299.お約束イベント
町自体はすぐに入ることができた。
衛兵さんも冒険者としてメカニカルベア倒せるような奴はぜひとも町中の依頼を受けてほしいのでギルドカードだけ見せればすぐに検問通過である。
町中の賑わいは普通の町って感じかな。
そこまで賑わってないけど馬車が通ったり商店街の露店に人が行きかっていたり。
お、魔法屋発見。とりあえず覗いてみようぜ。
魔法屋の品揃えはあんまり変わってなかった。
中級魔法とかないのかって聞いてみたんだけど、どうやら最初に覚えた初期魔法を使い続ければ熟練度が上がって勝手に強くなっていくらしい。
となると、初期スキルさえ覚えればあとは勝手に覚えていくわけか。
ここで手に入ったのはキュアバイのマジックスクロールとロックフォールのマジックスクロールだけだった。
とはいえ、土属性魔法は一度覚えれば中級上級と覚えていくらしいし、キュアバイはバインドスキルを回復させる魔法らしいから、それなりに使えるはずだ。
「はぁー、ほんとにいいあるか?」
せっかくパーティー組んでるのでレイレイさんとりんりんさんのスクロール全部買ってみた。
まぁ今の俺にとってははした金だ。存分に使って還元してやんぜ運営さん。
「ヒロキンさんお金だけは持ってるから遠慮しなくていいわよ」
「ふふ、レムさんお揃いだね」
「きゅい?」
レムさん何のことかわかってないぞりんりんさん。
おそらく魔法がお揃いになったって言いたいんだろうけど、皆同じだからな、多様性はしばしお預けだ。
というかレムさんや。そのクマの亡骸いつまで触ってるの? というか半身のっとってバーニアで移動するのみんなびっくりするからやめない?
いや、まぁ気に入ったならいいんだけどさ。クマさんもう事切れてるのに早く楽になりてぇって顔してるんだけど。
しかし、グレムリンもこれはこれで有能だな。敵の機械乗っ取って自分専用の攻撃手段にできるわけだろ。
……ドロップアイテム手に入ったのにレムさんが死体いじりをやめなかったせいで死ぬに死ねなかったメカニカルベアさん、おそらくレムさんから離れれば光の粒子となって消えるんだろうけど、もうちょっとだけ付き合ってあげてくれ、ナムー。
「とりあえず冒険者ギルドに顔を出すか」
「情報収集するにもまずはギルドよね」
「お約束イベントあるあるかー」
「そういえば最初の町ではなかったわね」
そんな雑談をしながらギルドの扉をくぐる。
ギロリ、男たちの警戒の視線が俺たちを射抜いた。
思わず立ち止まってしまう。
なんだ、空気悪くね?
男たちの一人が立ち上がる。
うわでっか、二メートルぐらいある巨漢の男だ。
が、俺たちに遅れて入ってきたレムさんが乗ったメカニカルベアを見て出しかけた足を止めた。
そしてなぜかくるりとUターンして自分の座席に座りなおす。
あー、これ、ギルドで新人さんに絡んでくるイベントキャラだったか。
せっかくのお約束で捻り潰して期待の新人出現、というイベントがレムさんのせいで潰れたようだ。
何しろ兵士さんたちもできれば戦いたくないと告げていた危険生物メカニカルベアの死骸で遊んでるレムさんがいるからな。少なくともメカニカルベア倒せるレベル帯だってことが分かって即座に回れ右したらしい。
そして男たちが一斉に視線を逸らして以後、こちらを見ないように会話を始めていた。
だめだこりゃ。関わったら殺される危険なパーティー扱いされてる気がする。
どうする、〆る? じゃないよマイネさん。マンホール素振りしないでくださる?
最初に近づこうとした男の人、背中が震えてるぞ。
「すいません、この街に来るのは初めてでして、いろいろお聞きしてもいいですか?」
なので、俺らを警戒していた笑顔の受付嬢さんに朗らかに尋ねる。
会話が可能なパーティーだと理解してくれたようで、ちょっと固い笑顔ながら丁寧に説明してくれた。
おかげで魔王城へはここから北西側にあるサーダストリーという町に向かえばいいようだ。
多分町中を歩けばイベントに遭遇するんだろうけど、最速を目指す俺たちは次の目的地もわかったのでさっさと向かうことにしよう。
それから換金所を教えてもらい、今まで手に入れたドロップ品の中で売れるものを売っておく。
肉系はおいておこう。あと素材は色々使いそうだから……売れるのは霊子とかしかねぇな。
俺はいっか、下手に売ると金があまっている今の現状だとさらにお金が増えるだけだし。
マイネさんたちが不要アイテム売ってる間に俺は冒険者たちのもとに向かい、情報を聞き出していく。
こちらからはメカニカルベア倒した話を情報として話しておく。
意外とこういう話でも別のパーティーがどういう倒し方をしたかで戦略の幅を広げられるので冒険者たちにとっては欲しい情報なのだそうだ。
ふむ、どこのフィールドに何が出現するかはある程度分かったな。
冒険者たちの言葉が本当かどうかはわからないけど、この町周辺のダンジョン位置もわかった。
行く必要はないから全部放置するけどね。




