1088.初江王に紹介状を
「む、何だ貴様等は! ここは初江王様の審理場だぞ。順番を待て順番を!」
「あー、すいません。俺ら弥勒菩薩さんから依頼を受けてきまして、叫喚地獄にある分別苦処に行きたいんですけど、どうやって行くのが聞きたくて。ああこれ、一応紹介状です」
「ふん。出鱈目を……」
どうでもよさそうに紹介状を一応開いた審理場入り口の門番鬼さん、読んだ瞬間目を見開き震えだした。
「れ、れん……お、おおお、お待ちくださいすぐに連絡してまいります!」
お、おう? なんか血相変えて走り去ってったな。あのー、門番の仕事どーすんの?
まぁもう一人いるからいいんだけども。
それからしばし、待たせて貰う。
亡者の列、ほとんど動かんなー。あ、一人分動いた。
ほー、大体一人数分から数十分ってところか。本人の罪状によって時間が変わるらしい。
「お待たせいたした! 初江王様がお会いになるそうです」
「うぃーす。んじゃ通ります」
「案内人が来ておりますのでついて行ってください。広いので迷子になってしまうと一生出られなくなりますよ」
そんなばかな、と思ったけど地獄だしありそうではあるトラップだよな。
案内された場所だけ向かうようにしよう。
額に一つだけ角のある鬼さんに案内されて、俺たちは議場へと向かう。
おー、なんか偉そうな人が座ってる場所がある。
少し離れた場所に一人の亡者がいて、彼の審理を行っているらしい。
「ふむ、倶生神の話では其方は今より50年241日前の日にコンビニから商品を盗んだはずだが? それでも一切盗みは行っていないと?」
「そ、それは……」
「さらにこれで味を覚えて二度、三度、一年の間に二十回と一度の未遂を行っているな。補導を受けて辞めたようだが、盗みをしていないと?」
これは、すげぇ、自分の人生で行った悪行全部筒抜けかよ!?
「懸衣翁からの罪の重さを鑑みても、ただ盗みだけでは終わっていないな。さて、其方自身に聞こう。他には何も、していないのか?」
「し、しておりません! 私は潔白です! 天国に、妻と息子の居る天国に向かわせてください!」
「これは、我が審理では不要なことではあるのだが、その妻と息子は何故死んだのかね」
「……」
「話にならんな。其方は宋帝王の審理に向かうが良い。閻魔帳を宋帝庁へ届けよ。審理は終わりだ。次の……の前に、其方らの話を聞こう」
おおう、こっちギロっと睨まれた。
釈迦如来に権現したらしい人だけど。さすがに審理を行っているからか顔がいかついな。
「とある方から紹介状を書いて貰ったそうだな」
「とある? 懸衣翁の一人に紹介状を書いて貰いましたが? 十王の誰かに見せれば話を聞いてくれる、と」
「ふむ、そういうことか。それで、なぜここに来られた? 生ある者は基本地獄に来ることはないはずだが? それも生身のままとは驚いた」
全然驚いているようには見えないけど、それを指摘するべきではないんだろうな。
「俺たちが来たのは弥勒菩薩様に依頼を受けたからだ」
「ほぅ、依頼? しかも弥勒菩薩から? それはまた稀有な存在だ。偽りなくば、申してみせよ」
「叫喚地獄にある分別苦処、そこで亡者が立てこもりをしているとか。俺たちはその解決をしてくれ、と弥勒菩薩に依頼されました。理由はよくわかりませんし、獄卒たちだけでは解決できない、という訳でもなさそうですが、依頼された以上は向かおうと思い、来た次第です」
「そうですか。少しお待ちいただけますか」
お、おお? さっきまでの威圧するような顔から仏様みたいな穏やかな顔に!?
これはマジで下手な動きや言動しない方がよさそうだな。
皆、余計なこと言うなよ。特にブキミちゃん。
「ふむ、ふむ。理解した。其方たちへの依頼は十王全員に共有しておく。これが紹介状だ。ここより宋帝王、五官王、閻魔王へと至りなさい、閻魔より地獄の案内人をお付けしましょう」
「ご配慮痛み入ります」
「本来は地獄内部で解決すべきものを他者に頼るのです、このくらいの骨はいくらでも折りましょう。出来得るならば私自ら地獄案内を行っておきたいところですが、ご覧のように亡者の審理があるのです」
「心得ております」
「それでは、次の場所へお向かいなさい。其方、お客人の御帰りです、入り口まで丁重に送りなさい」
「は!」
なんか、最初に来た時はものすごい威圧的なおじさんだったのに、今は聖母にすら見える慈愛に満ちた顔で送り出してくるおじさんになってしまった。
やはり礼儀、礼儀があるからこそ相手も礼儀を持って返してくれるんだ。
「ヒロキ、暇」
ブキミちゃんはもうちょっと欲望を押し留めた方がいいと思うな。
「ああ、でもヒロキ君、一つだけ」
「ほっ!?」
「キミのテイムしたキャラがここに来た場合ですが、ほぼ確実に地獄行なので、そこは覚悟しておいてくださいね」
「あ、ハイ……」
ウチのテイムキャラのほとんどが殺害って罪なの? って奴ばっかだし、悪霊多いもんな。




