139.峠に残された何かを求め
「別にこんなに早く来なくても良かったのに」
メリーさんはそんな事を言いながらも、まんざらでもない様子で上機嫌だ。
本日、俺達は皆で御炬峠へとやってきた。
目的はメリーさんの元々の持ち主さん探しである。
トンネル内に血塗れの携帯電話が残されていた以上、あそこで誰かが血を流したことは確定している。
そしてあのトンネルにはレギオンがいた。
一番高い可能性はあいつに呪われてトンネル内で死に、そのままレギオンに取り込まれていた。
だろうなぁ。メリーさんには伝えたくない事実ではないことを祈りたい。
「まずはこの電話を見付けた場所に行こうか。スレイさんカルカさん、あそこの手招き霊には付いて行かないように」
「うぐっ、またヤツか」
「さすがにあんな怪しい存在については行かんぞ?」
あ、一応カルカさん見えるのかアレ。
霊視持ち? いや、怪しい存在とか言ってるし霊感の可能性もあるな。
って、言った傍からふらふら付いて行こうとしてるし!?
アイネさんが慌てて腕をひっぱりなんとか正気に返るカルカさん。
「な、なんだ今のは? 何かに呼ばれた気がして気付いたら近寄っていた!?」
「姉上。アレヤバいでしょ。我も一度やらかしかけてな。しっかりと気を持っておかないと連れていかれるぞ」
「なんと、このような弱そうな存在にッ!!」
悔しそうにする元首領。
怪人って心霊現象にめちゃくちゃ弱いよね。
っと、ようやくトンネルに辿りついた。
「やっぱり歩きだとここまで長いなぁ」
「なんだべ? 移動手段他にあんだか?」
「車とかバイクとか。ここでソレを使うといろいろヤバいから使えないけどね」
確か首無しライダーとかダッシュババァとか……いや、ダッシュじゃなくてターボババァだっけ?
ともかく、乗り物に乗ると事故率が増えるのだ。危険すぎるので歩きで来るしかないのである。
隣の田舎町に行きたい時は選択肢一つで事足りるんだけど、トンネルに行く時は峠登って行かなきゃいけないのが辛い。
トンネル内にやってくる。
今回は頭に安全第一のメットを被り、そこにヘッドライトを付けての捜索だ。
皆もライト持ちで来たので暗いトンネル内でもかなり明るく、探索しやすくなっている。
トンネル内はレギオンを倒したおかげかそこまで危険な幽霊はいなかった。
居ても基本ハナコさんとテケテケさんが駆逐してくれるから俺達は探索に専念することが出来る。
うむ、基本シャレコウベさんしか置かれてねぇな。
なんまいだぶなんまいだぶ。
とりあえず拝み屋として拝みまくっておくか。
はんにゃらほんにゃらおみそあじ、っと。
おりょ? なんか今シャレコウベ光った?
そーっと近づいてみれば、眼窩の奥に何かがあった。
これは? ネックレス? いや、ロケットか。
ネックレスの中央部分に丸い写真入れが付いてる奴だ。
拾って写真入れ部分を開いてみれば、おいおい、こりゃ当たりじゃねぇか?
「あー、メリーさん」
「ん? 何か見付かった?」
「このドクロの隙間にさ、これが落ちてた」
写真に写っていたのは、一人の女の子。
その子は凄く嬉しそうな顔で、メリーさん似の人形を大切に抱きしめていた。
「それは……っ」
「持ち主、で合ってる?」
「……ええ」
ロケットがあった場所のドクロに視線を向ける。
「そっか。死んじゃった、のか……それじゃ、私を迎えになんて、来れないわよね」
そうだね。そうなんだけど……まだ、まだこのガイコツがその子だと決まった訳じゃない。
ドクロの大きさは周囲のと変わらないし、成人っぽいし、ただのコピペデータだからって理由からかもしれないけど、まだ。そう……まだここで死んだと決まった訳じゃないはずだ。
「ありがとヒロキ、ちょっとショックだけど、理由が分かった気がするから、満足し……どうしたの?」
「まだだ。まだ決まった訳じゃないだろ。とりあえず、行けるとこは全部行っておこう。真相が分かるかどうかはともかくとして、知れることは知っとくべきだ。少なくとも、ここで死んだかどうかくらいは、確証できるまで調べよう。納得した後、探せば生きてる彼女に会えた、なんて可能性も、ここで納得し切ったら見付けられなくなる」
「……私はこれで納得してるってのに。はぁ、良いわよ。そこまで言うならとことん調べようじゃない」
「何処に行けばいい?」
「街中にまずは戻りましょうか。そこからは私が案内するわ。私の、元の家が次の探索場所よ。私は調べるにも小さすぎて、そこまで調べてないのよ」
「ということは、何処に行こうとしてたかとかが分かる可能性もあるのか。それが分かればそっちを調べることで別の何かを見付けられる可能性もあるな」
「ま、今のところは机上の空論だけどねー」
とにかく、死んでました。で終わるにはあまりにも悲し過ぎるもんな。
出来れば。ハッピーエンドでメリーさんには笑っていてほしいんだ。




