259.運営さんは頑張っている5
「やってられっかぁぁぁぁ――――ッ!!」
「室長煩い」
「気が散る、黙ってろ!」
「はいっ」
運営側は今、未曽有の危機に陥っていた。
正直、想定していなかった。
いや、考えないようにしていた、が正しいのかもしれない。
少し考えれば分かるはずの致命的な失態だ。
モザイク必須にはしたが想像出来るモノは想像できてしまうし、いろいろモザイクでは隠しきれない失態がそこかしこで放出してしまっていた。
そもそも本戦からは皆が目の前で見てしまったのだ。
決勝戦ですらも美少女の腕が粉砕されて骨が飛び出すスプラッター。
各所からクレームが嵐のようにやってきている。
プレイヤーたちからはコレ大丈夫? という心配メールが多いが、状況をネットなどで知った正義感が強いネット警察やらPTAやらからの苦情が一番面倒臭い。
その辺りは電話対応部署の方でなんとかしてくれるけども、奴らも学習しているようで、余程のクレーマーは「では作業者に変わりますね」と部署を越えて電話してくるようになった。
御蔭でクレーマー対応の一部をさせられている。
「なんとかインフェルノ状態の封じ込めに成功しましたけど……正直生きた心地しなかったですよ室長。コトリさんのリンフォン、使用不能にしません?」
「それをするとAIどもが敵に回るぞ。あいつ等最近独自の動きしはじめてるからな。電脳世界牛耳ってるようなもんだし、下手に敵にすると俺らの口座が凍結させられかねん」
「いや、そこまでヤバいAI作ってたら国に捕まりますよね!?」
「その辺りはAI達に伝えて巧妙にやってるんだ。いやホント、彼らは想定外の産物だからね」
「はぁぁ、AIが実は独立思考手に入れて好き勝手やってます、なんて外に知れたら国が黙ってないんですから、ホント気を付けてくださいよ」
「ま、まぁそれはいいじゃないか。それよりほら、コトリさんだよコトリさん」
結局コトリさんを倒すことは出来なかったが、地獄開放までの生存者はちらほらと存在した。
時間を掛ければコトリさんを倒すことも可能だったかもしれないが、先にリンフォンが発動してしまったので無念のゲームオーバーだ。
「一応ログから見付けた功労者順に豪華アイテム送ったから問題はなさそうだが……」
「地獄見たのも一瞬だから問題は無いと思いますけど、なんで地獄まで作ってんだフィールド担当!」
「え、だって万一リンフォン発動したらいるだろ。発動したけど何もありませんとかよりは世界一変地獄編みたいな?」
「というか、精神汚染大丈夫か?」
「あれは即死みたいなもんだから本人へのダメージは無いはずだ。そもそもコトリさんに見つめられただけだからな」
「成る程、ファンになることはあっても本当に精神破壊されることは無いんだな」
「そんなことになるんだったら今頃俺らは大量傷害者として逮捕されとるわ!!」
正直、見切り発車すぎたと皆が反省している。
ヒロキンからも心配と注意、そしてこうした方がいいという改善案まで来ている。
さすがにこれで彼をピンポイント爆撃するようなナーフ処理はできない。
「とりあえず、参加プレイヤー達からのクレームが無いのが一番の幸運か」
「最初の結界がプレイヤー努力で破壊出来たのが大きかったですね。モチベーションが下がる前にゴミスキルの活用法が見つかって一気にやる気になりましたし」
「コトリさんもいきなり物理無効とかしてなくて思わず感謝しましたよ」
「というか、物理無効ってパッシブじゃねーの? コトリさんスキルONOFFできないだろ?」
「そのあたりはAIだからって理由だな。NPCだから出来るチートってヤツでしょ」
「誰も指摘してないからいいけど、これから似たような事してたら問題にならない?」
「そこは……室長、どうしましょう?」
「NPCだからって理由で問題無いだろ。もしくは今回のエキシビジョン用にスキルの特性変えましたってな。物理無効最初からついてたらプレイヤー側が詰んでたわけだし」
「まぁ、今回はそこまで問題じゃなかったですからね」
「今後起こることは今後ってことね」
「さて、サードイベントどうします?」
「あれ、もう新しいの始めようとしてるのか!?」
「室長、第三第四とイベント考えとかないと、進んでる奴ほど虚無期間長かったら辞めてくからな」
「うぐっ、早急に企画通して来ます」
室長は自らの仕事を認識し、泣きたくなった。
恐らく社長や取締役が集まっている部屋で集会になるんだ。
そして自分の考えをアピールし発表という緊張する展開が待っていることだろう。
一応、今のところは黒字を叩き出しているから文句は言われないし、企画も通り易いだろう。
今回の一件で赤字に転落さえ、しなければ、だ。
今から頭の痛い室長であった。




