175.お前らが悪いのさ
「そうなんです。相方が幽霊怖いって一人逃げちゃいまして」
俺のすぐ横を歩いているのは、ついさっき助けた女の子だ。
若干鋭い眼つきをすることのある綺麗系の女の子。
まぁプレイヤーだから本人とはかけ離れた容姿なんだろうけどさ。
でも、なんだろうな、一度会ったことある気がするんだよな。
歩き方とか雰囲気とか、でも顔は会った覚えが全く無い。
「えっと、もしかしてだけど、会った事、あるかな?」
「え? ナンパですか?」
「ち、違います、マジ違うからっ!? コトリさん、なんか黒いの出てるから落ち付いて!?」
あ、あっぶね。下手な質問したら俺が社会的に殺されるとこだった。
とりあえず、彼女の目的としてははぐれた相手の探索らしいので、このまま一緒に向うことになった。
開かずの間には入らないそうだけど、外に送ろうかって尋ねたら、やんわり断られた。
つまり、着いて来るつもりらしい。開かずの間に俺らが入ったらまた一人きりなのに大丈夫なんだろうか? それとも他に何か理由があるとか?
まぁ、何か理由があるにしてもすぐに分かるっしょ。
コトリさんいるし、もしもがあっても問題なしなし。
さってそろそろ開かずの間が見えて来たぞ。
「あれが開かずの間ね。ヒロキンさん、どうするの?」
「一応開かずの間は開いて入ることはできるんだ。ただ、二度と出て来れないってことらしい。内部で何が起こってるかは分からないけど、一応秘策があるから全員で向えばなんとかなるんじゃないかなって思うんだ」
扉を開いて皆に最後の確認として振り返……
「つまり、全員揃ってねぇと死ぬってことよね!」
「へ?」
刹那、身体にどんっと衝撃。俺は扉を開いたばかりの開かずの間に吹っ飛ばされる。
「あばよクソガキッ、あはははははっ」
そして、扉が閉じられた。
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SIDE:マイネ
「ちょ、何してんのよアンタッ!」
ついさっき助けた少女が突然ヒロキンさんを突き飛ばした。
開かずの間に飛び込んだヒロキンさんを追ってハナコさんが突入する。
が、そこで少女が扉を閉めた。これでヒロキンさん達が死ぬまでこの扉が開くことは無くなった。
「はんっ、復讐よ復讐。当然、あんたも入ってんだよッ! やっちまいな!」
「オルァッ、一網打尽だぜ!!」
なんっ!? きゃぁ!?
突然電気が走ったかのように全身が痺れを発する。
見れば他の面々にも同様の現象が起こっているようで、皆地面に突っ伏してしまう。
「こ、これは……」
「ひゃはははは! また会ったな正義の味方女!」
角から姿を現す男。ソイツを見て、私はすぐ隣に居た女の正体を理解した。
「あんたたち、まさか秘密結社跡地を根城にしていたPK!?」
男はキャラそのままだったからすぐわかった。
でも、女の方は……なんで小学生になってんのよ!?
「はっ、あんたらのせいで狂信者共に追われたから一度アバター破棄して変えたのよ。御蔭でレベルがだいぶ下がったわ」
そ、そこまでして私達にPK仕掛けて来たってこと!? どんだけ粘着質なのよこいつらっ!
「何とでも言えや。俺らの狩り場荒らしたんだ、それ相応のツケは払って貰うぜぇ、全部お前らが悪いのさ、俺らにちょっかい掛けなきゃこうはならなかったのにな!」
「その緊縛術は呪術によるものよ、時間経過で無くなる通常の麻痺だと思ったら大間違い、あんたたちは動くことすら出来ずに死ぬのよ!」
「どれだけレベルが高かろうが、この呪術から逃れる術なんてねぇんだよ!!」
悔しい、けど、確かにこれは無理だ。
全身に力が入らない。
逃げる事も戦うことも、動くことすら出来ない状況だ。
会話だけは可能なようだけど、さすがに言葉だけで二人を撃退することは無理すぎる。
「ん? おい、面子はこれだけか?」
「ええと、さっき聞いた面子からすると、ハナコは幽霊だから分からないわね。ツチノコが居ないけどヒロキの背中に居るのは確認したから一緒に開かずの間よ。水精霊もあいつが持ってるからここには居ないわ。纏めて生還は絶望的でしょうね」
「テケテケ、稲荷、アイネ、天使、元人形、妖精、和服女、正義の味方女、今回居るメンバーはこれで全部だな」
「ええ、ここから誰かが助けに来る事もない。一人づつ確実に狩りましょ」
マズい、グレートマンさんやキカンダーさんに助っ人頼むにも電話を掛けることも今は出来ない。
助けが、呼べない。
ヒロキンさんたちが戻ってくることに期待するにも開かずの間が相手じゃ死に戻りの方が可能性が高い。
こんな奴等に……全滅させられるの?
このままじゃ……何か、何か方法はないの?
呪術による呪縛を解く……ん? 呪……術?
ふと、冷静になった。
いる。起死回生というか、むしろ、自分自身が呪の塊な女がここに居る。
「旦那と私の仲を引き裂く、愚か者は誰かしら……?」
既にブチ切れる5秒前、といった様子のコトリさん、やはり呪術は呪生物には効かないらしい。そりゃあそうだ。だって彼女以上の呪などこいつらが用意できるわけもないのだから。
だから……反撃、開始だ!




