177.だから全てを拒絶する
ハナコさんが、ハナコさんが消えた。
ハナコさんが居なくなった。
ハナコさんが死ん……
ああ、あああ……ハナコさんが、ハナコさんが目の前で!!
「しっかりしろォッ!!」
バシッと頬に強い衝撃。
思考が一瞬明滅し。目の前に水で出来た美少女が居る事に気付く。
ディーネ、さん?
「我に返った!? 返ったなら正気に戻れッ!」
いきなりがしりと襟元掴み引き寄せられ、ディーネさんが怒りを発する。
「良いかよく聞けマネージャーッ! 私達テイム済みのメンバーは死んでも自宅に蘇生されるの! ハナコも生きてるの! いい、生きてるのよッ! 復活するの! 最初から死んでるけど! だからもう二度と会えない訳じゃないし、ハナコの意思が無くなるわけでもないのッ! 今はこの場を切り抜けることだけ考えて! ハナコとツチノコがあんたを助けたこと、無駄にしないでッ!!」
ハナコさんとツチノコさんの想いを、無駄に?
……ダメだ。それだけは、ダメだ。
ああ、そうだ。なにやってんだ俺は!
ここで絶望してても相手の思うつぼだろうがッ!
クソ、怒りが、怒りがふつふつと湧き上がってくる。
煮えたぎるようなこの怒りは、ハナコさんを殺したヤツへの復讐の怒りだ。
ただやられるだけで終わってたまるか!
絶対に、許さねェ。
だから……いつの間にか着いていた膝を立ち上がらせる。
目から零れた水は袖で一拭き。
決意を胸に、叫ぶッ。
「居るんだろ、輝ッ!」
「ああ、いるよ。僕はいつでもここにいるさ」
言葉に反応するが、姿は見えない説明士輝。
彼はこの学校全ての教室に存在している。
つまり、この開かずの間にも彼が常に存在するのだ。
しかし、開かずの間である以上彼女の呪いがここには常に蔓延している。
そんな中に存在するのならば、輝の傍だけは安全地帯になっているのは当然。そうでなければ彼が常に存在するという七不思議の根幹を壊してしまう。
ゆえに、開かずの間唯一の生還を求めるのならば、この輝がいる椅子と机の範囲だけが、安全地帯となるのである。
生き残るだけなら、ここに居ればいい。
一夜を明かせば生存確定だ。
だけど、そこで終わる気などさらさらない。
ハナコさんを、ツチノコさんを殺した奴に報いを、俺の怒りを、人誅を!!
「輝、開かずの間を撃破する方法は!」
「部屋の中にある核を破壊することだよ。核の場所は。掃除用のロッカーがある、あそこ」
掃除用のロッカーがある場所?
まぁいい、そこを叩けば、勝てるんだな?
俺はレーザー銃を取り出す。
「ハナコなんて弱い存在より私の方が役に立つ、わかったでしょう? 仕方ないから手伝って上げてもいいのよ?」
―― 開かずの間の怪 が上位側テイム申請しています仲間にしますか? ――
「上位側?」
「開かずの間の方がヒロキ君より格上としてテイムされるってことだね。本人の意向次第でテイム解除できるんだ」
ハナコさん達を倒すことで自分の実力を見せつけてのテイムされてやるよってことか。
まぁ、却下。
返答には答えず、銃を構え、レーザーを核へと打ち込む。
「きゃぁっ!? な、何をしているの!?」
答えず、二射目を放つ。
「ちょ、ちょっと!? 私は強いわ! テイムしたいのでしょう!? だからここに来たんじゃないの!?」
三射。四射。まどろっこしい、両手でレーザー銃を構える。
「ま、待って! 分かった、分かったわ!!」
―― 開かず間の怪が仲間になりたそうにしている、テイムしますか? ――
却下。
「ちょっと!? どうして!? なんでよ!! 私が仲間になるのよ! レベル80の呪霊! ハナコの倍はある強力なボスよ!!」
―― 開かず間の怪が仲間になりたそうにしている、テイムしますか? ――
却下。
「なん、待って! 態度が気に入らないのね!? 分かったわ、あなたに従う! だから核を撃つのは止めて!!」
―― 開かず間の怪が妻になりたそうにしている、テイムしますか? ――
恐らく、本当に恐らく、彼女はハナコさん達のように俺にテイムされたかったんだろう。
もしかしたらツンデレとかでハナコさんたちと一緒に居たかったのかもしれない。
でも、却下。
「あ、ああ、待って、死んじゃう、それ以上は私がっ」
―― 開かず間の怪がハーレムに入りたそうにしている、テイムしますか? ――
却下。
「お、お願いッ、滅びは嫌っ。もうやめてっ! 私はただ、外に……」
―― 開かず間の怪が奴隷になりたそうにしている、テイムしますか? ――
「マネージャーさん……彼女、マネージャーさんを殺す気は無かったみたいよ、このままじゃ……」
「お願いしますっ、死ぬのは嫌っ。このまま消さないでッ!!」
ボスは死ねばAIごとどこかへ放り出される。一度死ねばそれまで、その後に出てくる開かずの間はNPCによる弱体化ボスが行うこととなり、開かずの間のAIは二度と戻ってくることは……だから彼女も必死に叫ぶ。
俺が輝の安全地帯にいることで手を出せない状態なのと。そこから自分の核を狙いうちされて死ぬ寸前だからこそ、奴隷でもいいから助けてくれと、懇願していた。
だから、俺は……
「これが、ハナコさんを殺した報いだ」
核に向って、レーザーを発射した――




