1093.配達イベント
俺たちは五官庁を後にし、閻魔庁を目指す。
ここまで来ると亡者の数もかなり減ってきているようだ。
ここまでに刑罰が確定する亡者が多いんだろう。
とはいえ、最終決定の場所なんだからもうちょっと人が多いと思うんだけど……
ああ、そういうことかぁ。
道中はもういなくて、五官庁の審理が終った亡者しか歩いてないから少ないだけで、閻魔庁に入るところでの時間待ちはあるのか。
そりゃ生前の審査を行っていくわけだから一人一人の審査が長いよな。
「っていうか、あそこに誰かいるな」
「すいませーん」
閻魔庁前を竹箒で掃いていた女の人が居たので声をかける。
「はい、いらっしゃいまし。あら、生身の方がいらっしゃるなんてウチの義兄以来じゃないかしら?」
「えーっと、閻魔大王に会いに来たんですが、話は来てるはずなんですけど」
「ちょっと待っててくださいね」
ぱたぱたと閻魔庁の中へと駆けていくお姉さん。
幽霊だろうけど、結構可愛らしい姫カットのお姉さんだったな。
「ちょーっと、だーりーん?」
「また鼻の下伸ばす、なの」
いひゃいいひゃい。ヤミコさんなのさん左右から頬引っ張らないでくれます?
あとブキミちゃんは俺の首引っこ抜こうとしない。引っ張ろうとしないの。死んだら即座に復活はしないからな。
「ヒロキは脆弱だわ。もっと復活しなきゃ」
「なんでブキミちゃんに首引っこ抜かれるために復活しまくらなきゃいけないんだよ。さすがに俺にはむりだって。帰ってからマイノグーラさんにお願いしなさい」
「はーい……」
「おまたせしましたーっ。閻魔さんがお会いになるって。義兄も待ってるそうなのでこちらにどうぞー」
義理のお兄さん何者なんです?
ところでお姉さん、結婚とかしてます? あいた!? やめてヤミコさん。脇腹抓らないで。
「あはは。ごめんなさいね。私には好きな人いるから」
あ、そっすか……残念。
「ちなみにその好きな人って有名な人だったり?」
「どうかしら? 私の死後のことはよくわからないけど、ウチの義兄は小野篁って言うんですよ」
「ほわっ!?」
「ほわ?」
思わず変な声出ちゃったじゃん。
っていうか案内人君、なんか小野篁さん閻魔庁にいるじゃん。最初の方にいるんじゃなかったの!
「さすがに運営さんがどこに配置してるかまでは僕責任持てませんよ」
まぁそうだろうけども。
「ちなみに、今の話で分かったんですけど。こちらの方は小野篁の異母妹さんですね。名前は知りませんけど、小野篁さんと蜜月を過ごしたことで母親に幽閉され、そのまま死んでしまった方です」
「ふふ、その愛の結晶が小野小町となるのですよ」
「マジで!?」
「冗談です。その辺りはぼかされちゃってます」
あ、この人意外と小悪魔系だ。
そんな小野篁の妹さんと閻魔庁を歩いていくと、やがて開けた場所へとやって来る。
おー、アレが浄玻璃の鏡?
「ワンワンッ!」
「わっふ」
お、おお? なんか変な犬っぽいのが案内人君に飛びかかったぞ。二匹の犬に押し倒された案内人君がそのまま舐められまくっている。
「こらサーラ、メーヤ困ってるでしょ。やめなさい」
「ほぅ、二匹が懐くとは面白い人間が来たものだ」
おー、でっか! 閻魔王でっか! 人の何倍あるんだこの人。
「っと、失敬。お初にお目にかかります。ヒロキと申します。こちらは共に弥勒菩薩様にお願いされた依頼をこなしてくれる仲間です。右から未知なるモノさん、なのさん、あと二匹の犬に群がられてるのが案内人君です。こちらは俺のテイムした仲間で、右からヤミコさん、ブキミちゃん、ネネコさん、ヘンリエッタさん、アイネさん、クティーラさんと言います」
「ふむ。よくぞ来た人間たちよ。若干名人間でもなさそうなのが混じっているが、まぁよい。篁、時間はどれだけ取れる?」
「そうですね、この状況なら1分少々かと」
「だ、そうだ。用件を聞こう、1分以内に、な」
「ではまず五官王からこちらを」
俺が言うより先に未知なるモノさんが配達を終える。
おっと、俺すでに忘れてたぜ。
あっぶね、持ってなくてよかった。
一分以内とか絶対渡し忘れる奴だぞ。
って、そのまま開けもしないのか!?
「ん? ああ、これは其方たちの人となりを調べるためのモノだ」
「どうでもいいものを運んでもらうことで、ちゃんと運べるか、途中で運ぶものを開かないか。中身だけ持ち去らないか。そもそも渡すのを忘れないか。などを見るためのものなんだ」
あっぶねぇ!? 未知なるモノさんに渡しといて正解だった。
「さて、時間も惜しい、君たちの口から弥勒菩薩の依頼を教えてもらえるかな」
「了解」
本当に時間無いから要点だけに絞って説明しないとだな。上手く伝わるといいんだが。




