゃなく攻撃もすごいのよ。私作」
「この狼男君が可愛そうになるくらいのえげつない執拗な攻めだったな」
「怒涛のタックルラッシュよ、いいでしょ」
クソぅ何だあの甘ったるい空気感は。
「あ、デスゲーム委員会が動き出した」
「またあいつらかよ!?」
異世界何とかなりそうだと思えば、今度はなんだ!?
デスゲーム委員会ほんと何とかしてくれよ。
お前の担当だろ?
「なんすか? 俺にデスゲーム委員会を止められるとでも?」
生みの親のくせにっ、生みの親のくせにぃぃぃっ。
はぁ……なんかお腹痛くなってきた。
「室長」
「なんだ?」
「胃薬、要ります?」
「……貰おう」
運営の仕事に終わりはない。
我々の仕事が止まるとき、それはほのぼの日常オンラインがサービス終了を迎える時くらいだ。
だから、どれほど災厄が襲って来ようと、バグが起きようと、我々は修正をし続けねばならないのである。
ああもぅ。ほんと胃薬うめぇっ!!




