1098.黒縄地獄
等活地獄を駆け抜けた俺たちが辿り着いたのは、等活地獄十倍の苦しみとされる黒縄地獄へと辿り着いた。
ここにも小地獄が十六あるらしい。
「ですが、ここでは三つの小地獄が紹介されてるだけで他の地獄は不明なんですよね」
案内人君が言うには黒縄地獄はほとんど紹介されていないらしい。
ヤミーさんよ、その辺りどうなってんの?
「えー、アタシに聞かれても。とりあえずここは等喚受苦処ってとこね。こっから十六区画、また走るよー」
「つまりここもあまり紹介したくないわけね」
「正法念処経だと三つしか書かれてないんですよね。ちなみに黒縄地獄は殺生に加えて盗みを行うと落ちる地獄です」
なんかヤミコさんが生き生きしてんな。
どうやら黒い縄に縛られてる亡者を見て闇の何かがうずいているようだ。
変態さんかな?
「等喚受苦処は盗みじゃなく嘘を吐いたり、間違った法を説いた者、或いは崖から投身自殺した者が送られるらしいですよ。見てわかるように、燃える黒縄で縛られて崖から落とされるみたいです」
下の地面に刀っぽいのが生えてるな。熱せられたあの場所に落下するらしいけど、もう十倍苦しいとか何とか以前に死ぬのはかわらんのよな。亡者だから復活するだけで。
んで、燃える牙を持った犬に食われる、と。
「ね、ねぇヒロキ、あれって犬なの?」
今まで観察者に徹していたクティーラさんが思わず俺の肩を叩いて聞いてくる。
視線の先にいたのは……チワワだった。
あー、うん。あれも犬だよ。隣のダックスフンドも犬の仲間だよ。噛むよ?
アレに食われるのは、嫌だなぁ。
ヤミーさんがさっさと動き出したので、俺たちは横目に景色を捉えながら移動する。
小地獄の一つを出て次の地獄へと入ると、崖やらなにやらがなくなって、平地で獄卒が亡者と追いかけっこしている場所にやって来た。
「ここは旃荼処のはずですけど……おかしいな。烏、鷺、猪などが罪人の眼球や舌をつついて抜き出し、獄卒たちが杵や大斧で罪人を打ち据える、なんて場所だったはずなんですが」
「ちなみに対象は阿片などの中毒者が殆どだよん。人間ってなんでこういうの好きなんだろうねぇ」
ほんとにな。
どうやら鬼ごっこで獄卒が追い付き捕まえた場合のみ、処断が待っているようで、亡者たちが逃げまどっているようだった。
なんだろ、こうやってこの地獄見てるとさ、逃走してる亡者たちが獄卒に見つからないようにしているようにしか見えない。
これぞ本場の逃〇中、グラサン眼鏡じゃなく追う側は獄卒の鬼だけど。
「お次はー、畏熟処でーす。ここは貪欲に他者を襲って食料を奪い飢えさせた者たちが集まる鉄棘の森! 武器持った獄卒さんに追い回されまーっす」
「なんか獄卒の方が力尽きてね?」
ていうか一部亡者が武器奪って反撃してるんだけど。
アレ放置で良いの? ここの亡者も反旗翻してるよな?
「あー、いいのいいの。地獄の罰を受けなかったりああいうことしてるとさらにヤバい地獄に落とされるだけだから」
「それはいいんだけどさ。なんかここってしょぼくね? というか屎泥処とここ入れ替えた方がいいんじゃね?」
あ、ヤミーさん目を逸らすな。
ヤミーさんも思ったんじゃん。地獄としての罪科を償う方法がたまに合ってないって。
この罰が屎泥処十倍キツイ地獄なわけないじゃん。
「とりあえずこれで三つ全部の小地獄を巡ったってことでいいのか?」
と、考えてたんだけど、どうやら適当な地獄を勝手に作っちゃったっぽい。
次の小地獄まで向かうと、そこは鉄窟地獄となるらしい。
一応それっぽい地獄追加されてたようだ。
「あ、十往心論に出てた地獄だと思いますよヒロキさん。黒縄地獄のことを指す地獄らしいんですが、ここだと小地獄の一つになるみたいですね」
どうでもいいけどここって結局どんな地獄?
あ。誰も俺の疑問に答えようとしねぇ!?
皆わからないからって放置はダメだろ!?
まぁ、実際には名称不明だし、どんな地獄と考えても結局端折るのは確定か。
ここからは本当に駆け足だった。
何かしらの地獄だろうけど、案内人君すら案内できなかったからなぁ。
気が付いた時には黒縄地獄を通り抜けており、すでに衆合地獄へとやってきた後だった。
ま、考えるのが面倒になったんだろうなってことを覚えておこう。
黒縄地獄について知りたいときは現実世界で死んで実際地獄めぐりした時でいいや。
つまりもうどうでもいいからさっさと行こうぜってことだな。
叫喚地獄だっけか? もうちょっと長そうだけど何とか今日中には辿り着けそうだ。
メンツも一人も欠けてないし、これは今日中にクリアできそうだ。
さて、そんじゃまぁ衆合地獄も駆け足で巡って行こうかね。
ここはかなりの処が名前ありとして稼働しているようだが。ま、多分さっさと通り抜けれるだろ。




