26.彼女は、やり過ぎたのだ
「なんというか、阿鼻叫喚の地獄絵図?」
俺は思わず白目を剥いて魂を吐きだした。
ハナコさんは聞こえてくる悲鳴や怒号に苦笑い。
テケテケは既に三階に到達したらしく、上級生たちにまで悲鳴は波及しているようだ。
というか、プレイヤーは1年だけじゃなかったのか?
年齢弄れば上級生プレイで他のプレイヤーにマウント取れるからかもしれない。
「いやー、哀しい事件でしたね」
「まだ現在進行形よ、ヒロキ」
「まったく、度し難い行為ねぇ」
「そっすね……はぁっ!?」
ハナコさんに返答したとばかり思った俺だったが、声が違った事に気付いて振り向けば、そこに居たのはタマモ様だった。
今日はなぜか女教師ルックで眼鏡をくいっと上げている。
とても笑顔なのに圧が酷い。
これ、完全にキレてるヤツー。
「た、たたた、タマモ? なんでいるの?」
「ハナコさん、逆に聞くけどこんなことしといてなんで私が来ないと思ったの?」
「うぐっ、で、でも私のせいじゃないし。学園テロとか普通にあるでしょ?」
「あれはイベント、これはハザード、おっけー?」
「いやいやいや、俺も違うよ、アレはテケテケさんが勝手に……俺は止めようとしたんだよ、でも足、というか腕速いし」
「……正座ッ」
「「はいっ!」」
それからしばし、俺とハナコさんは仲良く正座でお説教を聞く羽目に。
「何してんだヒロキ? って、タマモ!? お前何やらかしたの!?」
うげ、ユウ達三人組じゃねぇですか!?
見ないでぇ、穢れた私を見ないでぇっ。
「話はまだ終わってません、ペナルティが欲しいのかしら?」
「ひ、必要ないですタマモの姐さんっ」
「ヒロキーっ、やっぱり全てのクラスにあいつ居たわよー……あ、らぁ……?」
「ん、ヒロキの知り合……ぎゃああああああああああああああああああああああああ!!?」
「ユウなんつー悲鳴上げ……うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?」
「きゃあああああああああああああああああああああああああああああ――――ッ!?」
三者三様汚い悲鳴が上がった。
「テケテケさん……こっち来なさい?」
「え? えーっと、嫌、かなぁ。あ、はは、逃げれそうにない、みたいね」
状況を察したテケテケさんは震えながら俺の隣に来て正座、は出来ないのでその場に鎮座する。
「て、テケテケ……初めて見た」
「お、おばけ無理おばけ無理、あたしおばけ無理なのよヨシキぃ」
「お、おま、くっついてくんなよヒバリ、男同士で寄られても嬉しくねぇよ!?」
「あたし女だってばぁ、ひぃぃこっち見たぁ」
ヒバリさん、幽霊系苦手なのか。
「常識的にわかるでしょう、テケテケさん? 貴女の容姿はどう考えてもプレイヤーに恐怖を植え付けるタイプの存在なのだからそんなモノが単独で教室に飛び込んできたらどうなるか、考えなさいっ。まったく、今回は運営側であるAIの暴走だから厳重注意で済ませるけど、これがプレイヤーが起こした事ならそれだけで重いペナルティ案件なのよっ、わかってるの?」
それから小一時間、タマモの姐さんによる説教が続き、俺達はただひたすらに首を垂れるしかできなかった。
あと、運営様の計らいによってテケテケさんが非実体化できるようになった。
もともとテケテケさんをテイムする想定がされていなかったので今回起こった昼間のテケテケ乱入事件という哀しい事件が起こってしまったものの、これは運営にも非があるということで、俺へのペナルティはなく、厳重注意で人様に迷惑を掛けない、というお叱りだけで済んだのだった。
悪人プレイはいいのに、パニックホラーはダメらしい。
自爆テロとか教室に部隊突入させて来るような奴等が居そうなんだけど、そういうのはいいのにテケテケさんが教室に突撃するのはダメらしい。理不尽だ。
でも反論すると姐さんが怒りそうなのでしおらしくお叱りの言葉を聞くだけに留める俺だった。
「……で、どうなってんだ?」
タマモが帰って行ったあと、恐る恐るといった感じに近寄って来たユウたちに説明を求められる。
ハナコさんと相談した結果。こいつ等には正直に話といていいんじゃないかな、という結論に至った。
まぁ俺の行動は既にチューブで放送されてるしな。
「えーっと、昨日夜の学校に行った際にテケテケさんをテイムしまして。今日はNPCに七不思議聞いたんだ。そしたら全ての教室に一人だけ同じキャラクターが存在するって聞かされて……テケテケさんが率先して確認に行った。何も知らないプレイヤーたちから悲鳴が上がった、全ての教室で同じ事が起こった。タマモの姐さんがキレた。お説教。今ココ」
「そりゃキレるわ」
「つかテケテケってなぁボスキャラ扱いじゃなかったか? なんでテイムできてんの?」
「ボスキャラでも一応テイムは出来るらしいんだ。戦闘状態になると確率が物凄く低くなるけど、交渉でテイムできた」
「こ、交渉でテイムって、え、幽霊と話せるの!?」
ヒバリが露骨に引いた。いや、そんな避けなくても、あ、こらテケテケさんヒバリの後ろで実体化しないっ。




