178.呪い怒る者
SIDE:マイネ
ヒロキンさんが開かずの間に閉じ込められ、皆は呪いの呪縛により動けなくなった。
敵は二人。
前にヒロキンさん達と共に秘密結社跡地を探索した時遭遇したPKの二人組だ。
男はその当時と同じ姿だったものの、女性の方は大人らしいキツイ目元の女性姿から、アバターを作り直し、庇護欲をそそるいたいけな少女の姿を取っていた。
ただ、性根の悪さを隠せないようでたまに目元がキツくなるようではあったけど。さすがに繋がりが無さ過ぎてその時の女性だとは見抜けなかった。
御蔭で大ピンチだ。
ヒロキンさんは少女に押されて開かずの間に閉じ込められ、私達は全く動けない。
しかも彼らの言葉によれば、この呪いは時間経過で動けるような物ではなく術者を倒すかあるいは呪いを発生させているアイテムを破壊するしか止める方法は無い。
つまり、私達は動く事が出来ずにこいつらになぶり殺されるということなのである。
ただし、そこに彼女がいなければ、だ。
コトリさん。
ヒロキンさんハーレムと名高い彼のチームに新規参入した漆黒の黒髪美少女。
線が細すぎるのは栄養不足な少女の姿で顕現しているから。
黒い着物を脱げば、恐らくあばらが浮き出る華奢な色白の素肌がさらけ出されるだろう。
少し見てみたい気もするけど、同じ女性の身体を見てもどうなんだ、って思いもする訳で、どうせ水着姿で嫌でも目にするんだろうからそれまでの楽しみにしておこう。
ううむ、そう考えると私この面子と一緒で水着になるのって結構勇気がいるわね。
いや、でもサユキさんもいるし、少し安心かな。あのふくよかな体で水着になるよりは、スタイルいいし、いや、でも、コレアバターだし、そういうのは……
っと、あまりにも想定外過ぎる状況で思考がおかしな方向に向ってたわ。危ない危ない。
「馬鹿な、なんで動けんだ?」
男が驚くのは、コトリさんが呪縛をモノともせずに動き出したからだろう。
私達だけなら、詰んでいた。
でも、彼は見落とした。というか頭悪いわねコイツ。少し考えれば分かるでしょうに。
呪術による呪縛。ソレはすなわち、呪いだ。
そしてコトリさんはコトリバコ。
ようするに呪いそのモノなのである。
呪いに対して呪いによる呪縛を掛けたとして、掛かると思うか?
当然呪い同士ならばより強い呪いが勝つに決まっている。
だからコトリさんにその呪縛は通用しない。
唯一動ける凶悪な呪いが二人の敵に牙を向く。
「呪殺結界」
「チッ、だがお前のことは調べてあるんだぜコトリバコ! 女性特攻持ちで男には無力だってなぁ!!」
「何も、分かってないのね」
コトリさんはハァッと溜息を吐くと、深淵の覗く瞳でニタリと微笑む。
「折角だから教えてあげる。男を呪えない、訳じゃない。だったら男の子供だって死なないはずでしょう。調節してるのよ。【精神汚染】【呪殺術】発動」
そもそもコトリさんのレベルは150を越えているのだ。
そんな相手に男がどうのとか関係ない。攻撃一つ与えるだけで相手は即死する、それほどのレベル差があるのだから。
「あ、ああ……あああああああああああ゛あ゛あ゛!?」
そして彼は何かを見た。
だから、壊れた。
何を見たかは私には分からない、ただ、精神を破壊する何かを直視した、そして精神が壊れたところへ呪殺術による呪いの連弾が叩き込まれてオーバーキル。
アバターの精神が壊れただけか、あるいはプレイヤーの精神すら破壊するのかは私には分からない。ただ、一人のプレイヤーが特級呪物に呪われた。これからしばらくアバターが自殺を繰り返すのだろうことだけは、確定だった。
「さて……」
「ひぃっ!? ま、待って、私はほら、あいつに脅されただけなのよ? だから……」
「コトリの呪い」
「ひぃぁっ!? って、え? あ、あれ、無事?」
「ええ。無事よ、貴女は生かしておいてあげる。どこへなりとも行きなさい」
ほ、ほんと!? と嬉しそうに後ずさりする女。
どうやら私達を縛っていたのは男の方だったらしく、既に私達全員が動けるようになったのだが、誰も彼女を倒そうとかはしない。
何しろ、彼女は既に一番恐ろしい呪いを受けたのだ。
とはいえゲーム内のみけど。
女が震えながら背を向けて走りだそう、とした時だった。
―― ワールドイベント、普通小学校七不思議がヒロキ、マイネのレイドチームにより七巡り達成されました! ――
……え?
「はぁ?」
ガラリ、今まで開くことは無かった開かずの間が開かれ、血のように赤い内部から、一人の少年が現れる。
「ひ、ヒロキンさん?」
「そこの女を対象にする。闇のカードゲーム始動」
「え? な、なに!? 体が……動かない!?」
「俺が勝利した場合、この女のプレイヤーキルを禁止する。これはキャラを作り直しても続く、ゲームよ返事はいかに、可能か? どうだ!」
―― 闇のカードゲームが始まります。プレイヤーヒロキ並びにプレイヤーエルドワは席に着いてください。10秒後、強制的に席に付いていただきます ――
ちょ、ヒロキンさん!? もう彼女は充分な罰受けて……あ、ヤバい、ハナコさんがいない? これってまさか……ブチ切れてる!?




