230.運営さんは頑張っている・4
「ほ、報告します。第二回イベントのバグ、全て取り終えました」
「こっちも報告。デスゲーム委員会と話が付いた、イベント中はデスゲームを行わないってことになった。我が軍の完全勝利であります」
「私からはイベント上位者の入手アイテムチェック終わりましたよー」
部下たちからの報告を受け、室長は安堵の息を吐く。
なんとかイベント開始前に全ての準備が整った。
今回もなんとか乗り切れそうだ。
あとは……
皆を見回し、気合を入れる。
一斉に、たった一人に視線を向けた。
「さぁ、覚悟は決まった。聞こうか、ヒロキン担当」
「うす。ヒロキンが廃病院でレベル上げしました。ヒロキンパーティー平均が一部を除いてレベルが90に引き上げられたっす」
「90っ!?」
「ちょ、パーティー全員って今回のイベント上位陣全部埋まるじゃん!? 入手アイテム独り占め!?」
「おい、一部除くって、誰か行かなかったってことか? なぁ、そうだろ? そうだって言ってくれ!!」
「コトリさん、レベル450」
「ガッデムッ!!」
「あー、これ、今夜も徹夜かなぁーはは」
「ヒロキンチームでるだろ、上位陣こいつ等確定だし、どうするよ?」
「絶対他のプレイヤーからいろいろ言われるぞ」
「でも今からイベントの変更無理だし……」
「いっそヒロキンチームだけ個別対戦する? ヒロキンチーム頂上決戦とか」
「それよかヒロキンと交渉してエキシビジョンのみの出場にできね?」
「つか最高到達レベル40前後の時期だぞ。ようやくハナコさんが倒されだしたくらいの。なんで倍以上のレベルになってんの!? 阿保かと」
「はは、圧倒的じゃないかヒロキン軍は。勝・て・る・かっ」
あいつの周りだけどんどん他のプレイヤーたちから隔絶していっている。
幸いなのは今回のレベリングに他のプレイヤーが混ざらなかったことだろう。
マイネや未知なるモノ、ユウたちが混ざっていれば彼らにも何かしら対策を考えないといけない所だった。
「室長……」
「うむ、少し待ってくれ」
眼を瞑り、室長は考える。
皆、既に満身創痍だ。
このイベントを成功させるためにかなり無理をしている。
このあと残業など、さすがに言える訳が無い。
しかし、このままではヒロキンチーレムたちによる蹂躙戦で対戦上位陣は彼らで占められるだろう。では、どうするか。交渉? 隔離?
だがヒロキはチートを使っていない。
あくまでゲーム内のルールで今のレベルに到達しているのだ。
つまり、リアルラックで他のプレイヤーから抜きん出てしまっているだけである。
これでやっかみから通報が増えても何もしない運営へのヘイトが高まるだけ。
とはいえ、不正している訳ではないのでペナルティを与える理由もない。
意外とコイツがゲームの広告頭になっているから出来れば問題は起こしてほしくないくらいなのである。
ただ、この前見せたように、ハナコさんが関わると容赦がなくなるから、そこを突かれると不正等を行ってしまうかもしれない。そこは注視しておかねばと思う。
しかし、交渉を行うといっても既に試合会場から試合方法からプログラムは組み上がった後である。
追加するならば残業は確定。
プログラマーに残業させれば他の奴らにも波及する。
ふふ、ままならぬものだな、ゲーム運営というものは。
あ、そうだ。
ふふ、なるほど、これならば問題はあるまい。
ダメだったとしても次からは変えれば良いことだ。
そう、次でいいのだ。
このイベントは宣言通り、そう、宣言通りだ。
多少文言は増やすが、それだけだ。それだけでいいのだ。
「よし、このまま行くぞ」
「え? マジっすか!? ぜってぇコトリさん優勝っすよ!?」
「さすがにコトリさんはレベ違だからな。彼女だけはエキシビジョンになって貰おう。だが他はそのままでいい。ヒロキ君との交渉はAIに任せる。交渉内容は私がやろう。皆は、予定通り、今日は定時だ」
いやっほぉーう!! 各所から雄叫びと共にガッツポーズが天へと突き上げられる。
「ああ、アイテム班、明日以降でいい、コトリさんをエキシビジョンにする代わりにヒロキに送るアイテムをチョイスしておいてくれ。それから特別報酬に選択式入手アイテムを作る。内訳は……」
アイテム班がメモを取り始める。
他にも関わりのあるメンバーがメモを取り出す。
今日は定時だが、明日の仕事は少し増える。
だが、それだけだ。少し増えるだけ。それだけで済む。
「では、夜勤組が来た時点で定時上がりだ。皆、今日も御苦労だった。しっかりと休んでくれ」
正直に言えば、皆徹夜で万全を期した方がいいのだろう。
だが、運営とて人間だ。連勤徹夜続きではパフォーマンスは極端に落ちる。
さぁ。来るなら来いヒロキめ。お前の思い通りにはさせんぞ!!
何故かヒロキを眼の仇にし、気合を入れる室長だった。




