1089.宋帝庁へ行く前に
初江庁を後にした俺たちは、次の宋帝庁向けて移動を始めていた。
「では宋帝王に関してですが、えーと、宋帝庁は三途の川の畔にあるらしいです。なのでこの川沿いを歩いていくと辿り着くわけですね」
「亡者の行程が凄く面倒になってるみたいだけどな。あっちの道行けば亡者たちの向かう道らしいけど、だいぶ大回りするみたいだな」
「また審理に一週間かけるのでゆっくり歩かせるつもりらしいですね。途中で休んでる亡者とかもいるようです」
「ヒャッハー、供物おいてけぇ!!」
お、なんか出て来たぞ。
「それから、ここ賽の河原の向こう岸に当たる場所には懸衣翁さんたちが何人もいるんですけど、その合間合間には頭のおかしい亡者が盗賊みたいなことしてるらしいんですよ。当然獄卒に見つかったら強制的に刑罰受けるんですけどね。最悪三途の川に蹴落とされるらしいです」
「おい、テメェら無視すんじゃねぇ! 俺らは泣く子も黙る龍園団のぼろぉ!?」
「あー、ブキミちゃん、相手まだ喋ってるでしょ」
「だって、引っこ抜きたかったんだもんっ」
せっかく出て来た亡者たちはブキミちゃんに首をねじ切られてその場に倒れた。
「あ、アニキぃ!?」
「ひぃぃ!? アニキの首が!? 幽霊なのに!?」
そもそもブキミちゃんも悪霊だから霊同士だよね?
「くぅ、やってくれたなテメェら! 俺らは亡者、この程度じゃしなばりゃっ」
せっかくくっついたのにまたねじ切られちゃった。
はぁ、仕方ない。ブキミちゃん、適当に遊んだら追いついてきてね。こっからまっすぐ宋帝庁に向かうから。
「うん!」
「は? ちょ」
「ちょい、お兄さん、その危険なお嬢さん野放しは……あ、やめ、人体はそんなにまがらなばぁっ」
「あはははは、たぁのしぃ――――っ」
ブキミちゃん、最近マイノグーラさんの首引っこ抜いてないからストレスたまってたのか。
まぁ存分にストレス発散しておくといいよ。
俺たちの首引っこ抜かれるよりはましだし。
「死なないって、いいね。何度でもすっぽんできるね! あそぼ、あはは。もっと遊ぼうっ」
うんうん、お子様が凄く楽しそうにしてるや。
悪いんだけど君たちブキミちゃんの相手してあげてね。
もともとそうするために来たんでしょ? じゃ、よろしくね。
「あの、良いんですか、アレ?」
「ブキミちゃんがほら、ここは俺に任せて先に行け、と言ってるんだから、俺たちは彼女を信じていくべきだろ」
「あれ? 言ってましたっけ?」
謎の盗賊たちはブキミちゃんにお任せし、というかブキミちゃんのストレス発散を彼らにお任せし、俺たちはさらに先へ行く。
「あ。そこの鬼さんちょっといいっすか?」
丁度ここらへんを巡回中だった様子の獄卒が二人いたので話しかける。
変に逃げたり挙動不審にするより、こういうのはこちらからにこやかに挨拶する方が怪しまれないのだ。
「ん? こんな場所で何をしている? 亡者たちの進む道からは外れているぞ?」
「宋帝庁への道、こっちのが近いんで」
「いや、亡者なら移動を指示され……おや? 君たち肉体持ちか?」
「うす。ちょいとイベントで地獄に来てます。んで、ですね。ウチの仲間が向こうの方で盗賊と遭遇して殿勤めてくれてんですけど、よかったら盗賊の捕縛お願いしていいですかね。十人にいたみたいなんです」
「何だと!?」
「援軍を呼んでくる、少し待て!」
一人が援軍求めて走り去り、もう一人の獄卒が俺たちから事情を聞くようだ。
「大丈夫なのかい、その、残った人は」
「ええ、むしろ盗賊たちの方が、可哀想、かな? あ。それで捕まえるのはいいんですけど、ブキミちゃんが満足するまでは手を出さないようにして貰っていいですか? 下手すると皆さん迄遊ばれるかもなので」
「う、うむ?」
よくわかってないようだけど、現場見たら理解はするだろ。
「すまん待たせた」
「君たち、気を付けて行きなさい。残った人は責任を持って宋帝庁に届けよう」
「うす、向こうで待ってます」
これでブキミちゃんが迷うこともないだろ。
「まさに外道なの。そこに痺れる憧れる、なの!」
なんでだよ!?
「いや、外道だろ。まさか自覚ないのかヒロキ。お前、あの盗賊たちに首を引っこ抜かれ続けるトラウマ植え付けたうえで獄卒に捕まえさせるんだぞ」
「犯罪者は獄卒に捉えられるのは当然っしょ?」
何を言ってるんだい未知なるモノさん? あ、その何言っても無駄かって顔はなんだよぅ。
「あ。ほら皆さん、宋帝庁が見えてきましたよ!」
おー、アレが宋帝庁か。うん。初江庁と作り同じじゃね?
これ、三途の川渡る場所によっては間違えて宋帝庁の方に最初に行かないか?
まぁ俺には関係ないし問題はない、か。




