157.呼啼村怪異譚2
「さて、とりあえず本当に村はあったな」
呼啼村は確かにあった。
さらにいえば町民で見掛けたのが老婆ただ一人だった。
この民宿に通されたけどここはしばらく人が使った気配が無い。
というか、全体的に埃っぽい。
これ、大丈夫か?
「本当に村なのか? 廃村じゃないよな?」
「狸か狐に騙されてた、なんて事もあり得るしな。ヒロキ、その辺りはどうだ?」
「一応看破スキル使ってるけど変わったところはないな。恐らくこの村自体は普通に存在してる。廃村を利用してるかどうかは別として、あと気配察知スキルにはあの婆さん以外にも数人の気配反応があるぞ。恐らく民家に隠れてるんだろ」
「とりあえず、拠点はできたし、何か起こる前に皆で村回ってみるか」
「何か起きたらタヂさんと未知なるモノさんが頼りですからね!」
「お前自身は頼りじゃねーのかよヒロキ。ラッキースキルでなんとかしてくれ」
「幸運スキルとラッキースケベはつけっぱですけど、男所帯でラッキースケベなんて起きないでしょ。つか起きるなマジで」
「あはは、タヂさんの胸に埋もれるとか、未知なるモノさんとキス直前の急接近とかするのか?」
「ダイスケ、笑ってる場合かよ。お前がイケニエになるかもしれんぞ」
「ひぃ、俺はノーマルだ、近寄んな!」
「誰が近寄るか。さて。んじゃまとりあえず夜までに一回探索してみましょうか」
「そうだな。下手に別れると一人づつ消えかねないから全員でいこうか」
と、いうことで、俺達は民家から出て村を探索する。
村にある民家は全部で五つ。その内の一つが俺達の民宿で、一際大きい屋敷が村長の家と思われる。
とりあえず、あの婆さんを探して住民に話聞いていいか尋ねるか。
あの婆さんは……村の入り口に戻ってんのか? まさか、あそこに居るのがデフォルトか?
「婆さん」
「ひぃっひぃっひぃ、なんじゃな? 宿の不満は受け付けんぞ。あそこしか使われてない場所がなないんじゃ」
「いや、村の人に話とか聞いてもいいのかなと思って」
「そりゃ構わんよ。じゃが出てきてくれるかのぅ、皆外のモンと会うのは嫌そうじゃしなぁ。ああ、村長なら会ってくれるんじゃないかのぅ。あそこの家じゃぁ」
「了解。ありがとうございます」
顔や雰囲気はホラーチックなんだけど結構面倒見の良い婆さんだな。
まぁ信頼し過ぎるのは危険だが。
「ラッキースケベ、発動しないんだな」
やめてくれます? さすがに老婆を押し倒したりはちょっと。
「やっぱここだよな。村長の家」
他の家と比べると一回りデカい。
とりあえず引き戸を二回、ノックする。
ガラリ、少しだけ引き戸が開かれ、暗闇から瞳がこちらを覗く。
「……誰だ?」
「あ、外から来た者です。この村に付いてお話とか聞けませんか? 外のお婆さんに尋ねたらここなら話ができるかもしれない、と聞きまして」
「……入れ」
俺は一度背後の皆に視線を向ける。
頷かれた。
これ、俺が先頭行けってことだよな?
ガラリと引き戸をさらに開く。
室内が物凄く暗い。
窓が無いのか光が一切入ってないようだ。
感覚感知系のスキルは全部ONにしておこう。熱感知したら結構周辺がくっきり見えるな。
サーモフラフィーだっけ。とりあえずこちらの視界に切り替えよう。
暗闇でも見えるように暗視スキルとか超音波スキルが欲しいな。
超音波スキルくらいならなんか改造したら付けられそうだけど……さすがにソレは怖いからやめよう。
「暗い……」
「皆足元気を付けろよ。最悪暗闇に慣れてから歩きだせ」
「って、なんで未知なるモノさんとヒロキさんは普通に歩けてるんだ!?」
どうやらタツキ君は気配察知で俺達が歩きだしたのを知ったようだ。
「ああ、俺は暗視スキル持ってるから」
「俺は熱感知だな。ツチノコさんに貰ったんだ」
「くぅ、暗視スキル手に入る事を祈って行くしかないか」
お、よかった。室内にはローソクが点いてる。
「皆あの先にローソクがある、そこにさっきの人がいるみたいだからそこまで行こう」
「了解」
部屋に辿りつくと、白髪のお爺さんが一人。
この人もホラーチックだな。歯が殆どないし、片目に眼帯してる。
「……座れ」
小さな声で告げられた俺達は、ローソクを囲むように座る。
「この村は、呼啼村だ。特色なんざねぇ。それでも、何か聞きたいのか?」
「特色は無いみたいですけど、食事とか、どうしてるんです? 都会からは切り離されてるように見えますけど」
「畑だ。あとはたまに狩りをする。儂らはここから出られん。だからここで暮らすだけじゃ」
「出られん……って外に出られないんですか?」
アパポテトが思わず尋ねる。
そこは聞かなくてもいいかと思ったんだけど。
「呪いじゃ。この村は呪われておる。儂らが外に出れば、呪いも外にでてしまう。あんな呪いはこの村だけでええ。封印されたまま呪いが薄まるのを待っとるんじゃ」
コトリバコの呪い、だろうなぁ。
「呪いは、外に出ることがある?」
「お前さん等が知る必要はねェ。さっさと帰ってくれ。そしてこの村のことは忘れなさい」
それから、俺達はいくつか爺さんに質問をする。
なんとなく、この村でのイベントが分かった気がするよ。




