257.エキシビジョンマッチ・コトリさんレイド戦5
「精神汚染」
また一つ、コトリさんがスキルを発動する。
「なんだ、なんか、目が……あ、ああ……あああああああああああああ!?」
「しまった!? 皆コトリさんと目を合わすな! 精神が壊されるぞ!」
「んなのありかよ!?」
「ンンンン、これは、ンイィィィィィィ」
「ああ、馬鹿が欲望に負けやがった!? 自分から死ぬヤツがあるか!」
「諦めろ、手遅れだ」
「コトリさんに精神壊されたいとか頭おかしいんじゃないの!?」
「頭おかしいから頭おかしくされてんだよっ」
コトリさんの攻撃方法が増えるごとに阿鼻叫喚の地獄絵図。無数のプレイヤーが犠牲になって散っていく。
このままの速度で減って行けば、コトリさんを倒すことは不可能になるだろう。
それに、さらにプレイヤーの数が減りそうな予感がする。
「コトリさんの頭上だ! なんか開いた!!」
コトリさんの頭上に、空間を開くように現れた円。
それは漆黒で、内部の深淵を覗かせる。
「亡者の誘い」
「また新しいスキルだと!?」
「物理無効になってから攻撃手段増え過ぎじゃね!?」
「おい、あの穴から変な声が聞え出したぞ!?」
「地獄門から漏れ出た腕が生者を招く……あれが地獄門!? リンフォン開きかけてるじゃねぇか!!」
「おい、なんかカイナデみたいな透明な腕が伸びて来たんだが!?」
「絶対掴まんな! 引き込まれるぞ!」
近づけば嘆きの御手を、離れれば呪殺の弾丸。中距離には亡者の誘い。
女性相手に闇の捕食、放置すれば味方が死んでいくコトリバコ設置による一族郎党皆殺し♪
目で見るだけで精神を破壊される精神汚染B、物理無効で物理攻撃が効かず、放置すればリンフォンが完成してしまう。
本来なら一人当たり6回攻撃すれば勝てる算段だった。もともと1万は居たはずなのだ。
しかし、減りに減ってもはや生存者は200程度。
必死に攻撃を加えるが、多段攻撃御属性魔法など殆どなく、皆が一人1ダメージを叩き込んでいるのが現状である。
幸いなのは確定で1ダメージが当たることだろう。
つまり必死に攻撃すれば、いつかは相手のHPを0に出来るのだ。
既にコトリさんのHPもレッドゾーン。
この面子で削りきれるかどうかといったところ。
一万以上のプレイヤーが参加していたのに、既にこのメンバーだ。
しかも徐々に減っている。
「攻撃手段は出尽くしたはずだ! 皆踏ん張りどころだぞ!!」
「くそ、全然減らねぇ!!」
「もう少し戦力が残ってれば……あぁ!? また減った!」
タツキも未知なるモノさんも頑張った。
頑張ったが、プレイヤーが減るのが予想より速い。
このままでは不味いのだ。
「『数多のモノよ、此へ集え!!』」
何度目の収束攻撃だろう?
全て別人の攻撃なのでいっぺんに数十のダメージが入る。
しかし、それだけだ。
焼け石に水。
確かに、何度でもやれれば勝てるだろう。
いつかは相手のHPを削り切るだろう。
だが、時間が無ければ、だ。
既に戦闘開始から一時間を越えている。一時間半までもう間もなくだ。
その為、コトリさんの攻撃も激しさを増している。
時間までに残りのプレイヤーを全て滅ぼさんとしているかのように。
「くそ、このペースじゃ削りきれねぇ。まだ数千残ってんだぞ!」
「ちょ、アレだけ居たのにもう100人もいなくなってない!?」
「くそ、MP切れた。回復薬誰か持って、あ、しま……」
「また一人やられた!? 呪殺術と闇の捕食コンボがキツい」
「設置済みコトリバコはもう諦めろ!」
「時間的にコトリさんに攻撃した方がいい」
もはやプレイヤーの数は完全にレッドゾーンを下回っていた。
この面子ではさすがにコトリさんを殺し切れない。
未知なるモノさんやタツキは残っているが、女性陣が軒並み全滅。
ついさっきヒナギも呪弾にあたり散ってしまい。女性プレイヤーで残っているのは未知なるモノさんによりたびたび助けられている格ゲー少女だけになっていた。
「数が足りねェ」
「あの、僕も、そろそろ、スキルが使えなくなりそうで……」
「いや、いい、別に責めてるわけじゃねぇ、つかお前が居てくれたからコトリさんをここまで削れたんだ。誇れよ案内人」
「あ、ありがとうございます」
「ただ、ここから先は、死んだ方がマシ、かもなぁ」
あと1分。コトリさんのHPは未だ3千弱。
猛攻かいくぐって3000回ものダメージを与えないと勝てない。
「ここまで来たんだ。地獄って奴を拝んでくるか」
「あ、あの、お供します」
「良いのか格ゲー少女、トラウマになるかもだぜ?」
「それでも、最後まで残ったって称号ほしいですし」
「はは、それでこそ冒険者。まかせな、俺が必ず最後まで連れてってやる!」
「期待してますッ!」
もはや攻撃を諦め二人の生存に切り替える未知なるモノさん。
タツキと案内人はスキルが尽きたため回避に専念し、他の生還者も攻撃を諦める。
そもそもどんなに頑張っても残り1分で削り切るのは不可能な体力値だ。
やがて、その時間は訪れた。
「リンフォン……開封。開きなさい、私の――――コトリバコ」
ソレは開かれ、内包した地獄が溢れだす。
ソレは生存者全てを飲み込み、大地を飲み込み、空を飲み込み、世界を飲み込んだ。
そして、全てが終わった――――




