149.天使ってこんなのだっけ?
召喚の書が自動で開かれる。
ぱらぱらとめくられていくページ。
目の前の床に形作られて行く光の召喚陣。
おー、やっぱ召喚は悪魔も天使も似たようなもんだなぁ。
光が立ち上り、燐光と共に煌めく羽が幾つも舞い散る。
そして召喚陣の中央に出現する天使さ……ま?
そこに現れたのは、なんだろう、見るからにぽやぽやとしてそうな小柄な少女。
頭のてっぺんにアンテナのようなハテナマークのような髪が立っていて、髪の色はピンク。
全体的に短髪なのだが、背後に一房腰元まで長い髪が生えている。ただ、胸は、デカい。もう一度言う。胸は、デカい。メロン、いや、スイカを二つ吊り下げているようだ。
八重歯の見える口をにへらと開き、片手をあげて笑顔で告げた。
「人間さんちーっすっす」
あ、ダメだコレ。ちーっす。ならまだフレンドリーな挨拶になるのに、わざわざちーっすっすとか謎の【す】がついてる。
これはもう能天気か天然系天使だ。役に立たなそうな気がする。
「あー、おっすおっす」
「おっすっす、にゃっふぅ」
「で、どちらさん?」
「おっと失礼したっす。ボクは天使見習いのルースルスっす」
るーするすっす? あ、語尾抜かしてルースルスか。小柄だしルースちゃんが呼び方になりそうだけど、今のところ全員さん付けしてるし、ルースさんでいいかな?
「さて、ボクが来た理由は分かってるっすね?」
「え? 知らんけど?」
「……」
「……」
「え? 召喚したっすよね?」
ああ、そういうことか。
「ああ、召喚したな。ランダムで天使が一人召喚される書で」
「願いを叶えないといけないんっすけど? できればボクが出来る奴がいいっす」
やっべぇ、呼びだすことしか考えてなかったから何も考えてなかった。
「じゃー、とりあえず、メアド交換とか?」
「ボクと電話繋がるようにしてほしい、ってことっすか。えーっとこれっすね」
俺はルースさんとアドレスを交換した。
これで天使と連絡が付くようになるはずだ。
のちのち何かしら必要になった時に使えるかもだしね。
「えっと、これで終わりっすか?」
「まぁ、今回は終わりかなぁ」
「そっすか。じゃー、帰るっす」
と告げたルースさん。
その場でぼーっと虚空を見上げて直立不動になる。
「あの、何してんの?」
「……えっと、ボクどうやって戻ればいいっすか?」
いや、知らんがな。
ルースさんはなんだか泣きそうな顔で俺を見た。
でも、俺には出来ることなど無かった。
書物も役目を終えて燃え尽きたっぽいし。
「仕事は終わったんだから自動で天界に帰れるとかじゃないの?」
「やり方、まだ習ってないっす」
やり方、あるんだ?
「ど、どうしたらいいっすか!?」
急に慌てだすルースさん。
正直知ったこっちゃない、なんだけど、さすがに可哀想か。
でも天界への帰り方なんて俺知らんしなぁ。
「とりあえず、帰り方が分かるまでウチにいな」
「い、いいんっすか!?」
「まぁこの家部屋は余ってるし?」
「じゃ。じゃあ是非にお願いするっす!」
―― ルースルスがルームシェアしたそうにしている。下宿させますか? ――
テイムっぽい感じじゃないな。とりあえずYESっと。
―― ルースルスが仲間になった! ――
あれ?
……ま、いっか。
「んじゃとりあえずモニタールーム行こうか、余ってる部屋紹介するよ」
「いやー、何から何まで申し訳ないっす」
「他にも住んでる人いるから気にすんな」
ルースさんを引きつれモニタールームへと向う。
おっと一番最初に出会ったのはネネコさんか。
「ネネコさん、この娘、新しくここに住むから」
「おー。おら了解だぁ」
こっち見ることも無くさっさと部屋に戻って行ったな。
これ、大丈夫だろうか?
それから、ルースさんの部屋を決めて、部屋に押し込むと、俺はログアウトすることにする。
いいのかなぁ。大丈夫かなぁ?
この時、なんとなく感じた一抹の不安。
ここで放置することなく皆に紹介していればあるいは。あんな悲劇は起こらなかったかも知れなかったのに。
俺は気にせず自室へと戻り、誰にも会うことなくログアウトした。
現実世界へと戻ってくると、一先ず全身の凝りをほぐすために大きく息を吐き体を伸ばす。
さて、芽里さんイベント編集してチューブにアップするかぁ。
あとは買いだしかな。そろそろ食料品に関してちょっと冒険してもいいんじゃないか?
ステーキとか行っちゃう?
せっかくだから豪勢に外食?
でも一人でファミレスとかにも行きたくないあぁ。
誰か一緒に行ってくれる人……いないんだよなぁ。残念ながら。
はぁ、ゲーム空間だけじゃなく現実にも友だち、増えないかなぁ。
さすがに今の生活だと無理か。
あー、彼女欲しい。欲しいぞー。ハナコさんならさらに大歓迎だぞー。




