1092.天秤を掲げよ
「アヌビス殿、ヒロキさんたちがエジプトの冥府に来ることはまずないのでは?」
「む? 言われてみれば確かに……ふむ。ではこの天秤をやろう」
小さい天秤貰っちゃった。
「何ですこれ?」
「解決の天秤だ。解決したい事象を片側に乗せれば、それに釣り合うまで自身の持つアイテム、金、その他を使い必ず解決させることができる」
あー、つまり課金で限定キャラ手に入れるようなもんか。
必ず解決できるけど、その分金がかかりますよって奴だ。
たとえば、この世界の統一国家の王になりたい、とか願うと、そうなるために必要な対価をもう片方の天秤に乗せて、上手く釣り合う様にできれば、本当に統一国家の王様になれるってことだ。
もちろん釣り合う対価がなければ自分を質に入れねばならない。腕を無くしたり、病気になったり、呪いを受けたり。そういう対価が必要になってくるのだろう。
ん。これって。もしかしてパープル君を男性に戻す、という事象を解決することもできるのでは?
うん、気付かなかったことにしよう。
多分これに気付いたのは俺だけみたいだし、パープル君はネコ娘のままの方が俺的には嬉しい状況だから放置で。
わざわざ男に戻す必要とか、ないよねー。おっと、本音が。
「さて、天秤が修復できそうなので完成し次第アヌビス殿は解放となります」
「うむ、想定よりも幾分早く終わるようで何よりだ」
「では、ヒロキ君、キミたちはこれから閻魔庁へ行くんだったね。でしたらこれを届けてくれますか?」
「いいですけど、コレなんです?」
「この地でやらかしたプレイヤーたちの閻魔帳です」
おおう。なんでそんなもの運ばされるんだ俺?
「中は見ないようお願いしますね」
「あー、了解」
これ配達イベントじゃん。
俺は思わず案内人君を見る。あ、目逸らしやがった!?
未知なるモノさんっ。
「あー、はいはい、お前だと好奇心に駆られて見そうなのな。俺が預かっとくよ」
「おなしゃっす!」
馬鹿なプレイヤーが天秤壊したんだろ。
それで餓鬼道墜とされたんだから笑えんよな。
「ちなみにこのプレイヤーたちって戻って来るんです?」
「ええ。プレイヤーなので数日餓鬼道で過ごしたら現世に戻る様になっています。大変ですよ。常に周囲に気を配ってないと餓鬼に取り付かれて貪られますし。憑りつかれたら飽くなき飽食による飢餓を味わうことでしょう」
悪夢かな?
絶対にそのプレイヤーたちゲーム辞めてるだろ。
「地獄に来てんのに王様の前ではっちゃけるんだから相応の罪は受けるよな。自業自得だぜ」
まぁそりゃそうなんだけどね。
マイネさんとか地獄には連れてこられないな。
多分自縄自縛して修羅道か餓鬼道。最悪阿鼻地獄まで真っ逆さまかもしれんな。
「あ、そうそう。せっかくなのでお聞きしますが、俺の知り合いのマイネさん、地獄に来たら罪って何になるんです?」
「今のところは死活等処ですかね。正義の味方ではないのに正義を施行し罪なき人々を焼き討ちにした罪です」
やっべぇ、反証できねぇ!?
確かによくよく考えればマイネさんマンホール少女にはなれるけど正義の味方として承認されてねぇや。
そのうえコープスというかヘドロというか、無数の人たちを生きてる方が辛いだろうから、って理由で焼き殺した上に、その炎で商店街の人まで焼いちゃったからなぁ。
「えーっと、死活等処っていうと、大叫喚地獄ですか? 確か殺生・盗み・邪淫・飲酒に加えて、嘘をついて人をだますなどの「妄言」の罪が加わった者が落とされる場所の小地獄ですよね」
「はい。邪淫や飲酒を抜いてもあまりにも非道な行いですので。もしも地獄に来るのであれば、問答無用でそちら行きでしょう」
マイネさん……
「マイネの奴、結局自業自得っぽいな」
「それはそうなんですけど、なんというか、理不尽感も強いっていうかさ。見てると可哀想になるんだよなぁ。放っとくとどんどん落ちていきそうだし。そういう人救うのも、地獄の王たちの役目でもあるんっしょ?」
「ええ。罪人は罪を認め罰を受けるか、あるいはその罪の分誰かを救わねばなりません」
「その火事で死んだ人たちは、本当にただ焼き殺されただけでしたか?」
「ふむ……良い着眼点ですヒロキ。彼らの一部はマイネに感謝しておりました。殺してくれてありがとう、と。ゆえに救済措置は十分あるでしょう」
言質、頂きました。
天使裁判でこれは有利にできますよ。やったねマイネさん。地獄の王様から太鼓判貰ってやったんだからあとでなんかお礼してくれるの、待ってるからな。
「さぁ、閻魔が待っています、皆さん、そろそろ出立なさい」
五官王に促され、アヌビスさんに見送られ、俺たちは五官庁を後にするのだった。




