273.第一回幻想生物巡り6
「初めまして皆さん。私は……」
改めて、身長の高いお姉さんが自己紹介をしようとした矢先のこと。
電話の音が鳴り響く。
どうやらお姉さんが持っていたヤツが鳴っているようだ。
「はーい、どちらさ……あら、たーくん。え? すぐこいって? やだもう、私がいなきゃ何も出来ないんだからぁ。仕方ないわねたーくんは」
う、うーん。なんだこの告白しようと思った相手が他人の女だったような複雑な感情は?
「あー、ツチノコさんごめんね。たーくんからすぐに来てって連絡来ちゃったの。急いで行かなきゃ。私の可愛いたーくんが泣いちゃうっ」
って、速!?
時速80Kmくらいの速度でスプリンター走りしてったぞ!?
結局名前も分からんかったし。
「あれ、結局誰さん?」
「おら知らねぇだ」
「んー。誰だろうねー」
「機会があればまた会うのでは?」
皆知らないのか。
アカズさん、も知らなそうだな。
黙ってるからもしかして、と思ったけどただ単に知らないから黙ってただけのようだ。
「ツチノコさん、どう、他に幻想生物とかいる?」
「シャー」
ありゃ、首を横に振ったな。
でももう一匹のツチノコさんは縦に振ったな。
どうなってるんでしょう?
「じゃあそっちのツチノコさんに案内して貰うか」
コクコクと頷いたツチノコさんが先行する。
どこに行くのかと後ろを付いて行くと、一件の廃屋へと辿りつく。
すっげ、ここだけ草臥れてる。
あばら家とでもいえばいいのか。木造の普通の家なのにどこか不気味な感じがひしひしと……あれ? なんか人住んでるぞ。
「室内でマスクしているぞダーリン。おかしくないか?」
「そもそもこんな家に住んでる時点でイカレてるでしょ」
「黒髪のお姉さんね。また女性? ご主人様はホント女性ばっかりですね」
別にいいじゃんアカズさん。なに、嫉妬かい?
「誰が嫉妬ですか!? 知りませんほんとにっ」
うっわ、今舌打ちしたぞアカズさん。
なんか此処まで嫌われると、逆にこっち振り向かせたくなってくるな。
もう少し好感度上げる方法ないだろうか?
「シャー」
あ、窓に張り付いてツチノコさんが吠えた。
気付いたらしい内部の人が窓際へとやってくる。
壊れて風通しが良くなっている窓を開く。
建てつけが悪いようでかなり苦労している様子だったが、お姉さんは窓を引き裂きガラリと開く。
「あら、変わった客ね。何かしら?」
「シャー」
「幻想生物探し? 暇ねぇ。でも私は幻想生物じゃなく都市伝説系なんだけど?」
会話が、繋がってる!?
人外系とならツチノコさんは普通に話せるのか!?
それともAIだからか?
「貴方がツチノコのご主人様ね。こんにちわ」
「あ、はい、こんにちわ」
「一応友好的だけど、私の存在意義をやらせて貰うわね」
存在意義?
「ねェ君。ワタシ、キレイ?」
ぞくり、と背中に嫌な汗が伝わる。
「えっと、綺麗っす」
「これでもォ?」
と、マスクを取る女性。
その口元は頬まで裂けていた。
「意外と綺麗じゃないですか。もうちょっと化けモノみたいな想像してたのに、充分綺麗ですよ」
「え? ほ、ほんとに? じゃ、じゃあ結婚とかも、できたりするの!?」
「あー、コトリさんが自称妻として居るんですが」
「私は恋人ね」
「あはは。じゃー私は愛人で」
妖精を愛人にする人間ってどうしようもなく危ないヤツなのでは?
「ってどんだけ女いるのよ!? まさか、貴方、ジゴロっていうヤツなの!?」
「え? いや、普通に日々を過ごしてたら増えてくんだ」
「狙ってやってないとそんな人数は……ああ、私までハーレムに加えようって魂胆なのね! なんて、なんて非道な人。でも、そこにシビれる憧れるっ」
なぜか頬に両手を当ててイヤンイヤンし始める、推定口裂け女。
都市伝説生物だけど、まぁ確かに幻想生物といえば幻想生物、になるのか?
―― 口裂け女が テイムされたそうに流し眼を送っている、手込めにしますか? ――
ちょぉい!? テイムしますか、じゃないのかよ!? とりあえずYESでいいのか?
―― 口裂け女を手込めにした! よ、この外道♪ ――
ちょ、絶対ふざけてるだろダイアログ出してる奴!
「あら、やだもう、手込めにされちゃってる!? こ、子供は野球できるくらいがベストです」
何の話!?
ヤバい、この都市伝説も話が通じるようで通じない相手だ。
俺の女運、本当に大丈夫なのか?
一癖ある奴ばっかりじゃね?
しかし、まさかここまで苦労することなくテイムキャラが増えるとは。
というか、ステータスの二つ名見るのが怖いなぁ。またハーレム枠とか増えてるんじゃないだろうな? ゲーム内でモテても仕方ないんだって!
 




