263.田舎名所巡り・2
「ほうれ、どんどんいくぞー」
「うおぉぉぉ!? 待ってって言ってますよねぇ!?」
最初の一回目、物凄い勢いの大外刈りされて即座に倒された。
終わりかと思えばまだ行けるだろ、立て、ってことで相撲継続。
結局タヂさんと何度対戦したことか。
汗臭い、ムサい、ガチムチしてるっ。
俺のSAN値がゴリゴリ削られていく中、なんとか返した奇跡の一撃でようやくタヂさんが満足してくれた。
今の上手投げ、マジで投げられ掛けたし、咄嗟に相手に抱きついてしまった。
タヂさんに思い切り抱きつくとか俺の忘れたい記憶ワースト1じゃね?
あと、抱きついた瞬間周囲にバラのエフェクト出て来たんだけど、アレはなんだったんだ?
「がはは、やりゃできるじゃないか。これでお前さんも力士見習いだな」
「やりませんよ!? 人外と相撲とか軽く死ねますからっ。ネネコさんの相手はタヂさんにお任せします」
「一回くらいは付き合ってやれ。あやつもヒロキと相撲取りたいと言っておったぞ。勝敗はどうでもよいのだ、お前さんと相撲を取ったという事実があれば満足なようだからな。それに職業力士見習いをつけとけば土俵内なら男女関係なく抱きついても警告は出んぞ?」
「マジか!?」
―― 警告警告、その思考が警告だぞヒロキー。あんま調子のんなよ、バンすっぞオルァ ――
「なんでさ!?」
「くはは、まぁそう意地悪してやんな。ネネコの奴も許容しとるんだ。問題はあるまい。そもそもその警告与えるのは理不尽な相手だけだろが。好きあってるモノ同士が体を触れ合わせるくらいなら問題は無いはずだぞ」
どこまでいいのか全く分からん、というか担当AIの匙加減だろ絶対。
「さて、加護を与えてやろうかな」
お、何貰えるんっすか。
「よし、これでいいだろ。ほれ、皆の所に戻るがいい」
あれ、エフェクトなしっすか。
「んじゃなー」
あー、何を与えたか教えることすらなく帰って行きやがった。
一体何貰ったんだよ俺ぇ!?
「あれ? ヒロキさん、なんでそっちに?」
「あー、気にすんな。とりあえずここは他に説明あんの?」
「皆さんがお祈り終わったら以上ですね。あそこでお守りとか買えますよ」
「ゲーム内で買ったお守りって御利益あるんだろうか……?」
「あってたま……」
あ、未知なるモノさんがお祈り中にこっちの会話に入ろうとして、消えた。
多分さっき俺が居た空間に入ってタヂさんとの相撲と言う名の肉のぶつけ合いを始めるんだろう。頑張ってくれたまえ。
「あれ、未知なるモノさんは?」
「神の試練を受けてるとこだろ。しばらくしたら戻ってくるよ」
俺の思った通り、少しすると未知なるモノさんが急に認識できるようになった。
恐らく別サーバに飛んでたんだろう。
他のメンバーはテイムキャラなのでタヂさんによる加護授けイベントは起こらず、案内人さんも何かしらのステータスが足らなかったのか、イベントは起こらなかった。
「それじゃ、バスに戻って次に向いましょう」
とのことで、案内人さんに案内されながら俺達はバスへと乗り込む。
神社から遠ざかると、案内人さんがバスガイドみたいに説明を始める。
ほぼ森しか無いんだけど、出現する敵とかいろいろ説明してくれるので意外とためになるようだ。
山から下山し、森を横目に走ることしばし、高原地帯へとやってくる。
次の名所はここらしい。
なんかコテージがいくつかあるな。
「到着です。こちらは田舎町のみのキャンプエリアになってます」
「え、田舎町にしかないの?」
「いえ、まだ発見されてないだけ、ですね。今発見されているのが田舎町の此処だけなんです」
どうやら管理人が居るキャンプ場らしく、プレイヤーも何人かキャンプしているようだ。
女性ソロキャンパーにナンパしている二人の男が見えるんだけど、あ。管理人が走って行った。
なんか男達が管理人さんに怒鳴りつけてるけど、あ、すげぇ、人間技じゃねーぞ今の!?
相手の腕を引きながらジャンプして自分の体重を相手に預けて体勢を崩す。
その顔面向けてひざ蹴り。
一人が沈んだ瞬間もう一人の征圧に向い、頭を軸に回転して後頭部に膝を叩き込むという軽業攻撃だ。
倒れた二人の襟を掴んで引き摺るように去っていく。
ソロキャンパーはあっけに取られたままだぞ管理人さん。
「えー、あちらがここの管理人さんです。普段は優しいおじさんなんですけど、聞き分けのないお客さんにはさっきみたいな感じで肉体言語でお話されるそうです。征圧されるとそのまま警察の御厄介になるそうなので、おじさんと敵対するのはお勧めしません」
まぁまずキャンプ自体しないからなぁ。
でもバーベキューイベントできるから皆のでイベント、とかはここでやれそうだな。一応候補として覚えておくか。




