184.森の生物はどこかおかしい
森の中を歩く。
アイネさんの言う虫が多く居るとこ、結構遠いようだ。
森の中、遭遇する敵性生物を倒すつもりなんだけど……
出ないな。
前に森を歩いた時は大量の幽霊とか変な妖怪とか絡んで来たんだが。
この面子の中で敵性生物避けみたいなスキルは、持ってない、よな?
じゃあなんでこんなに遭遇率が少ないんだろ?
幽霊系は神社に集まってるだろうから居ないのは仕方ないんだけど、妖怪とかも見掛けないし、動物系もほぼ居ないな。
たまに遠くに鹿が居るくらいか。
ん?
茂みの奥で、何かが動く気配がした。
俺は皆に静かにするようにジェスチャーを送り、そーっと茂みを掻き分ける。
そこに居たのは……大量の植物だった。
いや、ソレを植物と言っていいのだろうか?
二股の大根足をくねくねさせながら地面を歩く根菜類。ニンジンっぽい色合いの大根みたいな生物が大量に生息していた。
えっと、なんぞこれ?
名前:マンドレイク
特性:移動系根菜 魔術、呪術、錬金術の素材として重宝されている。
説明:抜くと強烈な叫び声を上げ、聞いた者は等しく死に絶える。栄養豊富で朝鮮人参同様漢方薬の素材としても使われており、魔術の触媒、呪術の触媒、錬金術の素材など、幅広く重宝されている根菜。生物が多く死んだ場所等によく生えている。
生物、じゃなくてアイテムだよコレ。
俺はそーっと茂みを出てマンドレイクの群れの元へ向う。
アイテムだからだろうか? 俺が側に近づいても全く逃げる気配が無い。
一匹捕まえて持ち上げてみても、その場でじたばた行進するように手足を動かすだけである。
足はセクシー大根みたいな形状で、両手はちょもっと出てるくらい。
取り合えず一個アイテムボックスに入れてみよう。あ、入った。
……なるほど、歩行中に採取すれば取り放題なのか。
せっかくだし10体程回収しておこう。さすがに全部取るのは時間のロスだし、面倒だ。
マンドレイクたちは適当に歩いた後、その場で独楽みたいに回転を始め、徐々に自身を土の中へと埋めていく。
頭部分といっていいのかわからんが、身体の5分の1位を地面に残した当たりで回転を止めてそのまま地面に埋まった状態で固定化、しばらくすると再び自分でひょこっと飛び出し歩行。
適当な場所に行くと再び埋まる、を繰り返していた。
おそらくこうやって様々な土地の栄養を根こそぎ絞り取ってるんだろう。
「何だこいつ等? ノンアクティブじゃねぇか」
「どうやら敵じゃなくてアイテム扱いらしいぞ。地面に埋まってるの引き抜くと即死の絶叫。アイテムとして回収するなら歩いてる奴だけにしとけ、抱え上げればアイテムとして回収出来る。多分採取扱いだ」
「へー、折角だし何体か採っとくか」
「おお、見ろアカズよ、バッタだ、バッタが居るぞ!」
「はぁ、居るわね。だからなんなのよぅ」
稲荷さんはテンション高いなぁ。
神様なのに普通に元気な小学生みたいなノリだぞ。しかも少年系の。
「ヒロキ、こっち」
「おっけー」
マンドレイクの集落っぽい場所を抜けてしばらく歩く。すると、ようやく野性動物たちが姿を現した。
どうやらマンドレイクの居る場所は不自然なほど彼らは近寄らないようだ。
おそらく何十何百の血があの大地に流れていたんだろう。だから危険地帯と認識した野生生物たちはあの場所から遠ざかったのだと思う。たぶん。
「大体この辺り」
「おー。ここならそれなりにいい昆虫がいそうだな」
とりあえず適当な木に昆虫採集用の餌を塗りつけておく。
あとは集まるのを待つだけだ。
稲荷さんがべったり張り付いて見張るみたいなので、ここは稲荷さんとアカズさんにお任せして、俺達は自由行動かな。
と言ってもはぐれないように近場だけの移動にしようか。
「ふーむ。先程のマンドレイク因子は即死の咆哮が使えそうなのだが……単体で作っても雑魚にしかなりそうにないな」
「主様よ。あそこに何かいるようだぞ」
カルカさんが何かを発見した。
そちらに視線を向けてみると、魚?
でっかい鯛みたいな魚が……いや、魚、じゃねぇ!? 魚の顔に筋肉質な人間の肉体が繋がっている。
魚の被り物? それともこんな姿の生物!?
「えっと、言葉、分かりますか?」
「ギョ」
あ、ダメだ言葉は分かったかもしれないけど言葉話せない系だ。
謎の生物は手に槍を持った状態で俺達の元へ姿を現した。
「ヒロキー、なんかお前達何者だって言われてるけど、返答は?」
「おっと、妖精さん、もしかして話分かるの? 通訳頼める?」
「いいよー。角砂糖で手を打とう」
成功報酬は角砂糖一つらしい。安い報酬である。
まぁ本人が満足しているようなので帰りに買ってあげよう。
でも、妖精に角砂糖一つは結構な糖分の取り過ぎなのでは?




