219.特級呪物
「えーっと? もしかしてトラップ発動した?」
「おそらく? 私の結界で消失したみたい」
コトリさんは日誌に夢中で振り向きもしてなかったからな。
トラップで出て来た幽霊が本当に理事長さんだったかどうかすらわからんかった。
「あ、ヒロキ、もう一ページあるよ」
「え? あ、マジだ」
妖精さんの言葉に日誌の最後のページを開くと……これ、B1-3?
文字として判別出来るのがそれだけだった。
「病院として考えると地下一階よね? その三号室?」
「地下なんて入口あったっけ?」
「んー? あ、待って。確かエントランス付近って調べてないんじゃない?」
テケテケさんがあっと、思い出したように告げる。
そういえば一階調べた際も入口付近であるエントランスは調べなかったな。
「戻るか」
「一応屋上も調べる?」
「んー、いや、やめとこう。そこに行くんだったら指示されるだろうし、なんか屋上はトラップ臭が強いからやめよう」
なんとなく、屋上には向わない方が良い気がする。
多分飛び降り自殺の霊とかが大量に居るトラップルームの可能性が高い気がするんだよな。
なので、向う先はエントランスルームである。
道中はやはりコトリさんの結界が大活躍。
たまに乗り越えてくる奴もいるものの、レベル80を越えたパーティーメンバーたちにフルボッコされて瞬殺だった。
3階、2階、1階と降りて行き、エントランスルームへと向うと。めっちゃくちゃ分かりやすい場所に地下への階段が存在していた。
マジかよ。こんな近場に、っていうかトイレのある通路の奥に地下作るなよ。
こっちトイレだけの通路だとばっかり思ってたぜ。
「んじゃ、地下行くぞ」
「B1の3だったわね。どうする、そこ最後にする?」
「そうだな。ボス戦の可能性もあるし、そこを最後にするか」
階下へと降りると、なんとなく空気が一変した気がする。
すえた臭いっていうんだっけ? 嫌な空気が充満している。
気温も若干下がった気がする。
ん? なんか、来る?
ずり、ずり、となんとなく嫌な音が……げ。
それはデスゲーム遊園地の最後辺りで結構見かけた敵性存在。
「ぞ、ゾンビーっ!?」
「ウォーキングデッドや。遊園地のとはちょっと違うみたいやで?」
「動く死体なのは一緒だろ!?」
「んー、旦那様、アレは死んでるので私の結界素通りみたい」
マジかよ!?
「ふっふっふ。安心するっすよヒロキ殿。ハナコさん達から貰ったMP回復薬でボクの魔力も回復済みっす。つまり、キリエ・ライト!!」
迫ってきたゾンビ、だかアンデッド、だかウォーキングデッド、だか良く分からないけどそれに向ってキラキラした光が迸る。
アンデッドの真上にオーロラが現れそこから光が照らされて、あ。成仏した。
ゾンビって成仏するとその場で灰になるのか。
「レベルが上がったことで覚えた浄化魔法っす、纏めて倒せるっすよ。範囲魔法万歳っす」
ってことはルースさん見習い取れた?
「……」
おい、そこでそっぽ向かないでよ。哀しくなるだろ。
「しかし、ゾンビが闊歩してるとなると室内探索はあんまししたくないな。また閉じ込められたりしそうだし。さっさと目的の部屋行くか」
『あ、だったらちょっと私とテケテケさんで見て来るわ』
「霊体化すればおねーさんの走りですぐよね。よし、行って来よう。私こっち」
『じゃあ私はこっちから。どっちが速く回れるか競争ね』
「アイテムはちゃんと入手しなきゃだめよ?」
あの、俺の判断は放置っすか?
二人とも自分で決めてさっさと行っちゃったよ。
ゾンビ達をすり抜け通路の先へと向って行く幽霊二人。
いろんな部屋を回ってアイテムとかがあれば取って来てくれるようだ。
「私達は三号室に向おうか」
そうだねメリーさん。俺達は件の三号室に向おうか。
……ん? ん?? 気のせいか?
「ん? なによヒロキ?」
俺の視線が気になったのか芽里さんが小首を傾げる。
うん。今一瞬変な気がしたけど気のせいっぽい。
そこからしばし、ルースさんの独壇場だった。
そして辿りつく3号室。
ここか、というかゾンビ以外にもなんか変なの居たな今。
鑑定したら亡者とかいうヤツだったけど。ゾンビとどこが違うのか分からなかった。
テケテケさんとハナコさんが戻ってくるのを待って、俺達はアカズさんを先頭に部屋へと入る。
なぜアカズさんが最初かっていえば、当然ながら彼女の個室スキルに期待してだ。決してトラップがあったら真っ先に掛かる役目ではない。そこまで俺は非道じゃないよ、だから二つ名付けるなよっ。
「誰も、いないんだけど?」
アカズさんの言葉に俺も隣に向って部屋を見る。
室内にはベッドが一つ。
そのベッドの上にでんっと乗っかってる謎の物体。
俺は部屋に入り、それに近づく。
「なんだ、これ?」
それは、二十の面を持つ正方体。
正二十面体がベッドに鎮座していた。
意味が分からないがなんとなく、呼ばれているような……
「ダメよヒロキ、撫でちゃだめ」
びくり、俺の身体が止まった。
今、俺は何をしようとしていた?
なんで、こんな怪しい物体を撫でようと……
「さっさとアイテムボックスに入れちゃいなさい。それは特級呪物、リンフォンよ」
メリーさん? え? あれ? なんで今メリーさんになってんの芽里さ……あれ? 芽里さん後ろで気絶して、ない? 芽里さんが俺と視線があって小首を傾げている。
「メリーさ……あれ?」
ポケットの中を覗く。そこにはメリーさんのモノ言わぬ人形だけがあった。




