220.廃病院の主
「と、とりあえず、こいつをしまおう」
不思議な感覚だったが、嫌な感じは無かった。
だから一先ずこの事に関して考えるのは後回しだ。
まずは、目の前にある正二十面体をアイテムボックスに放り込む。
ついでにすぐ下に置かれていた草臥れた説明書も一緒に放り込んだ。
とりあえず、これで危険物は処理出来たってことでいいのか。
「ヒロキ、何かあったの? 一瞬凄い顔で私の事見たけど」
「えっと……芽里さん、さっき俺が手に入れたヤツ、名前なんだって?」
「何、って私が見てもないのに名前なんて分かる訳ないじゃない」
……見て、ない?
俺は頭上の妖精さんに視線を向ける。
「わ、私じゃないわよ? 確かに私も見たけど、とにかく、まずは病院抜けようよ。こんなお化けだらけのとこでゆったり検証してる場合じゃないでしょ」
それもそうなんだけどさ。
まぁいいや、とりあえず帰ってから……
―― リンフォンが不発したから、試練が来るよ ――
メリー、さん?
「皆、警戒して、とりあえずエントランスまで戻ろうっ」
「ええ。ソレは良いけど、どうしたの? ヒロキ、血相変えてない?」
「とにかく急ごう、なんか嫌な予感がする」
予感はしてないけど、今の声、無碍にする訳には行かない気がする。
皆で移動して階段を上る。
正面玄関にあるフロント前へとやって来た時だった。
嫌な感覚が一気に広がった。
咀嚼音というのだろうか? あまり聞きたくない音がエントランス中央で聞こえていた。
ソレは呆然と見入る俺達に気付く。
無数の顔で出来た柱のようなバケモノ。ナースの頭がそれに咥えられていた。
それは、まるでレギオンのような悪意の集合体。
アレと違うのは、悪霊ではなく、肉体を持つ、青白い紫灰色の円筒形肉塊。
醜悪な容姿としては出会った中で一番危険な生物だ。
名前:
種族:チャコタ クラス:しゃぶり這うもの
二つ名:被験者、インフェルノを覗きしもの
Lv:97
HP:10293/10293
MP:366/366
TP:8837/8837
GP:666/666
状態:食事中
技スキル:
???Lv90: ???
嘆きの悲鳴: 一度のみ相手に正気消失・微を与える。
精神汚染E: 見る者に精神汚染を与える。微量ながら正気度が削られます。
捕食: 相手を喰らうことで相手の能力を手に入れる、また二時間後に体に新しい顔が作られる。
デスロール: 噛みついた相手を回転して食いちぎる。成功すると大ダメージを与える
物理無効: 物理攻撃が効かなくなる。
レベルからしてヤベェ物体来ちまった!?
いや、でもコトリさんが居れば問題はなさそうだ。
近づくのは危険だな。食われたらあの顔の一部になるみたいだし。
しかし、被験者……か。つまり、元人間だったってことだよな。この病院一体何やらかしてたんだ!?
「あれ? あいつ神聖魔法あんまり効かないっすよ?」
「物理もダメだ。魔法でなんとかならないか!?」
「雷撃は効くぞダーリン!」
『鬼火も効果あるわ。多分電撃と炎系が弱点ね』
「となると、ディーネの魔法や風系は効かないかぁ応援しかないわね」
レーザー銃は使えるけど、あんまり点の攻撃は効果なさそうだな。
牽制程度に使うしかないか。
って、ツチノコさん、不用意に近づいちゃ……って、なんだとぅっ!?
大きく息を吸い込む動作をしたと思った次の瞬間、ツチノコさんの口から吐き出される強烈な炎の吐息。
ゴォォッと音を立てて火炎放射器のようにチャコタを丸焼きにする。
おお、一気にダメージ入った。
「ハナコさん、スレイさん、ツチノコさん、アタッカー任せた!」
『なんだかようやくボスとしての実力発揮出来てる気がするわ』
「ふっふっふ。怪人であることが今は無性に嬉しいぞ。私は役に立ててるかダーリン!」
「シャーッ」
ツチノコさんもさすがにレベルが80まで上がれば有用な攻撃スキルも覚えるらしい。
まさかの大活躍に心が躍るよ。ツチノコさん、立派になって。
「ヒロキ、感動してる場合じゃないわ。あの化け物の悲鳴に引き寄せられてナースとか顔デカとか寄ってきてる」
「ルースさんは抜けてくる影の迎撃。コトリさんは結界継続で!」
「任せるっす!」
「ふふ、呪殺術で間引いて行きます。お任せあれー」
十分にレベルアップ出来たからだろう、どれ程襲ってきたとしてもしっかりと対処できたし、チャコタとかいうバケモノっぽいのもツチノコさんの丸焼きメインで撃退出来た。
動きが鈍かった御蔭か結構楽に倒せたな。あと近接攻撃しか持って無かったから楽勝でした。
近接挑んでたら喰われたり味方の顔が敵に回ったりで大苦戦だったんだろうけど、まぁ弱かった。
と、チャコタが倒れたタイミングで入口を塞いでいたシャッターが自動で上がって行く。
ふぅー、なんとか帰れそうだ。意外ときついレベリングになったな。




