293.巻き込まれた人々
「あー酷い目にあったわ」
しばらくするとマイネさんが戻ってきた。
情報収集中に飲むことになったエールに痺れ薬が仕込まれていたらしい。
残念ながら気付かず飲んでしまい、痺れてる間に人攫いにあったようだ。
エロイベントはなかったようでほっと一息ではあるものの、マイネさんは自分の不覚にすごく悔しそうだった。
一歩間違えればゲームで初体験の可能性も、いや、そういうのはないんだっけこのゲーム。
じゃあ安全だ。多分。
拉致された場所で絶望していた彼女だったが、なぜかそこにマンホールがあったらしい。
なんでも異世界から召喚されるのは人だけじゃないらしく、たまに使用用途のわからないアイテムも道端などに落下しているらしい。
運よく牢屋の中にマンホールが落ちてたんだそうだ。
絶対運とかじゃないだろ。
何かしらの力が働いていると思っていいだろう。
もしかすると主人公の初戦闘とかそういうイベントだったのかもしれない。
やっぱり俺の方が巻き込まれで、本来召喚されてたのはマイネさんだったんじゃないか?
マイネさんにそう伝えてみたら絶対ない。とかすごい否定してきたけど、俺はそっちが正解だと確信しています。俺のせいじゃなかったんだってこの世界飛ばされるのは。
「どっちであろうと、やること、は、変わらないデス」
「それもそうね。とりあえず宿も取れたし休息もできた。情報共有したら魔王退治に向かいましょうか」
「突発系だしそこまで敵のレベルは高くないと思いたいけど、すぐ終わるといいなぁ」
入手した情報を出し合う。
うーん。次の町に行くには北側に向かえば着くか。
他の情報は基本町中のイベントフラグっぽいな。
もちろん、それをクリアすることで何かしらのいいアイテムとか貰えるのかもしれないけど、とりあえず魔王倒してさっさと帰る方向で行動することになりそうなので、エルエさんにイベントっぽいフラグを覚えてもらうだけにとどめ、俺たちは宿を出ることにした。
さて、そんじゃ情報にあった魔法屋にだけよって北の町を目指そうか。
魔法屋にはスキルスクロールというものがあるらしく、使うだけで魔法を覚えられるそうだ。
これはもう買いだろう。
「おや、いらっしゃい」
ちょっと怪しい魔法屋へと入ると、カウンターの奥にいた老婆が反応する。
見るからに魔法使いといった三角帽子に藍色ローブの怪しいおばあさんだ。
鷲鼻だし、イボの付き具合が悪の魔女って感じしかしません。
大丈夫かこのばあさん。実はラスボスとかじゃないだろうな?
「ふぇっふぇっふぇ。そんなに見つめられると惚れてしまうぞい」
「ひぃ!? マイネさん交渉お願いしゃっす」
「エルエさんの後ろに隠れない。まったくもう」
あきれながらも交渉するためにカウンター前へと向かうマイネさん。
さっすが、頼りになりますっ。
「ウチに置いてあるのはこれくらいじゃよ」
ファイアのマジックスクロール
アイスのマジックスクロール
バレットのマジックスクロール
ヒールのマジックスクロール
キュアポイのマジックスクロール
基本的な魔法だな。
でも全種類いただきます。
とりあえず30づつかな?
「いや、買いすぎでしょ!?」
「戻ったら皆にも覚えてもらおうと思って」
「あぁ。まぁ好きにするといいわ……」
すっごい呆れられたけど、俺はハナコさんたち用の魔法も持ち帰るんだい。
おそらく町ごとにアイテムが違うはず。次の町に買いに行かないと、まだ見ぬ魔法たちよ、我が軍門に下るのだぁ。
意気揚々と店を出て町の外へ。
まずは自分にすべてのマジックスクロールを使って試し打ちだな。
いやーいい買いものだった。
城下町を移動して町門へ。
ん? なんか町門に屯ってるのって……
「あれってほのぼののプレイヤー?」
「ちょっと聞いてみるか」
俺はあきらめたように座り込んでいるお姉さんのもとへ向かい、尋ねてみる。
あー、やっぱり。問答無用で召喚されちゃって外の敵が強くて攻略断念したようだ。
強い、のか?
どうやらスライムからしてほのぼの世界とは違うらしい。
こちらのスライムは物理攻撃がほぼ通らず、魔法さえ使えれば楽に倒せる魔法に弱いタイプのスライムらしい。
お姉さんマジックスクロールのこと知らなかったようだ。
教えてあげるとすごい勢いで魔法屋へと向かっていった。
あとは少年や青年ばっかりだから話しかけづらいな。
「露骨に尋ねる相手を選んだわね」
「何のことでしょう?」
「仕方ないから私が聞いてくるわ」
と、少年たちに話を聞きに向かうマイネさん。
中身おっさんなのが多いと思うけど、よほどやばそうなら助けに入らないとね。
まぁ大丈夫だろうとは思うけど、最悪GMコールしないとね。




