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144.そして彼女がここにいる

 動画を編集してチューブに上げる。

 いつもは楽しい編集も、今日はなんとなく作業化している気がした。

 一応秘密結社探索で出会ったトレジャーハンターのPKたちには気を付けるように、と皆にメッセージを添えておく。

 なんかあいつ等って粘着質っぽいんだよなぁ。報復されないかちょっと心配だ。

 一応運営にも伝えておくか。


 いつもの行動を行いゲーム世界に旅立つ。

 このゲームに旅立つ瞬間はハナコさんに会えるって嬉しくなるんだけど、今日は何となくアンニュイな気分のままダイブインである。

 なんか、メリーさんが居なくなったためか、ちょっと心にぽっかり穴が空いた気がする。


 メリーさんが居なくなったのは仕方なかった、というかこうなるべきだったんだから、あとは自身がどう納得できるか、なんだよな。

 俺ってこんなにメリーさんのこと大切に思ってたんだなぁ、と思わず自分の心の中を気付かされた気がする。ハナコさんさえいればいい。じゃなくて、今はこの仲間になってくれた皆に、居なくなって欲しくないと思う俺が居る訳で……ああ、現実と仮想現実がごっちゃになってるなぁ。

 っと、ログインしたら部屋に誰もいねぇ。

 皆居間かな?


 ん? なんだ? 電話?

 珍しいなぁ、ログイン直後とか。マイネさんかな? 未知なるモノさんかな?

 あれ? 初めて見る番号?


「はいはい、ヒロキです」


『……』


「あの? どちらさんで?」


 うわ、切れた?

 こっちの世界でもツーツーとか鳴るのか。

 なんだよもー。間違い電話か? ゲーム内で?

 それともまさか、いたずら電話?

 ま、まさか、あのPKの二人がやったのか? いや、まさかなぁ。

 さすがに俺のゲーム内電話番号は調べられないはずだけど……


 居間にやってくると、ハナコさんと稲荷さんがいた。

 どうやら他のメンバーはここには居ないらしい。

 まぁ皆やりたい事もあるだろうし、今日は集まったメンバーで行けそうなのは……都市伝説探しか七不思議探しになるかな?

 ああ、あと虫相撲か。


「ハナコさん、稲荷さん、今日はどうする?」


「そうじゃのー、なんかあるかハナコ?」


『えー、ないかなぁ。稲荷さんは?』


「当然虫相撲の訓練じゃな。といっても基本一人でできるんじゃが……できればレジェンド級の虫が欲しいのぅ」


 似髻虫みたいな虫と呼べるか深淵系の生物と呼べるか分からないモノのことかな?


「そうだなぁ、虫集めでも……っと、またか?」


 また電話だ。

 着信音がしたのでどこからか確認するけど、またあの見知らぬ番号である。


「あー、はい、どちらさま?」


『……の』


 は?


『いま、病院にいるの。今から、会いに行くね?』


 え? 病……院?


「ちょ、君はっ」


 あ、切れた。


『どうしたの? 誰から?』


「ふむ? 随分と焦っておるようじゃが、何かあったかの?」


「わ、わかんないけど、病院から、会いに来るって……」


「ん? 病院から?」


 そう、病院からだ。

 しかも誰かわからない電話の主。

 さらにこの掛け方……

 つい最近病院には行ってきたばかり。

 それに、そこで別れることになったばかりだ。


 しばし、待つ。

 また電話。


『も……し、私……さん、今、商……街に……るの』


 電波が悪いのか、声が途切れて聞こえにくい。

 何さんなの? もしかして、もしかしてっ!!


『もしも……さん、今通学……いるの』


 少し、途切れる感覚が少なくなってきた。

 徐々に近づいている。

 俺たちは思わず顔を見合わせる。


『もしもし、私……さん、今、森の中に居るの』


 俺は走りだし。

 ハナコさんと稲荷さんも慌てて走りだす。

 何が起こったかなんて、二人に言う必要すらなかった。


 部屋を飛び出し通路を駆け抜ける。

 途中で出会ったグレートマンさんとキカンダーさんが驚いていたが、今だけは無視だ。


 通路を右に左に、目的地はすぐそこだ。

 マイネさんがぎょっとした顔をしていたが、すぐに何かを察して追って来る。


「どうしたの? 何かあった?」


「来たんだっ」


「はい?」


「帰って来たんだっ、メリーさんが!」


 彼女の身体だった人形は、トロフィールームではなく、自室のドールハウスに置いてある。

 一旦そこに確認に行く。でも、人形はそのままだ。持ち主の帰りを待ちながらただただそこに在るだけだった。


『もしもし、私……さん、今、UFO前にいるの』


 すぐに入口へと向う。

 息が上がる程に呼吸が弾む。

 入口を開く、そこに、一人の少女が待っていた。


 それは人形と同じように勝気な瞳と、長い髪。

 細く綺麗な四肢を衣類に包み、俺の顔を見て、告げた。


「私、芽里ーさん。今、貴方の前にいるの。なんてね」


 そう言って、少女は屈託ない笑みで笑うのだった。

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いつもここでうるっと来てしまう
[一言] 帰ってきたメリーさん
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