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176.七不思議・開かずの間

『……キ……ヒロキッ』


「あ……っ!?」


 気絶、してたのか?


『よかった。この部屋に入ってから棒立ちになってたから驚いたわ』


「ハナコさん? この部屋……」


 ようやく頭が動きだしたらしい。

 先程までの状況がフラッシュバックする。

 そう、だった。あの女にいきなり押されたんだった。

 あまりにも衝撃的だったのは、俺だけで開かずの間に閉じ込められた事。


 いや、俺だけ、じゃないな。背中にツチノコさんいるし、腰元にはディーネさんの入った聖水。

 そして背後霊のようにハナコさんが俺を守護してくれている。

 よし、俺は大丈夫、状態異常にもなってない。


『開かずの間よ。私達だけ入っちゃったみたい。コトリさんが居ないのはちょっと不安かな』


「我がチームのアタッカーだからなぁ。クソ、あの女やってくれたな」


『向こう、大丈夫かしら?』


「あんだけメンバーが居るんだし、余程の事が無ければ大丈夫だと思うけど……」


 それよりも、俺達の方が絶体絶命なんだよな、実際。


『そろそろ、来るわね』


 ハナコさんの言葉に反応するように、室内が赤く変化する。

 うっわ、怖。

 室内全部どんどん赤くなっていく。

 普通の教室だったそこは、血色に染まり、視界を埋め尽くす赤、赤、赤。


「待っていたわ……ヒロキ、ハナコ」


 そして現れたのは和服姿の少女。

 コトリさんとは違い、勝気な瞳と赤い髪、赤い和服の少女がニタリとほくそ笑む。

 ポニーテールにまとめた髪はまるで静電気でも受けたかのように髪止めより後ろが逆立っている。


「あんたが、開かずの間の怪?」


「ええ。噂は聞いてたわ。女性型怪異を片っ端から味方に引き入れる外道少年」


 いや、その噂はいろいろ間違っている。


「ふふ、せっかくだもの、貴方の実力を見せて貰うわ」


 実力? って……ッ!?

 突然俺の周りに水の膜が張られた。

 球体状に広がったそれに向い、ヘドロのような血溜りがべちゃりと襲いかかる。


「ぼさっとしないでマネージャーさんっ! 相手は交渉不可、殺しに掛かってきてるわよッ!!」


「シャーッ」


『開かずの間にこの面子で戦えとか、無茶振りもいいところね……』


 この面子って、四人だけで!?

 くそ、気付いたら既に教室内がヘドロに呑まれてるじゃんか!?

 どーしろってんだこんなの。


『鬼火ッ……ダメね、開かずの間へのダメージが入ってない。どうすればいいのかしら』


 いつになく険しい顔のハナコさん。

 今回はコトリさんが居ること前提での戦いを想定していたので完全な準備不足だ。

 本来ならこの連撃を受けるのはコトリさんの結界だった。

 150レベルの呪殺系結界なら充分攻撃に耐えきれたはずだ。


 しかし、ディーネさんの水結界だとそこまでの強度は無いらしい。

 何度も張り直してくれているが、一撃ブチ当たる度にひびが入っている。

 このままだとディーネさんの魔力が切れた瞬間、血溜の海に放り出されることになる。


 何か、方法はあるか?

 起死回生の方法、クソ、このままじゃ全滅だ。

 って、落ち付け。方法は既に考えてただろうが。


「ディーネさん負担を掛けるけど移動できないか?」


「さすがに結界ごとは無理よ、内部から押すならできるかも?」


 転がせって!?


「シャー!」


 そうか、ツチノコさんの転がるなら結界を移動させることもできるのか。

 なら、ツチノコさん今から言う場所に向ってくれ。

 ツチノコさんが珍しく活躍できるってことで奮起している。


 ふんすっと鼻息荒く転がるツチノコさん。

 球形の水結界がゆっくりと転がり始める。

 本来なら机や椅子に阻まれる結界も、既に血溜一色となった室内では阻むモノは無く、しっかりと転がってくれた。


 しかし、このスキル、自分だけじゃなく周囲の結界まで転がらせることができるって便利だよな。

 俺も、覚えるべきだろうか?


「マネージャーさん、もう持たないかも!?」


「後少しだ、持ちこたえて!!」


 見えた! あそこだツチノコさんッ!


「あ、これ以上無理!?」


 びきり、水の結界が悲鳴を上げる。

 血溜から飛び出す血の触手みたいなものがばしばしと当たり、結界がついに、ぱしゃんと弾けた。


「くそ、あと少しで……」


 血溜が押し寄せる。

 残念ながらここまでらしい。

 諦めかけた、その時だった。


「シャーッ!!」


 背中に何かがぶつかった。

 押し出された俺は、この部屋唯一の安全地帯、【説明士輝の机と椅子】のある場所へと辿りつく。

 そう、こここそが、この開かずの間を攻略するためのヒント。唯一彼女のテリトリーにありながらテリトリー外の場所。


「ありがとツチノコさ……ん?」


 振り向いた俺は、見てしまった。

 血溜の中、俺を見送るツチノコさんを。

 まるで、まるで後は頼んだとでもいうような彼女の姿は、血溜の中に消え去った……


「ツチノコさ……」


『ぼさっとしないでヒロキ! 何か方法有るんでしょ!!』


「あっ、そ、そうだった。それじゃ……」


 あれ? ハナコさん、なんか、いつもより透けてない?

 気付いた事に気付いたハナコさんは、困ったように微笑んだ。

 白いブラウス、赤い釣りスカートの少女は、ゆっくりと消えていく。


『さすがにちょっと、持たなかったみたい。ディーネ、あと、よろしくね』


 ハナコ、さん?

 消えていく。

 ハナコさんが……消えていく?


 まさか、嘘だろ?

 待って、ハナコさん! ハナコさ……


 ツチノコさんに押された俺に、開かずの間の連撃は襲いかかっていた。

 それを、ハナコさんが自分を盾に受けてくれていたのだ。

 そんなことにも気付かず俺は……俺は……


 ハナコさんが消失するのを、ただ見守るしか……できなかった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 知ってるか。これ...ゲームなんだぜ。
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